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二十九話 自らの起源

 梅雨らしくずっと雨が降りしきる1日だった。

 庭はあちこち水たまりができて、銀梅花の木は水の重みに耐えかねてぐにゃりと下に下がってきている。


 近くに見える山々もうっすらとしか見えず、空はずっと鈍色に染められていた。


 邸宅の周りを雨音が響く中、時雨は微かな足音に気がついてふと窓の外側を見る。

 

 濡れてぐちゃぐちゃになった庭の土を踏む音だった。

 そして窓越しに彼女の姿を見て時雨は堪らず外に駆け出す。


「美空!」

 

 美空も時雨の出迎えに気がついて嬉しそうに笑った。

 抱きつく時雨を受け止めて少し雨の中くるくると二人で回る。


 空になった袖に触れようとして止める。

 悲しそうな目をする美空だが、一度目を閉じてもう一度時雨を見つめた。


「ただいま」

「おかえり」


 たった一言。

 それでもようやく帰ってこれたことに、二人の喜びの感情がめいいっぱい込められていた。


 家に入ってお互いの積もる話を語り合った。

 優しい居間の照明が二人を照らす。

 

 そんなに長いこと離れていたわけじゃないのに、懐かしい和やかない草の香りと木の香りに美空は少し泣きそうになった。

 再会はホシの元から離れて3日ほど後のこと。


 ――――

 

「僕ね、誰か水関連の能力を持つ人に教えを請いたいんだ。」

 

 話が一区切りすると時雨は美空に相談する。


「美空は、誰かよさそうな人知らない?」


「ううん、正直なところあてがないの…みくも先輩は水メインじゃないし、幹部にも水系統がいないもんね…」


 美空は申し訳なさそうに答える。


 時雨はいいんだ、と笑って見せる。

 また自分でも探してみると言って一度トイレに向かっていった。


 美空はその背中をじっと見ていた。

 雨が強くなって大きな音を立て始めた。


「時雨ちゃん、少し背が伸びたかな…?」

 

 美空はぽつりと零した。



 夜のごはんを二人で久々に食べる。

 ごはんと、鮭の塩焼き、味噌汁、サラダが食卓に並べられていた。


 夜になれば少し雨脚が収まってきて周りは静かになった。


 食卓の近くの窓からは家の前の提灯が見える。

 提灯のオレンジ色の光が跳ねていた。




 ーーーーー


 次の日になって教官の元へ時雨は向かった。

 大丈夫そうな時雨を自分の目で見て教官はひどく安心した様子だった。


 明らかに気疲れしていたのだろう、少し顔色が悪いのでもう少し早めに顔を出すべきだったかなと後悔した。

 教官は今他の人を指導しているために一度席を外す。


「私に相談できることなら今のうちに聞いておいてください。」

 

 補佐の女性が声をかけている。

 昨日美空に相談したことと同じことを相談した。


 ちょっと待っててくださいね、と事務室に書類を取りに行ってまたすぐに戻ってきた。

 仕事が相当早い人なのだろう。


 しばらく考え込んだ様子のまま書類をめくっていく。

 ドキドキする時雨をよそに女性の顔はなんだか険しくなっていた。


「応じられるかは分かりませんけど、高屋さんを訪ねてみてはどうでしょう。」


「高屋さん?」

 

 一度会ったことがある人なので少し驚いた。

 確かに昔京の重要な役職についていた人なので実力はあるはずだ。


「ありがとうございます。訪ねてみます。」


 時雨は礼を言う。

 いえいえ、と女性は微笑んだ。


 武道場を後にして、自邸に戻って美空にも声をかける。


「ちょっとしばらく出かけてくるよ」


「私も一緒にいっていい?」

 

 行先を伝えると、美空の様子からして存在自体は知っているようだ。

 立派な山荘という点に惹かれているらしく目をキラキラさせているが、流石に雨宮さんにどう説明するべきかと悩んでしまう。


 それに前行った時はいなかったが藤原さんもいる場合もあるそうなので美空を連れていくのは気が引ける。

 雨宮さんもどんな反応をするかわからない。


「んん、ごめん美空を連れていくわけには…」

 

