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天野一郎

気がつくと、耳障りな音が頭の中に響いていた。そして意識がはっきりしてくると、天野一郎は今の状況を理解し鳴っている時計を止めた。同時に時間も確認すると5時30分であった。

軽く身体を伸ばすストレッチを行い、布団から出て、洗面所に向かって歩き出した。

いつものように、洗面台の前で泡タイプのクリームを顎につけて髭を剃る、そうしていると寝ぼけなまこだった頭がだんだんと目覚めていくのを感じた。


昨日、仕事から帰ってきてから、妻のゆみが嬉しそうな顔でずっと息子の、真のことを話す場面が思い出された。

色々あったがこうしてまた家族のみんなで過ごせる、と思うと心が満たされている実感が湧き上がってきた。


髭を剃り終わり、手早く顔を洗い、今度はキッチンに向かい、朝食の準備を始める。

一郎の朝の食事は、妻のゆみが作ってくれる時以外は、何を食べるか決まっている。

一郎は小さい鍋に水を入れ、火にかける。


「んー、今日はどうするかな、しばらく豚骨が続いたし、今日は定番の醤油味にするか」


一郎が選んでいたのは、インスタントの袋麺である。一郎は大のインスタントラーメン好きだった。

ちょっと前まで、一郎が起きるのに合わせて、ゆみも一緒に起きて一郎の為に朝食を作っていたが、妻を気遣い、大変だからいいよ、と断っていた。

だが本当の狙いは、今こうして自分の好きな味を選びながらインスタントラーメンを食べる為である。


「ゆみはな、栄養が偏るからとか、あーだこーだ言って、うるさいからな」


でも、最近の袋麺は栄養面もちゃんと考えられてると思う、裏の袋のカロリーやら、栄養素を見るとビタミンなんやらとか色々書いてあるしそんなに気にするほどではないと思う。

そりゃあ、朝昼晩を毎日インスタントラーメンとなれば話しが違ってくると思うが、なんでもそうだけど、いくら体に良いからって、それだけを食べていたら良いとはならない、要はバランスだ。


鍋の中の水が沸騰したのを確認し袋から麺を取り出し鍋に入れる。そしてラーメンが出来上がった時に入れるボウルを用意した。普通だったらラーメン用のどんぶりや陶器の深い皿などを用意すると思うが一郎はプラスチックのボウルに入れて食べるのが気に入っていた、そしてボウルの中にスープの元を入れて準備をしておく。

ちょっと前までは粉末タイプが多かったが最近は液体タイプが圧倒的に多い、多分、お湯と合わさって味が出るのが早いのだろう。

麺を入れてから2分立ったら菜箸を入れて麺をほぐしていく、そして生卵を入れる。そっからさらに5分ぐらい煮て完成だ。


ボウルに入ったラーメンをリビングにあるテーブルに置き、テレビを付ける。

そうして今流行りの加熱式のタバコを吸う。


「ふー、やっぱりこの時間のタバコは落ち着くな」


ゆみからはタバコをやめてくれと、つつかれているが、なかなか難しい、やっぱり色々とストレスを感じることが多いし、何より、趣味といった、趣味もないし、これぐらいは許して欲しいと思う。もちろん身体を気遣って、言ってくれていると思うがそれも含めて見逃して欲しい。

俺は酒もほとんど飲まないし、月のおこずかいだって値上げを請求したことはないし、ほとんどお金は使わないと思う、お金を使うとしたらタバコぐらいしかない。


テレビから流れてくる、天気予報やニュースを見ながら、やっと目の前に置いてあるラーメンを食べ始める。

ラーメンをテーブルに置いてからもう15分以上立っているがそんなことは気にせず黙々と食べる。

一郎は麺が伸びて、なおかつ卵がしっかり固まっている状態が好きなので、思わず食べていて頬をゆるませてしまう。


「いやーやっぱりこれだよ!これ、これじゃないとな」


と食べているラーメンの美味しさを嬉しそうに声を出して表現した。

食事を終えた一郎は手早く、通勤する用の服装に着替えて、家族がまだ寝ている中、仕事に向かう為、家から出て行った。


「ほら、真、早く起きなさい」


意識がはっきりとして耳からその言葉を認識し目を覚ました。

昨日は少し寝るのが遅かったこともあり、目を開けようとするが身体がいうことをきいてくれない、何度か目元が閉じようとするがそれを振り払うように、寝ているベッドから起き上がる。

まったく、子供の身体というのは大人と違って、別の意味でいうことが効かない。

俺はまだ寝ていたいという衝動を抑えながらリビングに向かった。

母さんは俺が部屋から出てきたのを確認すると笑顔で声をかけてきた。


「あ、真、起きたのね!、おはよう、朝ご飯、出来てるから顔洗ってきて食べちゃいなさい」


昨日、俺が家事をやるからと、言ったせいかどうかは、わからんが、今まで俺に見せたことがない笑顔で微笑んでいる。


「うん、おはよう、わかった」


俺がそう返事をしたのを確認すると、母さんは呼びかけても起きてくる気配がない妹のリサの部屋に向かって歩いて行った。

その後、母さんとリサを含め3人で朝食を済ませ学校に行く準備も終わり、俺とリサは母さんの準備が出来るのを待たされていた。


今日はあいにくの雨だった。しかも結構な本降りだ。なんで俺とリサが待たされているかというと、それは母さんが学校まで車で送ってくれるそうだ。

なんでも結構雨が強く降っている日は親が車で学校まで送り迎えをしてくれと、学校側が推奨しているようだ。

こんなこと前世の俺の小学生時代には考えられんな、だってその当時は送り迎えは絶対しないでくれと、言われていた。

子供の自立を確立させる為、とか、なんやら言っていた記憶がある。それが今や真逆、時代が変われば本当に何もかも変わるもんだ。

それにしても母さんも俺達を学校まで送ったらまた家に一旦、帰ってくるんだから、今、バッチリ化粧をしなくてもいいんじゃないだろうか?、まあ俺がそう考えてもどうしようもないが、やはり女性は人前に出る以上は少しでも綺麗に見られたい生き物なのだろう。


「ごめん、ごめん、じゃあ行こっか」


「もう、お母さん、遅い」


リサが一言、文句を言うがそれを軽く母さんは受け流し、俺達は学校に向かう為に家をあとにした。


そう言えばここ最近父親こと、天野一郎を見かけない、多分俺達が寝ている前に家を出て、俺達が寝た後に家に帰ってきているのだろう。そう考えると凄い父親だな、いくら家族の為とはいえ、ここまで働きづめで途中で倒れなければいいが、とはいえ俺達、家族の為、頑張ってくれているのは本当にありがたい。

俺はそう深く感謝したのであった。

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