5 レッドカーペットって無駄に歩きたくなるよね
どのくらい寝ただろうか。半日、いやそれ以上は寝ているだろう。
寝すぎて体がだるい。てか体中が痛いし重い、まるで上に何かが乗っているようだ。
だんだん息が苦しくなってきたので目を開けた。目の前にはクリクリとした目ん玉が2つこっちを覗いていた。
「うわぁぁ」
あまりに情けない声がでた。
「わぁ、こいつおきた」
火野の寝顔を覗いていた張本人が火野の上から飛び降りてすごい勢いでドアの向こう側へ走っていった。
誰だあいつ、
視線を左右に向けて辺りを確認する。
「マジでどこだここ」
火野は昨日の大男のことを思い出す。
「まさかあいつが言っていたボスってやつのところか⋯⋯いやそれはないなカラスさんがぶっ飛ばしてたし⋯⋯マジでどこだここ」
火野がぶつぶつと独り言を言っているとドアノブに手をかける音がした。
やばいやばい。どこかに隠れないと。
火野は寝ていたときにかけてあった毛布に頭を突っ込んだ。
「やぁ火野くん体調はどうだ⋯⋯い?」
ドアを開けて入ってきたカイトの目に急いで毛布にくるまる火野が写った。
「か、カイトさん?」
「⋯⋯何やってんの?」
********
「アハハハハハ」
「いつまで笑っているんですか!」
「だって、だって、身を隠すために普通毛布に頭を突っ込む?普通。だめだ、面白すぎる。アハハハ」
カイトはさっきの状況をまた思い出したのかずっとバカ笑いしている。
そんなに面白かったのだろうか。僕は必死に身を隠そうとしていたのに。
そんなことよりカイトの横でお菓子を頬張っている青髪の少女だ。
この前ここに来たときにはあの子はいなかった。
つまりあの子が最後の『ローダー』なのだろう。にしても流石に幼すぎないか。
見た目は小学3年生ぐらいだ。いやもっと下かもしれない。
そして、僕のことを非常に鋭い目付きで見ておられる。それこそゲスを見るような目で。
初対面で嫌われていると言うことはよく分かった。
「いや~ティアがすごい勢いで僕の所まで来て「あやつが生き返った」って言ったからびっくりしたよ」
カイトは横目でお菓子を口いっぱいに頬張っている少女の方をみた。
「ん、なんだ?」
ティアはカイトがみていることに気付き慌てて頬張っていたお菓子を飲み込んだ。
「いや、なんでもないよ⋯⋯あ、そうだティア自己紹介。いつものでいいよ」
「童が?此奴にか?」
ティアと呼ばれた少女はソファから立ち上がり胸を張って腰に手をあてながら、
「童はティア。ただのティアだ。頭が高いぞ人間」
と、少女とは思えない言葉遣いで自己紹介された。少し早めの厨二病なのだろうか。素で言ってる気がしたのだが、気のせいだろう。
「えっと、火野スザクです。よろしくねティアちゃん」
「ふんっ」
ティアは偉そうに鼻を鳴らし僕を見下ろした。
「ごめんね〜いつもはこんなんじゃないんだけど今日はすこぶる機嫌が悪いみたい」
「は、はぁ……」
さっきからなんかすごい上から目線なんだけれど。言葉遣いもそうだし。アニメの見過ぎかなんかなのだろうか。
「小僧、ジジイに呼ばれていなかったか?」
「あぁヤバ、そうだった。起きたばかりですまないけれど火野くん一緒に来てもらうよ」
カイトはそう言い半ば強引に火野を連れ出した。
********
今、火野はカイトといっしょに軍の本部のレッドカーペットの上を歩いている。靴の上からでもフワフワとしていることがわかる。まるで雲の上を歩いているようだった。カイトはというと本部に入る前はペラペラと喋っていたが本部に入ってからは沈黙が続いている。時々すれ違う人と会釈をするぐらいで後ろを振り返りもしない。カイトの後ろ姿から緊張していることが見て取れる。
ティアはというとシェアハウスから出るときに
「わらわは一人で寝ておる。だから一緒にはいかん。あとケーキを買ってくるのだ。じゃあな!」
と言って勢いよくドアを閉めた、ということがあったので一緒には来ていない。