 時雨はどう説明したものかと考えあぐねていたが、美空は「わかった。行っておいで。」と言ってくれた。

 時雨は少し驚いた様子だったが、「…うん!」と答えて、支度をして飛び出していった。



 駆け抜けていく背中を見守る美空。


 自分は星の子だからアビスの拠点の一つに行くのはまずい。

 それを美空は分かっていた。


 時雨の様子を見てそれをなんとなく察していた。


 時雨と美空は敵対する立場にある。

 本来ならこんな近い距離にいる存在同士ではない。


 だから今回は付いていかない。

 せっかく会えた家族のような子とまた離れるのは心惜しいけれど。


「それにしても時雨ちゃん…成長したね」


 ちょっと前までの時雨なら、誰かを訪ねることをあきらめて美空と一緒にいたがっただろう。

 それだけずっとべったりなことが多かったけれども、時雨は今や自分から外に出て美空の知らない人に会いに行っている。


 歳は分からないけれども、幼かった時雨の変化を見て美空は寂しいような、嬉しいような気持ちを抱えていた。

 空には曇天のところどころから青空が顔をのぞかせている。


「母親ってこんな気持ちなのかな」


 美空は微笑む。

 まぶしい笑顔だった。


 ちょうど晴れ間から太陽が顔を出して、葉にたくさんの水滴を付けた木々を明るく照らし出す。

 美空は時雨を見送った後しばらくは戸を開けた玄関に座ったまま、外の景色を眺めていた。



 ーーーー


 

「あー、しまった…」

 

 時雨は田んぼの真ん中でふと声を漏らす。

 前回自分で行ったことがあるから、なんて理由で地図を借りていなかったのだがそもそも前回たどった道を覚えていない。


 確か京から出てまっすぐ田園地帯を駆け抜けることは覚えているのだが、肝心なのはどの山に入ったかである。

 行きも帰りも道を覚える余裕なんてなかったので仕方がないこともかもしれない。


 自分の選択について後悔するも時すでに遅し。

 かなりの距離を張り切って走ってしまった。


「ま、なんとかなる…はず」

 

 今回は圧力も利用してさらに速く移動できるのため、前回に比べてかなり移動が楽。

 時々雲の間から照らしてくる日の光が水面をまぶしく反射する。


 時雨はもう一度勢いをつけて駆け出した。


 ――――



 それから20分もすれば山が見えてきて2つ目の山に飛び込む。

 うろ覚えであったが恐らくあっている。


 傾斜も周囲の木々の様子もほとんど変わらない。

 時間帯こそ違うけれどもそこは分かった。


 そうして山道を進んでいくうちに、様子を見にきたるぅと遭遇する。


「あ、いらっしゃい」

 

 るぅは山の中を進んでいるのが時雨と分かるなり挨拶してくれた。


 山全体の警備は感覚の鋭いるぅがやっているらしい。

 すでに高屋さんの方にも連絡が入っていて山荘のみんなにも共有されているようだ。


「念のために見に来た」

 るぅはそう言って時雨を見つけたことに安堵したようだった。


「道に迷うんじゃないかと心配に思ってたから」

 るぅは微笑んだ。


「…うん」


 時雨は汗を流す。

 危うくそうなるとこだったんですもの。


 るぅと会話をしているうちに並び立つ灯篭が見え始めた。

 そこを超えた先の、山の頂点の一角に大きな建物が立っている。


(まあ…そんなすぐ変わったりはしないか)

 

 美空を止めに京へ戻って以来の山荘は相変わらずの様子だ。

 入口の門をくぐるとすぐ見える縁側に高屋さんは座って待ってくれていた。


「あ、時雨ちゃん、お久しぶり」

 

 その横には藤原さんの姿もあった。

 るぅはこの後別の仕事があるから、じゃあねと言ってどこかへまた出かけて行った。


 るぅは跳躍力もあるし足は速いしで、時雨を案内するとき以外は本当に俊敏なのだろう。

 時雨はすぐ見えなくなったるぅを見届けると縁側に向かって高屋さんに挨拶する。


「やぁやぁ、よく来たねぇ  …冬樹も連れてきてくれたんだね」

 

 時雨を歓迎してくれて、その後神妙な顔で時雨を見つめて言う。

 どきり、として時雨は、「知ってたんですね」と寂しげに言った。



 ーーーー

 

『大事な話だよ、二人のね。』

 ついこの前のはずなのに、もうだいぶ前な気がする。

 冬樹に連れられて山荘の下に存在する洞窟の辺りで話をした。


『いいかい、落ち着いて聞いてくれよ、時雨。私と君はもともと一人の人間だった。』


『えっ…?えっ!?』

 

