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12/22

十二話 好敵手

さらに新しい同期が登場です。次回は第一部2つ目の山場ですよ!

 時雨は数日の訓練を終えた後、美空の話を聞いて飛び上がった。

 先輩と共に向かった先の任務で面倒な怪人の能力で病院通いになっているということである。


 直葉さんの弟子にあたるヨモギさんに教えてもらった限りでは、しばらく薬を服用してツタの成長を抑えつつ体の免疫組織に何とかさせるしかないというなかなか大変な作業だそうだ。


 霙はつい昨日の晩挨拶に来てくれて足がひざ下まで戻ってきているということを教えてくれた。

 周りのみんなが何かしら怪我をしていることを不安に思いながらも、時雨は今一度訓練で教わったことを振り返る。


 特に訓練のうち模擬戦で相手をしてくれた少年が印象的だった。打刀一本を持を持つ基本形ながら、時雨の変則的な動きにも対応してきた。

 訓練を始めたのは時雨よりも1、2年早く、同い年ながらかなり卓越した技術で時雨を驚かせた。


 ただ「能力に頼りすぎ」やら何やらいろいろこっぴどく言われてしまった。

 あまり好意的ではなく、言葉の棘も鋭い。

 

 初めて会うタイプの人に戸惑いながら時雨は任務の詳細を聞きに行く。


 今回は霙も美空もまだ復帰できていないので臨時のペアを組むようだ。

 再び中心街の桜の木の下まで駆けていく。


 もう既に桜はほとんど散って青青しい葉っぱが丸まって出てきている。

 既に藤の花芽が藤らしい紫色を出し始めていた。もうすっかり夜に冷えることもなくなったこの頃はカナヘビなどの爬虫類も多く動き出している。


 春らしい日差しを浴びる奉行所の前は既に多くの人でにぎわっていた。

 今回は茶目さんとは違うアドバイザーさんが対応してくれる。


 赤みの強い長髪を後ろで結わえたポニーテールの眩しい、あまり歳の変わらない女の子。

 奉行所の制服を身にまといながらもまだ不慣れな面が目立つその子は時雨に気づいて本人確認をした後、すぐに書類を引き出しから出してくれる。


 奉行所の中は大きな提灯が何列にも連なって明るく照らし出されており、上品な大広間を使用している。

 かなり遠くに見える向かい側の襖を見るとおそらくこの間だけで美空の邸宅よりも大きくなるだろう。


「おい。なんでお前がここにいるんだ?」

 

 後ろからぶっきらぼうな声が背中に届いた。


 この間訓練で模擬戦をした少年だ。

 少し長髪で後ろで束ねている赤い髪。

 身長は時雨よりも少し高いくらい。

 歳不相応に鍛え上げられた肉体。


 名を鎌倉 剣。

 相当な努力を積んでいるのだろうということぐらいはすぐにわかった。


「なんでって、ここに呼ばたからだけど…」

 

 時雨は聞かれたことに答えるが、それが返って剣の機嫌を悪くしてしまう。


「今回組まなきゃいけねぇのはお前かよ! ったくとんでもねぇ配分しやがって」


 悪態をつく剣の様子に戸惑うが、時雨以上に狼狽えているのはアドバイザーの女の子である。

 新人故にこういった場合にどうすればいいかまでは分からないのだろう。


 だがその子は賢明。

 周囲の先輩に助けを求めた。

 隣の席にいた緑色の髪の男性が対応してくれる。


「まぁまぁ、剣くん、かな。そう言わなくてもいいじゃないか。時雨くんだって立派な防人なんだから。」


 そうなだめてくれるが、剣はフン!と荒い鼻息をひとつ吹くと、すぐさま書類をひっつかんで書類にばっと目を通し始める。

 一応は一緒に行動してくれるのだろうか。

 