そんなこんなで今まで見たことある扉の中でも最も大きく最も豪華な扉の前にたどり着いた。扉は純金で装飾されており、所々ダイヤモンドのようなものも埋まっている。
「いいかい、今からこの辺で一番偉い奴に会うからくれぐれも余計なことは決してするなよ」
カイトがいつにもなく真面目な顔で僕に言ってきた。
「はい、わかりました」
この何時もふざけてヘラヘラしてそうな人でも真面目なときがあるんだなと少し感心した。
「絶対に言うなよ。例えばここに来るレッドカーペットの上を歩きたいからって全く関係ない道に行ってそのせいで迷い時間を過ぎた、なんて絶対に言うなよ」
前言撤回やっぱりこの人に真面目なときなどない。しかもその言い方⋯⋯それはふりか、ふりなのか。一丁前に真面目な顔をしやがって。
カイトはクルリと扉の方を向いてノックをした。
「入っていいぞ」
野太い声が扉の奥から聞こえた。
「失礼しまーす」
カイトは扉を開けスタスタと入っていく。それに続いて火野が恐る恐る扉をくぐる。
扉の奥に大きな机があり、そこに60代ぐらいの男が偉そうに座っていた。
「ウカイ少尉でーす。火野鳥雀を連れてきましたー」
カイトがやる気のない声で座っている男に話しかける。
「ずいぶん遅かったようだが何をしていた」
「あ、ええっと、それは⋯⋯」
「まぁ、よい。どうせ寄り道でもして道に迷ったのだろう」
カイトは図星を突かれたのかうつむいている。
「ところで貴様が新しいローダーか」
男は火野の方に向き直った。
「は、はい。僕が新しいローダー⋯⋯らしいです。」
「ん?『らしい』だと!鵜海貴様!確定していない情報を私に教えたのか!」
「いやいや、確定ですよ大佐、まだ彼が自覚していないだけですよ。ね〜火野く〜ん?」
え、えぇいきなりこっちに話をふるなよ。
「え、あ、まぁ」
「ということなので。わんちゃんあの能力の可能性がありますよ」
「フンそうか。なら良い。名簿に加えておく。下がれ」
「はーい失礼しましたー」
カイトはそう言って一目散に扉の向こう側へ早足であるいていった。僕もカイトに続いて扉を出ようとした。
「おい、お前!名前は確か⋯⋯スザクと言ったか。お前もウカイと共に明日の任務についていけ。いいな!」
と、いきなり言われた。その場では「わ、わかりました」と言ったが正直何を言っているのかわからなかった。シェアハウスに帰ったときにカイトにその話をしたら
「はぁぁ?余計なこと言われないように一目散に逃げたというのにあのジジイ⋯⋯絶対殺してやる」
と、すごい暴言だらけになった。
「な、なんかすみません」
「火野くんは別に悪くないよ。逆に火野くんにめんどいことを言ったあのジジイが悪い」
カイトはグチグチ言いながら買ってきたシュークリームを食べている。カイトの隣ではティアがホールケーキ1つを一人で貪り食っている。
「カイトさんそういえばカラスさんはどこに行ったんですか?」
「あぁバカラスは昨日の大男を尋問しているよ。まぁそろそろ帰ってくるとおもうけど。あとさん付けやめてよね」
「尋問って?」
「尋問はいわば拷問なのだ。一回カー坊の拷問見てみたけれどだいぶグロかったのをよく覚えておる」
さっきまでホールケーキを一人で頬張っていたティアがいきなり話に入ってきた。口の周りにクリームをつけたまま、また話し始めた。
「あやつは力加減の調節がとても苦手なのだ。だから爪を剥がすときにこう指までも――」
「ティアやめろ。ケーキが不味くなる」
ティアが生々しい話をし始めたのでカイトが慌てて止めた。
「味は変わらないけどな」
ティアはそう言いながらまた、ホールケーキを頬張り始めた。
なんか賑やかで楽しいな。
そう思いながら自分も切り分けられたケーキを口に運んだ。
小学生の時の社会科見学で国会議事堂のカーペットを思い出しました
次回は偉そうなジジイが言っていた任務とやらに行きます




