三十二話 巨影 迎撃戦
アクセス解析見てたら結構な人数の方が最新話まで到達してたので投稿します!
雨が降りしきる夜の田舎道。
爆風と衝撃が走り一部の古い家屋は倒れた。
ドドン!!
街路樹の何本かは折れて道をふさいでいる。
真っ黒な風が吹いて壊れかけた電柱のライトがチカチカとしている。
その場所で交戦するものは2体。
一人は深淵の怪物だ。青い光を放ち、強引な攻撃をねじ込み相手を文字通り削る。
対するのは巨大な影。
先刻の3体の影が握りつぶされた後、山から現れたそれこそ山そのもののような巨大な影だ。
木々をなぎ倒し、踏むだけでアスファルトにひびを入れた。
ずんぐりむっくりとした大きな体に比較的短い脚が四本。
比較的小さいだけで足だけでも一階建ての家くらいはある大きさだ。
長い首の先によくわからぬ塊がついている。
白いなにか光のようなものが見えるがその他は見ても何があるのかは分からない。
深淵の怪物はその巨体にひるむこともなく猛攻を加える。
右手はもうひび割れてしまって、殴るには心もとない。
怪物は地面から大剣を引っ張り出して力任せにぶん殴る。
ガンッ! ズドンッ!!
『オオオオ!!』
巨体をも揺るがす怪力に影も手を焼いているようで真っ黒な煙のブレスで迎撃する。
怪物は強引に体をひねって回避する。
だが完全に避けきれるものでもなくブレスは怪物の体に付着して動きを阻害していた。
まるで真っ黒な泥状に変化する。その塊は重い上にベタベタとしている。
「!」
とつとう右足がうまく動かせなくなった。
その強度たるや怪物の力でも強引に外すことができない。
影は巨体を持ち上げて、怪物を地面ごと押しつぶす。
まるで小規模の地震のような振動と轟音が響き怪物の鎧にも簡単にひびが入る。
もがく怪物も巨体そのものを押し返すことはできず、もがくだけ。
影は大規模なブレスを放ってそのまま怪物を覆いつくしてしまった。
そして静寂が訪れる。
あれだけ暴れまわっていた怪物はようやく大人しくなった。
数時間戦い続けた影はゆっくりと後退する。
しかし。
黒い塊が青い光とともにはじけ飛んだ。
辺り一面を覆うように暗く青い光がほとばしり地面ごと音もなく粉々に吹き飛ぶ。
『オオッ!?』
当然影の巨体もその対象となり青い光が内側からものすごいエネルギーで爆発する。
影はもだえるように倒れ込み数回もがいた後必死に山の中へと逃げていった。
怪物の光は失われ鎧が砕けて時雨に戻る。
アビスの自己回復能力でも補いきれないほどの傷が痛み、すぐに時雨はその場で倒れ込む。
その夜は激しい雨が降り続けた。
――――
『ごめん。冬樹』
時雨は何もない真っ白な空間で、目の前に立っている冬樹に頭を下げた。
『今のは仕方ないさ。でも…大切にしてくれてありがとうね』
冬樹はにっこり笑った。
でもなんだか切なそうな笑顔だった。
時雨はそれを見てきゅっと胸が締め付けられる。
『そんなに気にしないで。それよりもだ。あの影。また降りてくるよ。』
冬樹は真剣な声で落ち込む時雨に声をかける。
そうだ。アビスの力で強引に撤退させただけだ。
影と狙いが同じならば時雨か陶器を追って再び降りてくることだろう。
そうなった場合、町に再び脅威にさらされることになる。
必ず止めなければならない。
だが、暴走したアビスを使って撃退することしかできなかった。
制御できるアビスの力では届かないし暴走させるのも危険だ。
時雨が何とかできる相手じゃない。
『まあここまで被害が大きくなればすぐに京から援軍が来る。一人じゃないよ。』
確かにそうかもしれない。
だが時雨は悔しかった。
多くの人が被害を受けて傷ついたのだ。
自分が強ければ防げたはずの被害ではないか。
また自分の弱さのせいで傷つくのを見るのは嫌だ。
ぎりぎりと力強く拳を握り締める時雨を見て冬樹は問う。
『やっぱり悔しいよね。なんとか役に立ちたいよね』
わかるよ。やっぱり君は僕だ。と冬樹はつぶやいた。
手を差し出して冬樹は不敵に笑う。
『あるよ。なんとか役に立つ方法。君と僕の二人なら。』