 時雨もアドバイザーさんに渡された書類に目を通し始める。

 別々でいいとか言われたらなかなか困ってしまう。


 二人に渡された書類には採取する目的の物が図解とともに記されている。


 鋼漆

 主に武具の加工に使う特殊な漆。霊力を浴びたことで形質変化した種類。


 木製の武器などの補強に使われることが多く、その用途に耐えるだけの耐久力などの強化に使われる。

 本来漆の採取は困難を伴うが、鋼漆においては樹液は切っただけでは垂れてこない。

 採取者が枝や幹の一部を切ってそれを加工屋が抽出することになるため、加工の知識がなくても採取可能である。


 ユメミズアオ

 霊力の濃い雑木林に生息する美しいうす翠色のガの一種。

 その鱗粉は主に薬用としての効能が高く、主に捕獲した状態で採取が希望される。


 ただし動きが速いため要注意。

 甘い香りに引き寄せられることが多い。


 赤綱晶

 岩盤から露出する鉱石の一種。霊力に充てられた複数種類の鉱物が結晶化して地上に飛び出すほど肥大化する。

 深く掘らなくても入手できるため採掘依頼も多い。

 使用用途はからくりに使われたり,武器の製作に使われることもある。

 大きな特徴は電気を非常に通しにくいこと。


 比較的求められるものの種類が多いが、山のふもと、または少し入ったぐらいで入手できるもののようだ。

 一応説明を聞いたうえで採掘用の道具と小刀、捕虫網などを二人分受け取る。

 

 こうして出発の準備が完了するが、剣は自分の道具が揃っていることを確認したら早足でさっさと目的地に向かう。

 置いていくと言わんばかりの彼に追いつくべく時雨は急いでアドバイザーさんに礼を言って走る。


 こんなのでうまくいくのだろうかと不安になりながらも剣に追いつくと、振り返りもせずに「ついてくるなよ」と剣吞な口調で拒まれてしまう。


「でもこの依頼の量は一人だと時間がかかるよ。僕の事が気に入らないのかもしれないけど、協力しなきゃいけないんじゃない?」


 ちっ、と舌打ちして剣は黙り込むが後ろをついていく時雨を露骨に拒むような雰囲気はなくなった。

 街の外側に向かう大通りの途中で比較的小さな分岐道がある。

 

 行きかう人が多くとも看板があるので分かりやすい。

 周囲の人にすみません、と小さな声で断ってから群衆を掻き分けて進む。


 その道を通っていくと目の前に現れるのは山への入口。

 怪人や怪獣の類が入り込まないように大きな門と門番が配置されている。



 人間の町でいう雷門を彷彿させるその門の間に小さな事務室がある。

 門の真ん中あたりにある事務室の窓口で書類を見せる。

 

 確認してもらった後、門を通って山への平坦なあぜ道を通っていく。

 目の前にあるのは巨大な山。

 

 ある程度の高さになると霧が立ち込めておりその全貌は見えない。

 山の入り口はすぐ近くだが、標高が高くなる部分はかなり遠くに見える。


 今日は曇天なのでどちらにしろ全貌なんかわかりはしないが。


 京のすぐ裏にあるその山。

 御影山と呼ばれるその山は霊力の影響を強く受けた山であり、その中には危険な動植物だけでなく有用な鉱物などの資源が数多く眠っている。

 ただし入るには身体能力の高い京人でも安全とは言えず、訓練を受けた者たちだけが出入りできる。


 その危険性からか人間の間では禁足地扱いとなっている。

 さらに、山を上るごとにだんだんと霊力が強くなるのでより危険な環境となるようだ。

 

 今のところ時雨と剣が立ち入っていいのは標高400mまで。

 今回の素材もその麓あたりでとれるものばかりだ。


 まず見つけるべきは鋼漆。

 ウルシ科特有の葉っぱが分かりやすく、鋼漆は他の木に比べて低い背丈なので視覚的に見つけやすい。

 

 陰樹に分類するそれは日陰の場所の方が生息数が多い。

 山の中の、木の多く鬱蒼とした森の中に入っていく。


 さり、さりとほとんど分解されて細々としか残っていない去年の落ち葉が踏むたびに軽い音を立てる。

 下草はまだ春なのでくるぶしほどの高さしかない。

 

