第28話:地球人の力は規格外
不安になった陸は、誰にも悟られないよう目元だけに『ZEUS』の青いホログラム画面を静かに呼び出した。
(ZEUS、この世界の魔物の解体ってどうなってるんだ? 検索できるか?)
『——本世界における【魔物】の生体特性について検索・照合します』
陸の視界だけに、データがスムーズにスクロールされた。
『検索結果:本世界の魔物は生命活動が停止すると、体内の魔素が固化・安定し、骨格や皮膚の節目に“天然の境界線”が生成されます。衝撃や刃を入れることで、血液の飛散や生体組織の散乱を一切起こさず、“素材ブロック”として綺麗に分離可能な状態へと自動遷移します』
(なるほど……! 人間とは違って血も出ないし、プラモデルやパズルのパーツみたいにパカッと外れる仕組みなんだな!)
検索エンジンによる解説を聞き、陸は「ホッ……」と胸を撫で下ろした。
ルナは小ナイフを逆手に握り直すと、巨大クマの肩口へ迷いなく刃先を滑り込ませた。
視線で筋膜の合わせ目をなぞり、関節の隙間へすっと刃先を噛み合わせる。 そして、ナイフの柄頭を手のひらでトントンと手際よく叩いた。
カチッと心地よい手応えが伝わると同時に、刃筋に沿って皮下脂肪と筋肉が滑らかに分離していく。
角の根元、関節の核、毛皮の境界線——ルナの手元が軽やかに動くたび、吸い付くような手際でパーツが外れ、まるでスーパーの棚に並ぶような綺麗な『お肉のブロック』へと整然と切り分けられていった。
「陸くん、切り分けは私がやるから、この『マジックボックス』に積み込んでくれる?」
ルナがポケットから手のひらサイズの金属箱を取り出し、魔力を通すと、目の前に大型トラックの荷台のような広い保管空間が展開された。
「了解です! 運び込むのなら任せてください!」
仕組みを理解して恐怖心の消えた陸は、腕まくりをして作業に取りかかった。ルナが切り分けた素材ブロックを両手に抱え、マジックボックスへ手際よく放り込んでいく。地球人としての強靭な筋力を持つ陸にとっては、大人数人がかりで運ぶような重量の素材も、まるで空のダンボール箱でも片付けるかのような軽快さだった。
陸はひょいひょいと素材を持ち上げては、マジックボックスの空間へテンポよく放り込んでいく。汗一つかく気配すら無い。
「……陸くんの力がすごいのは分かってたはずなのに、目の前で見るとやっぱり驚いちゃうわね」
巨大な肉のブロックが、次々とマジックボックスへ整然と収まっていく。ルナはその手際を眺めながら、感心したように息を漏らした。
本来なら大人四〜五人がかりで汗だくになり、何時間もかけて運ぶような重さだ。それを陸は、一つひとつ丁寧に、けれど重さを感じさせない軽やかな手つきで次々と納めていく。
「あ、すみません。置き方や順番って、この配置で大丈夫でしたか? 奥から種類ごとに詰めた方が、後で取り出しやすいかなと思ったんですけど……」
「ううん、すごく助かる! そこまで考えて並べてくれるなんて……分かってて頼んだ私でも、陸くんの手際と力にはほんとびっくりしちゃうわ」
ルナはサファイア色の瞳に温かな光をたたえ、嬉しそうに微笑んだ。
ルナの明るい声が静かな森に響き、二人の素材回収作業はあっという間に完了するのだった。
巨大クマとオーガの素材回収を終え、陸とルナは夕渡りの柔らかな光が差し込む大都市ロクスへと戻ってきた。 二人が足を向けたのは、巨大な剣と盾の看板を掲げる『冒険者ギルド・ロクス支部』だった。
「おお、ルナ様! お戻りで……って、な、なんだその巨大な魔物の素材の山はぁぁっ!?」
受け付け奥の広大な素材査定所で陸がマジックボックスの空間から次々と取り出した素材ブロックを目にし、ギルドの査定員たちが、目を丸くして大絶叫を上げた。
二体の肉のブロック、巨大な毛皮、そして強靭な角や皮膚。それらが次々と積み上げられ、査定所に素材の山を作り出していく。
「レベル5の『巨大クマ』に、レベル4の『オーガ』ですか……!? 討伐に向かってから、まだ数時間しか経っていないですよ!?それなのにこんな短時間で、二頭分もの素材が綺麗に揃っているなんて……っ!?」
「ふふ、陸くんが手際よく積み込んでくれたおかげよ」
驚愕する査定員に対し、ルナは深緑色のフードの奥で爽やかに微笑み、胸を張った。
ベテランの査定員たちが手分けして検品を進め、やがて算出された買取額が告げられた。
「両頭の素材、すべて合わせて……『25ゴルド(大金貨25枚=約250万円相当)』での買い取りとなります……!」
250万円相当という、新人冒険者が手にするにはあまりにも途途もない大金だ。ギルドのカウンターでずっしりと重い革袋が手渡されると、ルナはそこから手際よく半額を取り分け、陸に向かって差し出した。
「はい、陸くんの分ね! きっちり半分の12ゴルドと5シルバよ!」
「えっ……!? は、半分もですか……!? いえいえ、ルナさん! 僕は解体を手伝って運んだだけですから、そんなにもらえませんよ!」
驚いて慌てて手を振る陸に対し、ルナは腰に手を当ててキッパリと言い返した。
「何言ってるのよ、陸くん! オーガを倒してくれたのも、この膨大な素材を軽々と運んでくれたのも陸くんなのよ? 半分受け取るのは当然じゃない!」
「でも、大部分はルナさんが綺麗に倒して解体してくれたからで……僕には多すぎます!」
「ダメ! 遠慮しないで受け取って!」
ルナに強く押し切られる形で、陸は恐縮しながら革袋を受け取った。きっちり半額である12ゴルドと5シルバ(約125万円相当)のずっしりとした重みが手に伝わってくる。
すると、受付の奥にある重厚な扉が開き、職員が顔を出した。
「渡辺陸様、ならびにルナ様。ギルドマスターがお呼びです。奥の執務室へお入りいただけますか」
ご覧いただきありがとうございます!
面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や☆評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




