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2/21

二話 超人

5話までで話の大筋が明確になるので、そこにたどり着くまでは急ピッチで行きたいところ。なので今日は昼と夕方のダブル投稿とします。

世の中は不思議なことであふれている。

 15年ほど前、ある事件が起きた。人類の6割ほどが亡くなったほどの大事件。

 そのころからだろう。怪人と、超人の存在が都市伝説として広く知られるようになったのは。

 

 怪人は人などよりもはるかに強く、家の外壁など軽く砕き、皮膚は銃弾をものともしないほど頑丈である。

 まるで大型の猛獣かのような脅威に晒され、街の中で度々混乱が渦巻いている。

 

 対して超人はどこからともなく颯爽と現れ、怪人から人々を救うとされる存在とされている。

 

 これは星を巡る大きな事件と、その事件に挑む人間と超人の物語。

 


 ーーーーーー

 

 街路樹が待ち遠しいと言わんばかりに、ぱんぱんに新芽を膨らませている。

 朝の温かい黄色味を帯びた日が斜めに差す花壇は、冬の寂しさの終わりを告げていた。

 

 レンガの敷き詰められた古めかしい地面は光に包まれたかのように僅かな熱を帯びている。

 

 

「潜入するぞ。準備はいいか。」

 

 黒く厚い武装をした男の質問に対し、仲間たちは静かにうなずく。

 今日は怪人が町中のあるビルの中に籠っていた。

 ここは小さな店舗の集合住宅のような場所である。

 

 比較的こぢんまりとしたビルの各階にコンビニやらレストランやらが存在しており、普段は賑やかさが嘘のように今はひっそりとしていた。

 

  ビルの中から避難できなかった人を救出するため、警察らしき者たちがビルへ入ろうとしている。

 その日はレストランが閉まっている日だったためか、中にいた人は少なかった。

 

 メンバーの様子を確認したリーダーらしきその男は緊張を紛らわすように昨日上から伝えられたことを思い出す。



「軍用ライフルの使用を許可する。拳銃では奴らを止めるどころか、警官の自衛すらままならない。」



 上司が上に連絡し、より強力な武器を使用する許可が下りたことが男にとって不思議でならなかったのだ。

 

 そこまでしなければならないような生き物のような何かが、なぜつい最近まで姿を現さなかったのだろうと。

 

 確かに未発見の生き物ならまだ地球上にたくさんいるのだろうが、あんなに目立つやつがつい最近になっていきなり話題になるなど…

 

 そしてその未知で恐ろしいやつを相手にしなければならない境遇を嫌だとも感じた。

 だが、男はすぐに思い直す。ビルの中にはまだ人がいる。必ず助けなければならないと。


 無意識下で浅くなってしまう呼吸を制するように、深呼吸をして、ビルへ潜入した。

 

 無機質なコンクリートの壁が彼らの視界に飛び込んでくる。日の当たらない中は冷たい空気が立ち込めていた。


 一階部分には怪人が暴れてできたであろう建物の傷ができていたが、人が襲われた形跡はない。

  

 だが一同を驚かせたのは、二階へ上る階段の前に大きなクレーターができていたことだ。直径は人の背丈の倍はあるだろうか。

 

 自分が標的になったらと思うと先刻決めた覚悟が紐切れのように情けなくほころんでいくような気がした。


 冷たい汗が頬を流れる。

 恐怖心をできる限り抑え込み、周囲を警戒しながら二階へ上がる。

 踊り場を通り、少しずつ上がっていく。


 ほんのわずかな足音が、トン、トン、と響く。

 周りが静かなだけあって、どうしても足音が気になってしまう。


(この音で気付かれるなんて…ことはない…ないよな?)


 

 階段から廊下につながる出口に向かう。

 足音をできる限り立てないようにしつつ、互いにコンタクトを取り合う。



(問題ありません。)

 

 部下のアイコンタクトを見て、漢はひどく安堵した。

 

 仲間が緊張こそしていてもついてきてくれている。このことだけが今、男の依り代ともいうべき支えだった。


 そして皆で周囲の確認をした後、前進して角を曲がると共に奴は姿を現した。


 全体的に光沢があって黒い、筋肉質な体。そして腕は4本。

 

