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第四話:道中の対話と、宙に浮かぶ真実(後書きにエレナと村に向かう陸の画像)

静かな森の小道を、陸とエレナは一定の距離を保ちながら並んで歩いていた。


 手元に武器もない怪しい服装の青年——のはずなのだが、エレナの表情に警戒の色は一切ない。むしろ、先ほど自分を軽々と救い出してくれた陸に対し、崇めるような温かい視線を時折向けてくる。


 陸は気恥ずかしさを誤魔化すように、コホンとひとつ咳払いをして口を開いた。


「ええと……エレナさん。歩きながらで申し訳ないんですが、ここがどこなのか教えてもらえますか? 実は僕、旅の途中で道に迷ってしまって……」


「まあ、そうだったのですね! はい、私でお役に立てるならいくらでもお話しいたします!」


 エレナは快く頷くと、優しく微笑みながら話し始めた。


「ここは『フェルナンディア大陸』の中央に位置する、フェルゼン王国の辺境です。私たちが住んでいるのは、大陸の中央に広がる内海に面した小さな開拓村でして……豊かな森と、すぐ目と鼻の先にある内海の小さな港に囲まれた場所なんです」


(フェルナンディア大陸……フェルゼン王国か。聞いたこともない名前だな)


 陸は誰にも悟られないよう、目元だけで宙のホログラム画面を呼び出し、心の中で呟いた。


(おいZEUS、今の言葉で検索できるか?)


『——音声およびキーワードを認識。裏データベースと照合します』

 陸の視界の端だけに、青く透き通った検索ウィンドウが立ち上がった。


『検索結果:フェルゼン王国。フェルナンディア大陸中央を治める中世王政国家。魔法は存在するものの、火種を起こしたり明かりを灯すといった、日々の生活補助で主につかわれ、攻撃用には益しません。ただし、外傷治療、保管、冷蔵、洗浄といった生活、冒険補助魔法は充実しています。』


(やっぱり中世レベルの世界なんだな……)


「実は私、村長の息子のもとへ嫁いでまだ一年ほどなのですが……夫が急な高熱で倒れてしまって」


(えっ……!? え、この人、結婚してるの……!?)


 エレナの口から出た「夫」という言葉に、陸は心の中で思わず目を丸くした。  化粧っ気がなく素朴だが綺麗なので、自分と同い年か年下——十九歳か二十歳くらいの独身女性だと思い込んでいたのだ。だが、旦那さんが倒れて必死なエレナの前で野暮な質問を入れるわけにもいかず、陸は慌てて表情を取り繕った。


「そ、そうだったんですね……。旦那さん思いの素敵なご夫婦なんですね」


「ふふ、ありがとうございます。陸様もお若いのに、あんな凶暴な魔物を一撃で倒してしまうなんて……本当にお強いのですね。おいくつなんですか?」


「え? 僕ですか? 僕は十九歳です。……あ、来年の二月で二十歳になりますけど。故郷の学問所に通う学生です」


「まあ! 十九歳でいらっしゃいますか!」


 エレナが驚いたように目を細めた。


「私より三つ年下なのですね。私は二十二歳になります」


(えっ、二十二歳!? ってことは……)


「え……エレナさん、じゃあ二十一歳で結婚されたんですか!?」


 思わず素で驚いてしまった陸に、エレナは可憐にクスリと微笑んだ。


「あら、ふふっ……! はい、二十一で嫁ぎましたので。このあたりではごく普通の年頃ですよ?」


(ええっ、二十一で結婚!? 現代の日本なら、大学に通ってたり就活してたりする年齢だぞ……!?)


 陸が動揺を隠しつつ視線だけでZEUSに問いかけると、即座に検索結果が更新された。


『検索結果:本世界(フェルナンディア大陸)における平均寿命は現代日本と同等ですが、社会的価値観は二十世紀後半(一九七〇年代)に近く、女性の一般的な結婚年齢は二十一歳から二十五歳前後です。二十二歳での結婚はごく標準的な事例です。月、年などは地球と同じです。』


(なるほど……寿命は長いけど、20代前半で結婚するのが普通の文化なんだな)


 ZEUSの解説によって、陸の疑問は一気に氷解した。  見知らぬ異世界であっても、全知の検索エンジンが手元にあるおかげで、まるでナビゲーションシステムを見ながら歩いているかのような圧倒的な安心感があった。


 そうして会話を交わしながら十五分ほど歩くと、樹木の隙間から木造の柵で囲まれた小さな集落が見えてきた。


「あ! 村が見えてきました!」


 エレナがパッと表情を明るくし、歩調を速める。

 村の入口に立つ丸太の柵に近づくと、槍を持った見張り番の自警団の男たちが、エレナの姿を見つけて目を見開いた。


「おや、エレナ様! 一人で森に行かれたと聞いて探していたのですよ! ご無事でしたか!」


「……ん? エレナ様、そちらの見慣れぬお方はどなたです?」


 男たちは不審そうに眉をひそめつつも、警戒して歩みを止めた。陸は「あ、どうも……」と控えめに頭を下げる。


「みんな、心配をけてすみません。このお方は陸様とおっしゃって、命の恩人なのです! 森で黒牙犬(コクガケン)に襲われそうになった私を、お一人で助けてくださったのですよ」


「な……っ!? 黒牙犬だと!?」


「あの凶暴な魔物を……たった一人で!?」


 自警団の男たちが驚愕の声を上げ、信じられない様子で陸を見つめる。

 そこへ、騒ぎを聞きつけた威厳のある初老の男性——この村の村長が、青ざめた顔で駆け寄ってきた。


「エレナ! 無事だったのか……! 無茶をしおってからに!」


「お義父様……すみません。ですが、無事に薬草を持ち帰ることができました。それもすべて、この陸様のおかげです」


 村長は陸の妙な服装や佇まいをまじまじと見つめると、深く頭を下げた。


「そうでしたか……。旅のお方、大切な義理の娘を救っていただき、なんとお礼を申し上げたらよいか……」


「いえ、無事で本当によかったです」


 恐縮する陸だったが、村長は急にハッと顔を曇らせ、エレナに向かって悲痛な声を上げた。


「……だがエレナ、息子の容態が良くないのだ。先ほどから熱がさらに上がり、息も荒くなっておる……。長老もお手上げだと言っておるのだ……っ」


「そんな……っ! お義父様、すぐにこの薬草を……!」


 動転するエレナと村長。  その様子を見た陸は、ふと視線の端で光るZEUSの画面に目を向けた。


「あの……村長さん、エレナさん。もしよろしければ、僕に旦那さんを見させてもらえませんか?」


挿絵(By みてみん)

ご覧いただきありがとうございます! 今回は、陸がエレナを救い出し、二人で初めてヴェルデ村へと向かう記念すべきシーンのイラストをお届けします。

右も左もわからない異世界で、偶然出会ったエレナをその圧倒的な身体能力で救った陸。そして、助けてくれたお礼に彼を温かく村へ案内するエレナ。二人の物語がここから本格的に動き出す、大切な「最初の一歩」となる場面です。

不安でいっぱいだった陸がエレナの優しさに触れてほっと胸を撫で下ろす空気感や、二人のお互いに対する感謝と好奇心が混ざり合った表情を楽しんでいただけたら嬉しいです!

これから始まる二人の歩みを「応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや高評価(★)、感想などで応援していただけると執筆の大きな励みになります!

※画像はAIで生成しています

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