 標高の低い山の中は比較的傾斜も緩やかで、少し中に入った程度ではただ森の中にいるようにしか見えない。遠くまで望める森の風景。

 静かな空間の中では、風に揺れる葉っぱの音と鳥のさえずりだけが聞こえる。


 近くにはユメミズアオの姿は無し。

 そう確認した時雨は他の方角も見渡す。

 自分の見ていた方向とは逆側を見ていた剣はまだ不服そうな顔をしつつも周りを見ている。


 この付近には鋼漆はなさそうだ。

 もう少し奥のエリアにいくか、それとも外周を回るかという判断が必要かもしれない。

 それを聞いたら剣は「奥一択だ」と一点張りで、その後は口を聞いてはくれなかった。


 そこで時雨も奥に向かうことにする。

 ある程度進んだあたりで木が少し密になってくる。

 今まで走り回れるほど木が密集していなかった分その狭さが目立つ。


 密集した木の中に、気になる木を見つける。

 剣の袖をちょいちょいと引っ張ってそちらを指さす。


 なんだよ、と苛立ちげにそちらを見た剣は視線の先にあるものに気が付く。


「…樹液?」

 

 クヌギ、といっても霊力の影響でずいぶんと変質しているが、樹液が垂れている。

 綺麗な金色の蜜に複雑な光沢を伴うカナブンたちが集まっていた。


 その周囲には京人の鼻でも分かるくらい甘い香りが立ち込めている。

 この甘い香りがおそらくユメミズアオを捜索する手掛かりになるだろうと時雨は考えた。

 今のところ近くには見えないが、いずれここに集まるだろう。


 時雨はこの木の付近の土に捕虫網を突き刺す。

 ふかふかの腐葉土由来の土とはいえ先のとがっていない捕虫網の端を差し込むのはなかなかに力を使う。

 グイグイと時々捻じるようにして押し込むと、捕虫網はいかにも目印です,といわんばかりの目立つ姿になった。


 剣も時雨の分かりやすい目印を設ける、ということには賛成のようだ。

 

「だがいいのかよ?捕虫網おいていくことになるんだろ?」

 いかにも嫌そうな顔をしてそう確認してくる。


 ――足手まといになりやがったら置いていくからな――

 言外にそんな言葉を感じる。

 

 時雨は、大丈夫。とだけ返して行動を始める。


 剣は時雨の背中を少し睨んだ後、時雨の後ろをついていく。

 相変わらず森の中は静かだ。

 木漏れ日はほとんどおりてこない。曇天の下の森の中はいつもよりも薄暗い。


 剣にとってはその薄暗さが剣を嗤っているように思えてしかたがなかった。

 苛立った足取りで時雨よりも前を歩きだす。


 時雨は彼の行動に少し驚いて前を譲る。

 どうやら相変わらず快く思われてはいないようだ。


 歩く事数分。

 少し幅の広い川の場所にでる。

 中洲が向こう側に見えた。

 ぐんっと三日月のような曲線を描くこの川は、比較的浅瀬になっているらしい。


 剣は何も言わず川の方に近づいていく。

 時雨もそれについていく。


 川の付近には不思議なトンボが飛んでいる。

 シッキトンボ。

 

 霊力に充てられて変質したトンボで、もとはハグロトンボの類だったのだろう。

 羽の形も立ち居振る舞いも全く変わらない。


 ただ違うのは見た目。

 羽の内側が赤。外側は黒。ぺたんと体の上で羽を合わせてたたむため赤い部分は基本的には見えない。

 だが止まっているときに定期的に羽を開閉するので、その上品な赤色がちらとみえる。


 雄は細長い体の先端、いわば尻が赤い。メスは真っ黒。

 また不思議なことにハグロトンボなど形態が似ているトンボは5月あたりで成虫が羽化するのに、シッキトンボは3月の終わりごろには羽化する。

 そのかわり活動期が10月上旬までと短い。


 霊力が大きく生物の性質や生態を変えてしまう。

 その不思議さに少々想像を膨らませていたのを中断し、今やるべきことに意識を戻す。

 

 そして視界に捉えたのは、開けた場所に一本だけ生えている大きな木の陰に腰を落ち着けているかのような鋼漆。

 

 土の周りは川辺の比較的荒い、だが水に流されるうちに円くなっていったと言わんばかりの石ばかりである。

 お世辞にも栄養状態がいいと言えないその環境の中で、鋼漆はその枝葉を伸ばしていた。


 剣はそれにいち早く気が付いていたようで、すでに作業に取り掛かろうとしている。

 だが採取に使うのは小刀ではなくまさかの剣の打ち刀。


 上に振りかぶったあと鋭くそして正確に振り下ろされた刀は、鋼漆の中くらいの幹を斬る。

 といっても鋼漆は木そのものも硬く、一発で斬り落とすには至らない。


 半ばで勢いを失った刀をまっすぐ一度引き抜いて、もう一度寸分たがわず切れ込みに刀を振り下ろす。

 今度こそ綺麗に切れた。

 