 頭には触覚が備わっており、その姿はアリを彷彿させるが2mを超えようという大きさ。しかも人間よろしく後ろ脚で直立していることが気味悪かった。


 こちらに気づいた怪人は、ゆっくりと振り返って警戒するように男たちを見る。


 この場の全員の背中が、ぞわっとした。

 幸い近くに人はいない。交戦する理由はなかったはずだ。


 しかし男たちは、怪人の動作を攻撃の動作の一部と思い込んだ。思い込んでしまった。

 

 不気味なものを目の前にしたことで生じた緊張のせいもあったかもしれない。

 訓練を受けた男たちでも判断が白く鈍っていたことに気付くのは数刻遅れた後。


 とっさに足の位置を変え、銃を構えた。服のこすれる音。キン、という甲高い銃からなる音が建物の中を響いていく。


 そしてその行動が不運にも怪人との完全な敵対関係を生んだ。

 怪人が明確に臨戦態勢に入る。

 

 構え方はまるで人間と変わりはしない。

 少し片足を後ろに引き、腕を前にして構える。

 

 しかし並々ならぬ体格に加え外骨格であろう表面とその下で明らかな存在感を放つ。

 

 筋骨隆々の体つきが、まるで危険極まりない猛獣を前にしているようでもあった。

 背筋が凍る。


 それでも状況を理解した男たちは瞬時に散解し、崩れていた廊下の壁の影や、すぐ近くの遮蔽物に身を隠す。


  バッ、バッと各自が動き、その数だけ音が鳴る。

 間違いなく洗練された動き。



 そしてほんの僅かな時間で照準を合わせ、それぞれの銃で発砲した。



 ダンッ!

 

わずかにタイミングがずれた、火薬が爆ぜる音。

狭い部屋の中で反響した音は屋外のものよりも大きく多重だ。


 男たちは、あまりの音に眉をひそめる。 

 

 すべて実弾。人間相手なら確実に決着がつくだろう見事なヘッドショット。


 しかしその弾丸はものの数発を残して回避された上に、当たった弾も頭部の堅い甲殻に小さな傷をつけただけに終わった。

 恐ろしいほどの反射神経と瞬発力。

 

 そして弾丸だろうが関係なく弾いてしまうような堅牢な外骨格。

 計5発にも及ぶ銃弾はすべて軽くあしらわれた。


 実際に対敵している男たちには明確な情報は処理しきれない。

 彼らが把握したのは銃弾が特段意味をなしていない事だけであった。


 頼みの綱とも言えた強化銃が通用しないことに戦慄と恐怖が走る。


 キン…キン…チリチリチリ…

 

 硬直していく思考と時間感覚を遮断するように、怪人の神経を逆なでするだけに終わった銃弾が甲高い音を立てて虚しく地面を転がる。



 銃弾の回転が勢いを失っていく中で、突如怪人は目にも止まらぬ速さで動いた。



 刹那、男のすぐ眼前に怪人が迫る。

 ゴウッと風が勢いよく揺らぐ。

 この重量もかなりあるであろう巨体は、ほぼ知覚できぬほどに素早く距離を詰めてきていた。




 男は、死を覚悟した。

 視認できない速度、桁違いの力。圧倒的な格の違い。

 息が詰まるような恐怖に覆われていく思考の中で弱弱しくも絶望的なまでの差に一種の諦めのような感情を抱く。


 だが、覚悟した死は訪れなかった。


 鋭い音とほぼ同時に、怪人がバックジャンプして即座に距離をとったのだ。


 そして少し遅れて欠けた左の触覚がドサッという見た目以上に重々しい音を立てて床に落ちる。


「下がってください」


 突如後ろから聞きなれない声がする。

 誰か入ってきたのか。

 