時雨ははっとして顔を上げる。
差し出された冬樹の手をつかんで立ち上がった。
『詳しく教えて。』
時雨はまっすぐ冬樹を見つめる。
『ああ。』
――――――――――
翌朝になって朝日が目に飛び込んできて時雨は目を覚ました。
時雨が気絶している間に町の人が運び込んでくれたようだ。
簡易のベッドから体を起こそうとして激しい痛みで寝転がらざるを得ない。
とても起き上がれるような状態ではなかった。
「いっでで…」
「目、覚めたか」
親方が声をかけてくれる。
親方は右腕を骨折しているようだ。
白い包帯で支えている。
涙ぐむ女性が、親方のシャツの背中の部分をぎゅっと握りしめている。
昨日の影の集団が町に襲い掛かったらしい。
時雨が相手していたやつ以外にもたくさんいそうだ。
だが大きな音とともに影が一気に退散していったそうだ。
そして町のはずれに大きな影が出現したとのこと。
死人も何人か出たらしい。
近くの小学校の付近には避難した人もいたようだ。
けが人は親方を含めて多数。手足を失った人もいるらしい。
「…ごめんなさい」
「なんであんたが謝る」
時雨は謝って親方がすぐに言い返した。
「…守れなかった。僕がいたのに」
「何を言う。あんたがいなければもっともっと被害が大きくなっていた。お前は多くの人を守った。あの大きな影が町の中にまで入っていたら街自体存続が難しかっただろう。」
「…」
時雨は黙り込んでしまった。
親方が、味噌汁食うか?と言ってすすめてくれたのでありがたくいただいた。
味噌汁の温かさが身に染みた。
目をこする時雨の横で、親方はただじっと黙っていた。
――
それからおよそ1日経って何人か京と山荘から援軍が来てくれた。
京からは幹部の赤城姉妹。
一人はセミロングヘアに乙姫のような丸い円を描く髪型。
釣り目が特徴で緑色の瞳が輝いている。
赤を基調とした戦闘服は相当上質なもののようだ。持っているのは薙刀。
こちらもわずかに赤みを帯びた刀身に、深い緑色の柄。
もう一人は妹さん。
こちらは赤黒い和弓を携えている。
服装は弓を引きやすい弓用の防具。カラーリングはほとんどおなじだ。
目の色も髪の色も姉そっくりだ。
異なるのは髪飾りとタレ目。
似てはいるけど見た目通りの性格をしているから判別に困ることはない。
山荘からはるぅが来てくれた。
いつもの白と水色の軽装にクナイとメリケンサック。
ふんす、と気合を入れているようでずっと念入りにストレッチとアップをしている。
今回現れた影は被害から想定して幹部の派遣もある他、京の人員と比較しても実力がある山荘の人も派遣された。
知らせを聞いた高屋は泡を吹いて倒れたそうだ。
(また心配かけた…)
時雨は嫌な顔をする。
これじゃ確かに問題児だ。
これだけのメンバーが集まれば流石に大丈夫だと信じたい。
だが相手は侮れないほどの巨体と得体のしれないブレス。
まず自分がアビスとして確保した情報はすぐに共有した。
赤城の姉さん…あまねさんは「やるじゃない」と少し感心したようだった。
普通に考えてまだ新人が戦える相手ではないはず。
いくらアビスがあるとはいえどそこまで戦ったことをほめてくれる。
だが時雨はまだまだですと少し渋い顔で返す。
「傷の方は大丈夫?」
妹さん…あやねさんが聞いてくれる。
ちょっとした医療術のおかげで回復している。
だが傷の深いところはまだまだ痛むし、完治したわけではない。
なんとか動けるというだけで積極的に戦場に出るにはまだ足りない。
今回の作戦の中ではこれが問題にならないように作戦を立てた。
何らかの要因で狙われていると思われる時雨が囮となって周りが攻撃する算段であった。
移動の際にはるぅが運び、主に攻撃するのは赤城姉妹である。
必要に応じてるぅも攻撃に回ることもあるが深入りはしない。
町のはずれの大きく開けた場所。
もともとは家もいくらか立っていた場所だが影とアビスの交戦によりだいたい吹き飛んでしまった場所でもある。
あまねさんがそこで待機して、少し離れたところにある電波塔の上であやねさんが構えるらしい。