『落ち着いてといったばかりじゃないか』

 

 あきれ顔の冬樹に、時雨はいくらなんでも無茶でしょ!?と答える。


 ふぅ、と息をついて冬樹は無理もないか…と小声で言う。


『でも事実だ。何らかの原因で、いつの間にか君と私に分かれてしまったんだよ。』


『そんなことって…あり得るの?』

 

 時雨は半信半疑で説明する。


『そりゃ普通はないよ。だが実際に私たちは瓜二つだし。みなよ。指紋まで一致してる。双子でもそんなことありえないんだよ』


『そ、そっか…』

 

 時雨は困惑しきってしまう。


『そこでだ。私と君は一つに戻るべきだ。能力も身体能力から霊力に至るまで、君と私で半分こしている。このままだと先は厳しいぞ?』


『そうかもしれないけど…やり方もわかんないし、何よりそれやったら僕か君が消えちゃうんじゃあ…』

 

 時雨は唐突な話に付いていけずともなんとか質問する。

 自分が消えるのも怖いし、相手が消えてしまうのも嫌だと感じた。


『方法はある。それは安心してくれ。それに君が本体にしかなりえない。消えるのはどのみち私だ。』


『…そんな…』


『何をそんなに悲観しているんだ。君が消えるわけじゃないのに。』


『だって…冬樹が消えちゃうんでしょ?』

『ん~?どうだろうね。実は君が知らない間に影響しちゃうかもしれないぞ?』


 ちょっとおちゃらけた感じで返してくる。

 冬樹はまるで自分はお化けで~す、なんて言いたげに手の甲を胸の前でプラプラして見せた。

 でも、なんだか冬樹は本心を隠しているような気がする。

 自分が冬樹の立場だったらきっと同じようにするかもしれない。


 ()()()()()()()()()()


『…本当なの?』

『ああ。約束しよう。』


『じゃあ…お願いしようかな』

『その前に一ついいかい?この狐面、君が預かっててほしいんだ。大切な人からもらった、とっっても大事な狐面だ。どうか大事にしておくれ。』


『あと、そうだな。このことはみんなには内緒にしといて。もし私のことについて聞かれたら、用事があるって出ていきました、ぐらいに言っておいて。』


 そう言って狐面を両手で丁寧に渡してくる。

 そんな簡単に説得できるのか少々不安になるが、時雨はおそるおそる傷つけまいと気を付けて受け取った。

 

 すると冬樹の体は紫色の光の粒子となって、時雨の中に浸透していく。

 やがて時雨の中へと消えていき冬樹は姿を消した。


『…約束だからね』

 

 時雨は物言わなくなった冬樹に届くかどうかわからないけれども、そっとつぶやいて、狐面を大事に持つ。

 心なしか狐面に描かれた口角が、上がったように見えた。



ーーーーー


「ああ。成長してるし分裂してしまっているとはいえ孫のことはだいたい分かっちまうもんさ」

 

 高屋はくしゃっと、嬉しそうに笑った。


「そう…なんですか…え!?孫!?…ってことは…おじいちゃん!?!?」


 言われるまで気付かんかったなぁ!と豪快に笑いだす高屋に、水入らずの会話にさせてあげようと近くでお茶を入れることに専念する藤原。

 時雨は目を白黒させながら驚き以上に会えてうれしい気持ちがこみあげてきた。


「おじぃちゃんって呼ばれるのは超珍しいなぁ!わしも幸せもんよ!」

 

 今までにないくらい嬉しそうな高屋。

 珍しい…?

 時雨がぽかんとしていると藤原さんが教えてくれた。


「高屋さんやあなたみたいな『水の民』は最初は男の子だけど、途中で性転換するから普通おじぃちゃんはいないのよ?」


 驚きの事実ばかりで情報の整理が追いつかない。

 なんかこのまま考え続けたらとんでもない結論に至ってお話どころではなさそうなので時雨は考えるのをやめた。


「…あばば、聞きたいことたくさんありますけど、高屋さんはなんで…?」


「性転換にはホルモンが必要でなぁ、でもその受容体のある器官がぶっ壊れちまって性転換できなんだのよ。」

「そ、そうなんですか…」


 時雨はちょっと気まずくなってしまった。

 体の不具合なんて聞いてしまったのは失礼なような気がする。

 

 時雨の様子を見かねて、高屋は柔らかく微笑んだ。

 