 若い声だったが故に余計に混乱した。

 もはやこれまでと思っていた体はすぐには動かない。

 再び思考が真っ白になっていく。




 そして、数秒して目を見開いた。二人の若者の姿は自分を庇うように前に出る。


 一人は濡烏色の髪、青空を彷彿させる澄んだ淡い青の瞳。


 青基調の、だぼっとした甚平。身長は160cmに満たないくらいの小柄で中性的な人物。


  僅かに遠くの窓から入ってくる朝日がこの若人の髪を照らす。

 その部分のうち毛先だけは、きれいな紺色に見えた。


 もう一人は淡い桃色のボブカットに黄金色の瞳。身長はもう一人よりも少し高い。こちらは濃い紫をベースとした軽い浴衣だ。


 頭には藍染らしい落ち着いた色のベレー帽を被っており、そこへつけられた雪の結晶をあしらったアクセサリーが室内の無機質な光を反射させる。



 二人とも今時の子が着るような服装ではない。

 臆するような様子を見せもしない二人は妙に頼もしくもあったが、それ以上に名前も知らぬ二人を心配する気持ちの方が強かった。


 その怪物に立ち向かってはいけないと。

 男は声を上げなければならなかった。

 でも、張り付いたように男の声はのどから出てこない。


 そんな男が制止するまもなく、二人は駆け出す。


 怪人との距離はおよそ3m強。


 それと同時に怪人の表情はわからずとも雰囲気の変化は感じた。

 先ほどよりも殺気が強く、そして無駄のない構え。


 まるで男たちを敵ともみなしていなかったかのような変貌ぶりと威圧感に、男はたじろぐ。


 永く思えた刹那の時間は、突如として激しく動き出した。


 軽やかな足音共に、蒼い若者と怪人は互いに距離を詰めていく。

 気付けば若者の服装は普段着らしいひらひらとした和服ではなく、軽装甲だが戦いに身を置く武士のような甲冑へと変化している。


 少なくとも男たちにはその過程は見えなかった。

 

 一方男たちを守るように桃色の髪の少女は距離を詰めない。



 真っ向勝負を挑んだ蒼い若者はあの怪人を相手に押されている様子もなく接近戦をする。

 

 小柄な体格を生かして怪人の懐に入り込み、流れるような動作で怪人を二丁の小太刀で攻めていく。

 

 相手の4本の腕は互いの進路を遮るような形でうまく若者を捉えられない。

 否、若者がそのように誘導しているのだろう。

 

 外骨格をものともせず確実に刀で削っていくその動作のほとんどは男たちにうまく見えなかった。

 それでも。


 (俺は、俺たちはアクション映画でも見ているのか?!)

 

 目の前の非現実的な光景に、男たちは言葉を失った。

 

 男たちの様子に目もくれず、桃の若人は自分たちの目の前で手のひらを突き出し、無数の光線を発する。

 その光線は若者を避けて怪人に的確に吸い込まれるように放たれる。


 ボンッ!

  派手な爆発音を響かせ、いともたやすく外骨格を削り、悲痛なうめき声が怪人から漏れ出た。


 そして約1分かそこらの攻防の後。


「終わらせます」


 その言葉を発したのは青の若人。

 それ同時に光線が怪人の足をうがち、バランスを崩す。

 

 その間に力をためるような形で身をねじり、二本の刀をそろえて、体重移動と身のひねりを利用した一撃。

 そのまま怪人を斜め下から上へ、大きく切り裂いた。



 一閃。


 一拍遅れて左の腰から右上の脇まで衝撃が走り、悶えて怪人の体が崩れ落ちる。

 致命傷を負った怪人は動かなくなった。


 若人は白紙のかるたのような小さな紙を怪人の上に置く。

 たちまち怪人はかるたの中に吸収されて、アリの絵としてかるたに刻まれた。


 

「き、君たち…」

 ようやく男は声を出すことができた。


 この目で見た超人についてもっと知りたいと思った。

 特段深い理由なんてない。漠然としていたけれど、知りたいと思った。


 聞かなきゃいけないと思った。


 でも、彼らはすぐに姿を消した。

 瞬く間にどこかへ走り去ったのか、ワープしたのかはわからない。


 どのようにしてこの場を去ったのかさえ、男たちは知ることができなかった。


 ただ沈黙の中で聞こえるわずかな耳鳴りだけが男たちを包んでいる。


 ――――――――

 任務から帰って、どう上に報告しようかと思い悩んだ。確かに自分の目で見はした。


 でも男の身は公務員である。

 公の組織の人間がそんなこと言い出していいものかということだ。


 公になっている情報では超人はデマであると明言されている。

 そんな事言いだすなんてだめに決まっている。


 そう思っていた。


 しかし男の予想は裏切られた。


「うん、報告ありがとう」

 

 上司はそうしか言わなかった。

 単純に馬鹿げた話だから流しているのかもしれない。


 自分もしかしたら転勤になるんじゃないかとやれやれとため息をつく。公務員である以上今のところクビはないだろうから。

 存外に簡単に受け取ってもらったので踵を返す。


 でも、ふと気になって上司の方へ振り返ってみた。

  男ははてと首を傾げた。

 

 上司は書類を見て、ひどく真剣に何かを考えていた。

馬鹿げた報告を受けたなんて様子なんかじゃなかった。


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