るぅと時雨はあまねさんのやや後方に位置する。
時雨は義手を装着し準備を整える。
「…来ました」
るぅが静かに告げる。
今度は山から直接出てくるのではなく地中を掘り進んできた巨体が土を押しのけて姿を現す。
午前中のやや曇っている空の下、不気味なほど真っ黒な巨体が佇んでいる。
夜だからあまり感じなかったが明るい場所で見るととんでもなく不気味だ。
息をのむ時雨。るぅも思わず身構える。
「久々に手ごたえがありそうなのがきたじゃん…!」
あまねさんは一人零す。
不敵に笑いちょっと怖いくらい狂暴な笑みだった。
彼女が一番前でなければみんな怖がってしまっただろう。
静かに薙刀を構えた。
赤い刀身がわずかに光を反射する。
そして爆ぜた。
否、爆ぜたかと見間違うほどの速さで跳躍したあまねは勢いそのままに影を切り裂く。
刀身よりもはるかに大きな斬撃が鋭く巨体を削る。
そこから加速するように連撃を加える。
彼女の能力は「拡張」と「複撃」。
「拡張」は、斬撃の範囲と威力の両方を大きく伸ばすことができる。
「複撃」は、攻撃を2回に増やすことができる代物である。
攻撃範囲と手数の多さを活かすことで大型の相手や白兵戦に長けた前衛である。
影から見れば圧倒的に自分よりも小さな相手が、自分以上の力で攻撃してくる状態に他ならなかった。
『オオオ…』
声帯はないのか叫んでいるように見えても不気味な重低音しか聞こえてこない。
身をよじり、後退する足を、あまねが勢いよく切断する。
ズズン…
ザンッという大きな音がして巨体が体勢を崩す。
倒れながらも無理やりブレスを使ってなんとかあまねに反撃する影。
「はあああああああああっ!!」
薙刀をプロペラのように高速回転させて霧状のブレスを流しながら即座に軽やかな動きで対処するあまね。
幹部というだけあって対処が難しそうな攻撃も軽々対処してしまう。
そしてはるか遠くから、赤い彗星のような矢が巨体を穿つ。
ズパアアン!!
人2人くらい入ってもいいくらいの大きさの穴が瞬時に空く。
はるか後方の電波塔の上にいるあやねさんが狙い撃ちしているのだ。
火力は十分。矢そのものが小さいにも関わらず体に穴を開け、強引に内部まで攻撃を届かせるほどだ。
彼女の能力は、「貫通」と「拡張」。
拡張はあまねと同じ。姉妹というだけあって使い方に差があれど能力が似ているようだ。
貫通は攻撃の貫通力を底上げするというもの。
その性質上、今見ての通り大きな相手に有利だ。
しかしただではやられない影。
再び潜行し、視界から消える。
振動があたりへ波及していく。
流石にあまねでも振動に足を取られて一瞬動けなかった。
「ちっ!!」
影が移動したのは時雨のいる位置。
るぅは素早く反応して時雨をお姫様抱っこして飛び上がる。
「危ない」
高い跳躍をした後、下から遅れて飛びあがるように影が負い抱えてくる。
影の長い首も相まって頭部らしき場所はるぅに瞬く間に迫っていく。
このままでは食われると時雨が思うとるぅは時雨を斜め後ろへ投げ飛ばす。
るぅの体はその反動でその反対方向にずれた。
「ふんっ!!」
るぅはギリギリで回避して、緑と淡い青色のスパークを纏って思いっきり殴りつける。
るぅは火力こそそこまで高いわけではないが、特殊な電撃を纏った連撃により影に確実にダメージを与えていく。
さらにあやねの追撃。
次第に影の体は横に傾きそのまま倒れていく。
影は強引に足を付いて再び潜行する。
時雨は上空からなんとか液状化を使って無事に着地する。
るぅも軽やかな動きで着地してすでに周囲を警戒していた。
そして大きかった振動は次第に感じられなくなった。
「逃げた…?いや」
合流したあまねさんが周囲を警戒する。
るぅも同時に何か仕掛けてくると踏んでいるらしくかなり耳が立っている。
「!」
一番早く気が付いたのは異変に気が付いたのはるぅ。時雨を抱えて急いで跳躍するが、遅かった。
地面の下からあふれんばかりの黒い霧が噴き出し辺り一面を覆ってしまった。
跳躍したも空しくすぐに霧の中に取り込まれてしまう。
周囲はまるで夜の闇に包まれたかのような暗さ。