 次は細かい枝を小刀で落としながら主に使うことになる幹部分だけに厳選していく。

 さらにその幹部分を再度収納しやすい長さに刀で切り分けていく。


 時雨も自前の刀で同じように試してみるが、どうしてもバチィン!と派手な音を立てて弾かれてしまう。

 正直竜に食われたカミキリの外殻よりも硬い。

 そのことに驚きながら数度繰り返していく。

 

 やはり切るのは苦手なようだ。刀を使う時も打撃、また鞭のように使うならまだしも、ろくに切断らしいことができたことがほとんどない。


 自分は小刀の部分をやることにした。

 剣が冷たい視線を一瞬時雨にやって、そのあとすぐ自分の作業に意識を戻していた。


 そんなこともできないのか、とでも言っているようだ。

 その冷たい視線を苦手に思いながらも小刀を使って枝を落としていく。



 ザバン、と後ろで大きな音がした。

 それにいち早く反応したのは時雨。

 すぐに後ろを確認する。


 オイカワ怪人。

 魚の形をしていながら足をはやした不気味というか若干気持ち悪い容姿にびっくりしながら、刀を構えた。

 大きく振りかぶっていた手を下げて、遅れて臨戦態勢に入った剣の前でオイカワ怪人は一気に地を駆ける。


 目にもとまらぬ速さで突進してきたオイカワ怪人が剣の肩をこする。

 剣はよけようと宙返りをしていたが、その肩に触れたことで体の向きを変えてしまう。



 否。

 

 剣の狙い通りである。

 肩にぶつかってきた怪人から得た運動エネルギーを乗せて、反撃とばかりに身をひねって怪人に一太刀浴びせる。


 鱗を削り鮮血が噴き出す怪人はゴオオッと低いうめき声をあげて一旦距離を取る。

 そして剣ではなく時雨に狙いを定めた怪人は再度突進を開始する。


 時雨には先ほどの剣のような芸当はできない。

 それでも時雨もまたそれに対応する。

 

 水の刀を展開して、盾の形をとる。そして時雨をそのまま弾き飛ばそうとする勢いを一気に横に流す。


 突如として向きをずらされて、勢いあまって斜めの方向にバランスを崩しながら怪人は近くの岩に大きな音を立てて激突した。


 ドゴォン、と盛大に音を立ててもだえるオイカワ怪人に感髪入れず剣が切りかかる。

 その姿を眼に捉えたオイカワ怪人は慌てて跳ねるように離脱してくる。


 その高さは5mを超えるだろうか。

 ぴょーーーんっと瞠目するほど飛び上がっていった怪人の下で岩に刀がガチンッと当たる。

 

 そして岩に刀をぶつけた衝撃が剣の全身に返ってくる。


 じーん、と身が震えるような衝撃によって硬直してしまった剣に、飛び上がっていたオイカワ怪人が急降下した。


 ボディプレス。

 高く飛び上がって得た位置エネルギーまで加わったその攻撃の威力は絶大。

 反動が返ってきて動けない剣に急降下するオイカワ怪人を、間一髪で時雨が刀身を伸ばして縛り付け、辛うじて落下地点をずらす。


 ドドン、という音とともに川辺の大小さまざまな丸い石たちが弾かれるように巻き上がる。

 

 弾丸のような速度で飛ばされてくる河原の石がすぐ近くにいた剣を襲う。

 飛んでくる石から目を庇いながら剣は冷や汗を流す。

 複数の石が体の表面をかすめて皮膚をそぎ、一個は脚に直撃したが、その痛みを気にしている余裕はない。


 冷や汗が一拍遅れて剣の背中にあふれ出す。

 ボディプレスをもろに食らっていたら間違いなく大けがをしていた。

 まだ怪人が姿勢を崩しているうちに一度距離を取る。



 怪人も剣が距離を取るとほぼ同時に時雨の捕縛を振りほどき、大きく跳ねてそしてそのまま川の中に戻っていく。

 今度はザザァ、と大きな音を立てて猛スピードで川の中を泳いでいく。

 

