第66話【ニッシャ精神世界その6】
始まりの合図もなく、先手を取ったのは余裕綽々なニッシャであり、華麗に宙を跳んだ身体は、左足を軸に横一閃に繰り出された蹴りが、ドーマの側頭部に目掛け、強烈な一撃を放った―――衝撃波により仮想空間内の道場は、床だけを残して崩壊し、再び一面を白で囲われた。
「五年も経つと、こうも鈍るものかねぇ……さっきの蹴りちゃんと腰入れたのか?」
精神世界では寿命等の重荷が無く、久し振りに本気を出したニッシャの一撃を、当然の様に2本の指で受けると、欠伸混じりにそう言った。
渾身の一撃を防がれたニッシャは、後方へ飛ぶと頭を掻きむしりながら不思議そうに首をかしげる。
「おっかしいなー、私の想像よりも強くないか?」
「お前が知らないだけで、本物は強いぞ。それこそ【火速炎迅】は、元々レプラギウスの魔力を使い、ドーマが独自に編み出した技だからな。何なら違いでも試してみるか?」
【Ⅱ速開始!!】
ドーマの体が魔力供給により燃えたのを確認した瞬間、ニッシャの体は上空へと殴り飛ばされ、痛みや驚きと言う感覚よりも速く―――気付けば床に叩き付けられ、無垢で何もない空を見上げていた。
「相変わらずあんたの【二の段-灼火瞬炎】は、今の私でも反応出来ないほど速すぎるぞ……」
「ハッハッハッ!!そうかそうか!!俺はまだ【炎武】すら使ってないぞ?―――そんなんで、【朱天】たぁ、驚きだぞ?」
しゃがみ込んだドーマは、ニッシャの顔を覗き込む様にそう言うと、手を差し伸べ起き上がる手助けをしようとした―――が、それを拒否したニッシャは手を振りほどくと、一定の距離感を保ち、本物に限りなく近いドーマと同じく【Ⅱ速】を開始する。
全身を眩い炎で包まれた両者は、久し振りの師弟愛を謳歌しようとしていた。
【屋敷内子ども部屋】
いつの間にか眠りについていたミフィレンが目を覚まし、辺りを見渡せばニッシャの姿は見当たらず、小さな体に虚無感さえ覚え、柔らかな布団を固く握り締めると、暗闇に包まれた静寂な部屋で1人静かに泣いていた。
小刻みに体を震わすと微かに耳に聞こえるのは、風鈴の様な綺麗に響く金属音が、首元から鳴っている事に気づき、それを手に取り涙で滲んだ眼を擦りながら月夜にかざすと、小さな1輪の花があしらわれたネックレスが、左右に揺れ燦然と輝いていた。
「ニッシャにプレゼントしたお花だ―――き……れい……」
再び溢れる涙は、止まることを知らず、大切な人が遺した物の大きさを再び噛み締めるミフィレンでした。