それに変な油のような臭いで充満するし、体が重くなって行動が難しくなる。
「るぅ…大丈夫?」
「…ちょっとまずいかも」
時雨は顔は見えないが近くにいるるぅに声をかける。
るぅは時雨に体が重くなって機動力が下がったこと、そして鼻が臭いに耐え切れずめげたことを話した。
「あまり役には立てないかも」
るぅは悔しそうに話す。
鼻が利かなくなったことで感覚の一つが使い物にならない状態。
おまけに視界は非常に悪いので相手の場所がつかみにくい。
「!来る」
聴覚でなんとか周囲の状況を把握し、るぅは強引に跳躍する。
しかし機動力が下がったこと、相手のリーチがわからないこともあって攻撃を食らう。
「あぐっ!?」
大きく跳ね飛ばされるるぅ。
飛ばされた先でコンクリートの塊にぶつかりコンクリートを突き破ってさらに転がっていく。
巨体ということもあってかかなりの高威力で、るぅの額から血がどろっと垂れてくる。
「やるぅ…」
時雨はその様子を把握できるわけではなく、完全に何も見えない中で一人戦うことになる。
るぅの声で攻撃を受けたことがわかるだけ。
次に狙われたのは自分。
まるで剣山みたいな鋭い塊が時雨に刺さってくる。
ほとんど何も対応できずもろに食らった時雨の腹を貫通し、大量の血を吐く。
「っ!?」
時雨は状況がほとんど理解できず突然の痛みに困惑する。
ドドドドと大きな振動が響き、すぐに行動しなければならないのに時雨を穿つ謎の塊が時雨を自由に行動させない。
まずい、と思ったところを激しい風を切る音が状況が一変させる。
「おらあああああっ!」
激しい雄たけびとともにあまねが猛攻を加えているようだ。
再び地中に撤退していく音がする。
あまねは時雨を見つけて、しまったという顔をする。時雨には当然見えない。
あまねは時雨に声をかける。
「時雨。下手に動くな。死ぬぞその傷は」
時雨からしたら何も見えない。
「ど、どういうことですか…?」
「腹に穴が開いてる。」
「っ!?」
るぅが合流したようだ。足音がする。
るぅとあまねはこの闇の中でもある程度は見えているようだ。
「るぅ。この子を連れて、あっちの方角へ突っ走ってくれ。」
あまねはるぅに指示する。
るぅは「わかった」と言って駆け出す。
影は地中から再び襲い掛かるが、そこをあまねが切り刻んで簡単には攻撃させない。
るぅの機動力が落ちているとはいえそれでもかなりすばしっこい。
『オオオ…』
10秒ほどの間に、霧の外へ抜ける。
闇から出たばかりのるぅたちを空中へ躍り出て回転しながら食おうとする影。
その影を赤い雨が襲う。
バシバシバシ!!
曲射によるあやねの連撃。
分散したと言えど影に無数の穴をあけるほどの威力。
さらに引き絞った矢が穿つ。
ヒュンッ! ズドンッ!!
轟音とともに再び影の体に大穴を開ける。
体が大きく傾いて影は横転した。
それにしてもかなりの傷を与えたにもかかわらず、なかなか大きなダメージを与えられているわけではない。
異常なほどタフな影。
今までに加えた攻撃もじわりと回復してきているようだ。
足もいつの間にか生えているし、霧が出る前に開けた大穴も姿を消している。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
思わぬ反撃を受けて影は再び潜行した。
霧は時間経過で消えるのかそれともダメージの蓄積で維持できなくなったのかは不明だがみるみるうちにいなくなった。
後方にいたあやねもすぐに駆け出して戦場に足を踏み入れていたようだ。
ここで全員が合流する。
るぅも、あまねも、あやねもこの点について完全に悩まされていた。
このままではじり貧になって先に体力が尽きるのはこちらの方。
底知れぬ相手のタフネスをどう削るか。
苦い顔をする一同に時雨はあの、と手を挙げて話しかける。
一同の視線が時雨に集まった。
闇から抜けたばかりの目に、日が差して思わず時雨は目を閉じる。
「ちょっと時間を稼いでくれませんか?」
時雨はなんとも自信がなさそうな顔をしていたが目は真剣だった。




