第65話【ニッシャ精神世界その5】
ニッシャは澄まし顔をすると、ペンダントは返さず、おもむろに左右へと振りだす。
「どうみても本物だよなコレ。あんたの葬儀の時は追放されてて確認出来なかったが、私の記憶じゃぁ死の直後には、してなかったぞ?中身を知るのはせいぜい、それを奪った犯人か―――」
「おいおい、何を言ってるんだ?俺は始めに言ったろ?」
【今ある【空間】や懐かしい【景色】、それと俺が発する一字一句全て、お前が作り出した想像の産物だって事を、ちゃんと理解した上で話を聞けよ?】ってな。
ニッシャはペンダントを手に閉じ強く握った途端、直ぐ様開くと跡形もなく消え失せていた。
「ドーマ、いや―――レプさんよぉ……懐かしい思い出どうもありがとよ。だが、今は感傷に浸るよりも生き返ってあの子の所に行きたいんだが?」
―――瞬間、割れたガラスの様に思い出の景色は徐々に崩れ去り、そこに現れたのは何者にも染まり、どんな景色にも変わる真っ白な空間だった。
ドーマの姿のそれは、後方へ手を回すとニッシャの周囲を平然と歩き、変わらぬ態度と口調で話し出す。
「ニッシャ―――いくら【炎の精霊】とて、無敵でもなければ不老不死を与えることは、出来ないんだよ。それこそ【時の精霊】でもない限り、生きとし生けるもの全てに共通する、理や法則をねじ曲げる事は、ハッキリ言って不可能だ」
何やら小難しい事を話している、ドーマっぽいそれにため息と微かな笑顔を交えて言ってやった。
「んー……私の記憶の中だけど、懐かしい奴と久し振りに話せたことだし―――運動がてらその姿で組み手、付き合ってくれない?実力とかは、ある程度知ってるから問題ないだろ?」
そう発言した途端、純白の景色は瞬きの隙もなく、【屋敷内道場】へと移り変わり、ニッシャの服装もいつの間にか動きやすい耐火仕様の黒ドレスへと変わっていた。