第67話【誓いの前日編その4】
感傷に浸るのも束の間、暗闇の中で啜り泣く様な低い声が聞こえ、枕元にある丸い電飾を点けると、扉の前で胡座をかきながら、両手で顔を覆い男泣きするバルクスが灯りと共に現れた。
「おじさん……いつから居たの?」
温かい視線を送っているミフィレンは、そう投げ掛けたが、鼻水をすすり嗚咽を漏らす大の男は、返答とかそれどころじゃないみたいだ。
しばらくの間、静まるのを待つ9歳児と、その子に見守られる23歳の大人の奇妙な光景を見たら、ニッシャだったら腹を抱えて笑っていただろう。
泣き止んだのか数度程の咳払いが聞こえると、先程まで縮こまっていた体が、立ち上がると同時に近づいて来るのが分かり、ベットの端で止まると角辺りで徐に座り出す。
体重のせいもあってか深く沈み込み、嫌悪感を感じる程の軋んだ音が、小さな耳へと聞こえてくる。
手を正面で組んだバルクスは、ミフィレンの顔は見ずに己の指を眺め、時折動かしながらこう言った。
「明日には俺を含め、アイナさんと君のママは当分の間、帰ってこれないのは知っているね?本当は夕飯の支度が終わったから、呼びに行くように言われたんだけど、少しだけ話に付き合ってほしくてね。」
ゆっくりと瞬きをしながら、小さな子でも分かるように言葉を選ぶ、バルクスの姿に大人しく聞き入れるミフィレン――――すると、ゆっくりとそして、穏やかな口調で話始めた。
「一発で気絶してしまった俺の勝手な想像何だけどね、君がいるから、彼女はより強くなり、そして優しくもなったと感じたんだ。人はね、【守る者】と【与える者】が必要でね。守るからこそ得られる物、それは【物】か、はたまた形の伴わない【愛情】かもしれない。でもね、きっと彼女は君を中心に行動したり、自らの命を削ってまで大切な人を守ろうとしてたと思うんだ。だから、俺を……いや――――そんな強い女性である君のママを信じて欲しい。」