「時雨。もっかいおじぃちゃんって呼んでくれんか?」


「…お、おじぃちゃん」

 

 改めて言うとなると妙に意識してしまって、照れくさくなりながらも時雨は答える。

 本当にうれしそうな祖父を見て時雨もつられて嬉しくなる。


「でもおじいちゃん、水の民…ってことは…」


「…ああ。わしとお前しか、もう生きておらん。」


「…」

 

 時雨は目を伏せた。

 やっぱり。


 少しだけ歴史を勉強した時に名前がちらと出てきた。

 京から離れた場所で暮らす不思議な種族であると。

 そして水の民は十数年前の大事件の際に滅びたと書いてあった。



「でも、母ちゃんならまだ会えるぞ。」

「えっ?」


「北西の方角のな、桐谷っつう場所があるんやけどな。田んぼの道まっすぐ行って山上った辺り。そこが水の民の集落の跡地があるとこで、そこに行けばまだ母ちゃんの意思が残っとるはずや。」


「…」


 にわかに信じがたい話。

 でも会えるのなら会いたいと思った。

 自分の家族について昔から細々ながら知りたいという欲求があったから。

 

「行っておいで時雨。地図はねぇけどな。あんまり知れ渡らせたらあかんもんやから。桐谷まで行ったら後は自分で探しぃ。多分近くに言ったら感覚的にわかる。」


「!…行ってきます。」


「おう、気をつけてな。本当はわしも付いていきたいところやけど、こればっかりは時雨一人で行かなきゃいかん。」


「あと時雨、おいで」


「?」

 

 時雨は高屋に近づく。


 すると高屋はぎゅうっと抱きしめてくれて、「無事に帰ってきなさいね」と優しく言ってくれる。

 高屋の手はそっと右の袖に触れた。

 初めて触れる血のつながった家族の優しさに時雨の目が潤んだ。


「行ってきます」

 

 もう一度挨拶して、時雨は勢いよく飛び出していった。

 時雨は全身を包み込んだ暖かさが残る服を、ずっと片手でぎゅっと握りしめていた。




 ーーーー

 

 言われた通りに北西の方角に向かう田んぼ道を進んでいくと、やがては大きな山々が連なる場所にやってきた。

 そこからなんども鉄道を乗り換えて、バスに乗って、移動していく。

 

 その道中でいろいろあったけれど、それはまた別のお話。


 「おお…?」

 

 ここでは小さいながら人間が住まう土地でもあるらしい。

 田舎らしい道路と付近の山の様子が広がっていた。


 ゆるやかなS字に曲がる、車一台分が通れるほどの坂道を上っていく。

 比較的大きな用水路と道路の間をガードレールが覆っている。


 三面張りにされた用水路のそこには水草がしげっていたり、はたまた丸はげのコンクリートであったりと様々である。


 まだ梅雨時だから数は少ないけれども、トンボの姿も見えた。

 水の中にはいくらかニゴイやオイカワの姿も見えた。


「ヤゴがいっぱいいるなぁ」

 

 京人の視力からすればなんなく見える小さな昆虫の姿。

 そこら中にいるのでやがてはトンボの大群となることだろう。


「田舎…なのかな」

 

 民家はちらほら見える程度。

 離れたところに2、3軒ほどまとまって家があるといったかんじである。


 古めかしい倉庫も並んでいる。

 だがどちらかと言えば畑の方が多い。


 のどかな雰囲気に時雨はなごんでいたが、気配がして気を抜いていられなくなる。


(なんだろう…この感じ)

 

 ざわざわとする心を落ち着けながら、周囲を確認する。

 そして直後付近の倉庫から悲鳴が聞こえる。


「!」

 

 時雨はその声を聞くなりすぐに駆け出す。

 倉庫のシャッターを申し訳ないが破って入る。


 一人の女性が複数の怪人に囲まれていた。

 大事そうに抱えている陶器を守るべく自らの体を盾にしようとしている。


 蛍光灯の光がチカチカと瞬いた。

 6体にも及ぶ怪人が女性に襲い掛かるよりも速く時雨は斬り込んだ。


 常人からすれば目にもとまらぬ速度で怪人の間を縫って進み、怪人を刀で叩き飛ばす。

 水流操作によってその間合いを長く、そして変則的に変化する刀は女性を傷つけることなく怪人を外側に突き飛ばした。


「大丈夫ですか?」

 

 時雨は女性に声をかける。

 もうこれまでと思っていたらしい女性は恐る恐る目を開けて、時雨に驚く。


「あ…あなたは…?」


「しがない旅人です。」

 

 時雨は短く答えて、動かないでくださいねと告げる。

 女性はしばらくぱちくりとしていたが時雨が動き出すと同時にビタッと止まる。


 時雨は再度刀をしならせて、円状に振り回す。

 怪人たちは起き上がって再び女性を狙っているようだった。


(注意がほとんど僕に向かない…女性か…それともこの陶器に何かある…?)