 人間の腰ぐらいの高さに水面が来るような浅瀬では怪人の体格が大きすぎて波を掻き立てていく。

 怪人の動きによって生じた波が川辺に押し寄せ、川の水面は激しく掻き立てられて白く泡立っていた。


「っ!待て!」

 

 剣が声を上げる。


 その声とともに怪人はするどい角度で飛び出してきて、剣に接近する。

 オイカワ怪人は地上よりも水中の方が移動速度が速い。

 

 わざわざ速さが出る場所で稼いだその運動エネルギーに物を言わせた飛び出し突進が、剣を襲う。

 怪人が逃げようとしているとばかり思いこんでいた剣は完全に意表を突かれて反応が遅れる。


 そして気付いたころにはもう避けられない。

 なんとか強引に身をひねって体の中心への直撃は免れたものの、右腕にその砲弾のような威力の怪人の突進を受けてしまう。


 ゴキン、という鈍い音と共に激しい痛み。

 折れてはいないが、打撲はしただろう。

 つんざくような痛みと鈍いシビレが、腕の先端から順にまるで容器に入っていく水のように溜まっていく。

 思わずぐっ!?という悲鳴を漏らしながら、それでも剣はすぐに体勢を立て直す。


 既にほとんど右腕の感覚がない。

 刀を握り直すことはできない。

 どうする!?


 緊迫感の中で思考が白くなっていく。


 刀で攻撃を受け止めようにも片手だけでは不十分。

 攻撃も防御もどちらもおろそかになる。


 だが剣に長考する時間など与えられない。

 好機とばかりにオイカワ怪人が迫る。

 今度は地上の突進。



 この突進に対処する術は回避のみ。

 強引に地面をけり砕く勢いで横に跳躍しようとする。


 だが不幸にも川辺の石が不揃いな上に押し寄せた波で湿っており、完全に足が滑ってしまう。

 そのまま体勢を崩し転ぶ形になる剣は、食らうしかないことを理解しながらも怪人から目を離すことだけはしなかった。




 そして目の前の光景が剣の頭を突如として晴れさせていく。



 時雨が突進に巻き込まれるリスクを承知の上で間に入り、頭に体重を乗せた一撃をお見舞いしていた。

 頭を地面にたたきつけられたオイカワ怪人が悲痛の声を上げる。





 普段はあんなに自信なさそうで頼りなさそうなヤツ。

 戦いに身を置く癖にそんな気弱なところがすごく気に食わなかった。

 実際弱い奴だった。

 見ていて苛立ちを覚えるくらいに。




 だが目の前にいるコイツはどうだ。

 いつもの姿は鳴りを潜めた、勇敢な戦士の顔だ。



 ああ腹が立つ。

 俺よりも弱いくせに、俺を助けてくる。


 俺よりも臆病で、本当は怖くて仕方ないくせに。

 怪人に向かった時も時雨の手が震えていたのを剣は知っている。


 だが怖いと思っていながら何の迷いもなく、俺を助けに来やがる。


 時雨。俺はお前が嫌いだ!



 燻っていた炎が赤く、激しく燃える。勢いを増す。

 胸が熱くなる。想いが強くなる。


 剣の中にはっきりと表れた闘争心という名の炎が剣の体を突き動かす。

 右手のシビレはもう関係ない。



 そして剣は勢いよく前に跳躍する。



 怪人が起き上がって尾を振り回し、邪魔された仕返しとばかりに時雨に猛攻を加える。

 数秒の攻防の中ですでに劣勢に立たされている時雨。

 

 時雨が尾に刀を弾かれて後ろによろける。

 姿勢が崩れたところを狙ったオイカワ怪人の尾が迫る横に、白い閃光が走る。


 今までよりも遥かに洗練された太刀筋がオイカワ怪人を両断する。


 一閃。

 水音が止まったかのような一瞬の静寂。


 崩れた体勢でそのままへたり込んでいた時雨の目の前で、真っ二つになった怪人が崩れ落ちる。

 剣はそっと感触を噛み締めるように刀を握りしめる。


 下から見上げる時雨の視界の奥で、空を覆っていた雲が少しほぐれてその間から日の光が眩く顔を見せ始めていた。


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