第33話:黄金の出汁と、ヴェルデの約束
「我が商会と懇意にしている、ロクスでも有数の食糧問屋『ガルノ商会』の店主を紹介しようと思う。あそこなら大通りの食堂やキャラバンへの幅広い流通網を持っている。あの煮干しなら、絶対に喉から手が出るほど欲しがるはずだ!」
「食糧問屋さんですか! ぜひ紹介してください!」
丸薬の納品を終え、ますますボルツとの信頼を深めた陸は、ボルツからの紹介状を手に、次なる取引先候補となる食糧問屋『ガルノ商会』へと向かうのだった。
ボルツ商会から紹介状を受け取った陸は、大市場の裏手に構える大型食糧問屋『ガルノ商会』へと足を向けた。
陸を迎えたのは、深みのある眼差しを持つ初老の問屋主・ガルノだった。最初は
「干した小魚か……?」
と半信半疑だったガルノだったが、陸がその場で小鍋に煮干しを投入して乾煎りし、水を注いでスープを抽出し、塩をひとつまみ加えて差し出すと、状況は一変した。
「な……なんじゃこの味は……っ!? 魚の青臭さが一切なく、お湯と塩だけでこれほどの深い味が出るというのか……!?」
一口啜ったガルノは目玉を丸くして叫び、手元のごく小さな乾物を信じられないといった様子で見つめた。
「しかも乾燥しているため、常温で何ヶ月も日持ちします。街道の食堂やマジックボックスを持っていないキャラバンや旅人に紹介すれば、きっと売れますよ」
陸が実家のスーパーでの経験から掴んだ強みを説明すると、ガルノは激しく机を叩いた。
「素晴らしい! 陸殿、この『煮干し』、我が問屋でまとめ買いして全市場へ流通させたい!」
◇
手応えを感じた陸は、ガルノと一緒にボルツ商会へ戻り、ボルツも交えて考えていた事業戦略を切り出した。
「お二人にお願いがあります。この『煮干し』と『整腸の丸薬』の市場を拡大し、僕を助けてくれたヴェルデ村も豊かにする事業を立ち上げたいんです」
「市場を拡大……!? 一体どうやってやるのだ、陸殿!」
陸は紙とペンを取り出し、実家のノウハウとZEUSで検索した戦略を説明した。
「まず煮干しですが、ガルノさん。ヴェルデからロクス近郊の漁師たちと『小魚の買い取り契約』を結んで原料を抑えます。その際、持ち込まれる小魚はサイズ不揃いでも全量買い取ります。そのうえで、サイズや品質に応じて『一等級から五等級』まで選別し、煮干しの販売価格を分けるんです。内臓と頭は飼料や肥料に加工します。」
「成程……っ!」
ガルノが思わず膝を叩いた。
「全量買い取りとなれば漁師は喜んで、わしらに卸すだろう!サイズ別に一等級から五等級で販売すれば、ロスも抑えられる! すばらしい原料の抑え方だ! よし、その事業には我がガルノ商会も出資しよう!」
「ありがとうございます、ガルノさん! ……そして生産ですが、僕が『小魚の選別サイズ、最適な塩分濃度、茹で時間、天日干しの乾燥度』を定めた『煮干し生産手順書』を作成します。これをライアスさんに渡し、ヴェルデ村の人に『委託生産会社』として大量生産してもらいます」
陸はさらにブランド化と将来の展望を提示した。
「商品は『ヴェルデ特製 黄金煮干し』としてブランド化します。量と品質で市場を占有すれば、後発の業者は参入が難しくなります。……そしてゆくゆくは、知り合いの縁を使って、エルフの国『エルドリア王室御用達』の公認を目指します」
「お、王室御用達だと……!? そこまで見据えているのか……っ!」
二人は口を陸の戦略に感服した。
「なお、煮干しの技術提供と監修料として、10本(袋)の販売につき1本分の利益(10%)を僕がいただき、残り9割を村の利益とする契約にします。無償の施しではなく正当なビジネスにすることで、村も自立した生産者になれますから」
「10%の技術料……! 実に健全で素晴らしい取り決めだ!」
ボルツが賞賛した。
「そして丸薬についてですが……原材料の木炭と生薬【胃整草】を開拓村から仕入れ、活性炭への高温精製というコア技術だけは僕が作業場で固く守ります。その活性炭を使った丸薬への練り合わせ・加工・梱包作業も、開拓村の皆さんに『委託生産』としてお任せしたいと思っています」
「なるほど! 販売は我がボルツ商会が引き受け、開拓村は『煮干し』と『丸薬』の委託生産拠点となるわけだな!」
「はい。そのために、開拓村側で生産を取り仕切り、ロクスとの納品や管理をスムーズにするため、村長さんとライアスさんに『信頼できる人を一人』選んで連れてきてもらおうと思っています」
「村長とライアスが自分で選ぶ信頼できる人物か! それなら現場の息もぴったりだな!」
◇
新居へ戻った陸は、ZEUSで検索した数値を書き起こして『煮干し生産マニュアル』を仕上げると、
さっそく開拓村の村長とライアス宛てに一筆認めた。
煮干しと丸薬の委託生産の依頼、10%の技術料と9割の村の利益という取り決め、そして現場を取り仕切るために「二人が最も信頼できる人を一人選んで連れてきてほしい」という旨を記した手紙を書き上げる。
丁寧に封をし、同封の事業計画書と共にボルツ商会の定期連絡便へと託した。
(出資、全量買い取り、マニュアル化、ブランド化、そして丸薬の委託生産……これでうまくいけば仕組みができあがるぞ)
一週間の仕込み、卸ルートの確立、そして村への技術移転と商業体制の構築。すべての準備を完璧に整えた陸は、明日に迫ったルナとの約束——「ベテラン治癒師マルセル」のスカウトに向けて、静かに心を躍らせるのだった。
ルナと「一週間後」の再会を約束してから七日目の朝。 職人街の裏手にある陸の家の作業場で仕込みを終えた陸は、表の扉を軽やかに叩く音を聞きつけて玄関へと向かった。
て扉を押すと、そこには約束通り深緑色のフード付きケープを羽織ったルナが立っていた。
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陸のZEUSを使ったビジネスもだんだん規模が大きくなってきました。次はいよいよ3人目の仲間のスカウトです。
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