 

 時雨はおおよそ怪人らしくない挙動を怪しみつつも、相手の動きに集中する。


 怪人は6体揃って円状に陣形を展開している。

 まるで時雨の隙をついて女性もしくは陶器を狙おうとしているようだった。


(不思議な感じだ…怪人は普通こんな行動しないのに…)

 

 時雨は攻撃を仕掛けた。

 先ほどと似たような波のような動きで、怪人を薙ぎ払って牽制する。


バチィン!

 

 すぐ近くにいた怪人には命中するが、距離が遠い怪人は避けてしまう。

 時雨はすぐに倉庫の隅々に水を行き渡らせた。


『ッ!!』

 

 怪人は目の前にあった水の塊が姿を消したことで突進してくる。

 直線で様々な方向から攻撃してくる怪人に対して、時雨は先ほど展開させた水を集約して捕縛する。


ドボン!

 

 見事怪人は水の中に取り込まれた。

 溺れるようにもがくが、脱出は容易ではない。


(うまくいった!)

 

 一番ダメージを負っていた怪人は力なく水の中で浮いていた。

 その怪人にかるたを突き刺して吸収する。


 時雨の義手がパチン、と音を立てて一部が開く。


 ちょうどかるたを差し込む穴が出現した。


(これは確か…!)

 鉄に教えてもらった新しい機能。

 先ほど作ったばかりのかるたを差し込み、義手のパーツを手で閉じる。


キイイイ…

 

 義手にエネルギーが集まりオレンジ色の光を放ち始めた。

 そして時雨はそのエネルギーを放出する。


「はっ!!」

 

 四方で囚われている怪人に命中するように、一回転しながらエネルギーの弾をぶつけた。

 ボゴン、という音を立てて怪人がピクリとも動かなくなる。


パチン!

 

 先ほど入れたカードは義手によって自動で排出される。

 怪人の絵が描かれていたかるたはもとの白紙に戻って、勢いよく飛び出して来た。

 時雨はそれをキャッチした後、ほかの白紙のかるたも含めて取り出して怪人5体を余すことなく吸収させる。


(すごい…!)

 

 商店街仮面と戦った後、鉄さんが改良してくれていたのだ。

 京のからくりの主な動力がこのかるたであることに着目し、義手にも取り入れてみたのだ。


 霊力を用いて動く義手本体に加え、かるたのエネルギーを使って攻撃に転用する機能だ。

 だが今のところこの機能が発展途上であり、燃費の悪さもあいまって一度使用したらかるたの力を使い切ってしまう。


 鉄さんはすごいな、と思ってぐっと義手の拳を握りしめる。


「あ…あの…ありがとうございます」

 

 近くにいた女性はおずおずと礼を言ってくる。


「あ、うん。どういたしまして」

 

 時雨は微笑んで返す。


「このあたりの山の中に湖があるって聞いてここに来たばっかりなんですけど、その湖がどこかご存じですか?」


 時雨はそうだと思い出して聞いてみる。


「んん…残念ながら存じ上げないです。でも、もしかしたら親父が知ってるかも。よければうちの工房に一緒に来てくれませんか?」

 

 女性は悩んで答えあぐねていたが、あ、とひらめいた顔をして代替案を提示してくれる。


「!ありがとう。お邪魔させてください」

 

 こっちです、と女性は道案内をしてくれた。

 道中、少しの間話をした。


「ところでさっきの機械なんですか?!見たことないんですけど!それになんか魔法使ってませんでした!?あなた何者なんですか?!」


 女性は目をキラキラさせて質問してくる。


「ああ…えっと…ちょっと待って一個一個答えるから…順番に…」

 

 どう話したらいいものかとたじたじになっている時雨。


 山の天気は変わるのが早い。

 また少しずつ雲が空を覆い始めていた。


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