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第32話:一週間の仕込みと、積み重なる実績

「あ、はい。スカウトに行こうって話でしたね」


「ええ。思い出したんだけど、実はギルドの情報だと、マルセルは今、隣町の定期治療の依頼でロクスを離れているみたいなの。街に戻ってくるのはど『1週間後』らしいわ」


「そうだったんですか! じゃあ、すぐには会えないんですね」


「ええ。だから、マルセルが戻ってくる1週間後に、あらためて一緒にスカウトに行きましょう! それまではお互い、準備やそれぞれにやることを進めておきましょうか」


「分かりました! 1週間後ですね」


 方針が決まり、ルナは深緑色のフードを目深に被り直すと、玄関の扉を開けた。


「それじゃあ陸くん、私はゲストハウスへ戻るわね。ごちそうさま、おやすみなさい!」


「はい、道中お気をつけて! おやすみなさい、ルナさん!」


ルナが夜の街へと帰っていく後ろ姿を、陸は姿が見えなくなるまで名残を惜しむように見送った。


(1週間後、ベテラン治癒師のマルセルさんをスカウトか……。それまでに丸薬の量産はもちろん、煮干しの生産や、定期的に仕込む魚醤の生産もしっかり進めておこう!)


 美しくも頼もしい仲間との楽しかった時間を噛み締めながら、陸は1週間後の仲間探しに向けて、新居の中で決意を新たにするのだった。


 ルナと「一週間後」の再会を約束してから、陸の新居での忙しくも充実した日々が始まった。

陸は新居の作業場にこもり、ひたすら生産作業に没頭した。


(まずは『整腸の丸薬』の量産だな!)


 実家のスーパーで兄の手伝いをしていた頃のうろ覚えの記憶を、目の前の空中に浮かぶ【ZEUS】で検索して確認していく。ライアスとエレナがもってきた木炭を土窯で加熱し、多孔質化した『活性炭』へと精製。すり鉢ですり潰した活性炭の粉末に、生薬【胃整草】の抽出汁を練り合わせて丸薬をひとつひとつ丁寧に作っていった。

 

並行して、市場で仕入れた小魚の頭と内臓(ワタ)を手際よく取り除き、塩茹でしてから天日干しにする『煮干し』の作成。さらに床下には、将来的に毎週安定して出荷できるよう、魚と海塩を交互に詰めた『魚醤』の壺を今週も新しく一仕込み追加した。

 

完成した大量の丸薬と煮干しを、手のひらサイズのマジックボックスへと大切に納めていく。

 ◇

 一週間が経過しようとする頃、陸はまず、煮干しのテスト販売を頼んでいた宿屋『若葉の旅籠亭』へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ。あら、陸さん!」


カウンターの奥から顔を出したのは、栗色の髪を後ろでひとつに束ねたマルタだった。


(相変わらず綺麗な人だな)


最初の頃みたいに緊張していた陸も何度かやり取りを重ねるうちに、打ち解けてきた陸は、もう上がることもなく、自然に話しかけた。


「マルタさん、こんにちは! 先日お渡しした『煮干し』の料理の評判はどうでしたか……?」


「評判どころではありませんわ!」

 

マルタは両手を胸の前で合わせ、口元をパッと緩めた。


「朝食や夕食にあのスープを出したり、料理に使ってみたりしたのですが、お泊まりの冒険者様や行商人の方々が口々に褒めてくださって! 『長旅の疲れが一気に吹き飛ぶ』『こんな出汁の味は初めてだ』って、おかわりを求めるお客様が並んだくらいですのよ!」


「本当ですか! よかった……!」

 

想像以上の反響に、陸も、安心してホッと胸を撫で下ろした。自分の作った『煮干し』がこの世界でも受け入れられた安心感から、自然と笑みがこぼれ落ちる。


「頑張って作った甲斐がありました。喜んでもらえて本当に嬉しいです!」


 親しくなったマルタと笑顔を交わしながら、陸は素直に嬉しさを声に乗せた。



「ええ! ですから陸さん、あの煮干しをぜひ当宿で定期的に買い取らせていただけないかしら?」


「もちろんです! 喜んで卸させていただきます!」


こうして、最初の定期納品契約が固まった。

 ◇

続いて陸が足を向けたのは、大通りの老舗『ボルツ商会』だった。


「おお、陸殿! 待っておったぞ!」


 白髭を蓄えた店主のボルツが満面の笑みで迎えてくれた。陸がマジックボックスから納品用の『整腸の丸薬』を取り出すと、ボルツは嬉しそうに、用意していてた売上金のゴルド(大金貨)を清算してくれた。


「その後、口コミがどんどん広がって丸薬を求める客が後を絶たんのだ。助かったぞ、陸殿!」


「お役に立てて良かったです。僕も儲けさせていただけてありがとうございます」


「ところで陸殿。マルタの宿で出しておるあの『スープ』、好評らしいな! うちにも『あの乾物は扱っていないのか』と問い合わせが来ているぞ」


「マルタさんのところでも喜んでもらえました。ただ、ボルツさんの店は『薬種店』ですから、食品を直接扱うのは違いますよね」


「その通りだ。……そこでだ、陸殿」


ボルツは髭をグッと擦ると、前のめりになった。


ご覧いただきありがとうございます!

今回は煮干し事業開始でした。

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