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第25話:新居の嬉しい訪問者(前書きに市場で見かけたエルフ、後書きについにフードを取ったルナの画像)

挿絵(By みてみん)

「いただきます」


 マルタが器を両手で包み、そっと一口含んだ。  次の瞬間、美しい栗色の瞳が丸く見開かれた。


「な……なんですかこれ……っ!? すごく深みがあって、とっても美味しい……っ! 魚の生臭さもなくて、味がじんわり体に染み渡っていくようです……!」


「あ、ありがとうございます……っ!」


 スープを絶賛され、陸は胸を撫で下ろすと同時に、照れくささで顔を崩した。


「これ、完全に乾燥させてあるので何ヶ月も腐らないんです。それで……もしよければ、この煮干しをテスト販売として、宿の朝食や夕食のスープ、煮込みなどに使ってみてもらえませんか?」


 陸は自分の考えを懸命に説明した。


「こちらに来る冒険者さんや行商人さんは長旅で疲れていますし、手軽で温まる美味しいスープがあれば絶対に喜んでもらえると思いますし、料理に使えばさらにおいしくなると思います。まずはお客さんの反応を見て、よさそうなら本格的に展開しようと考えていまして」


陸の提案を聞いたマルタは、感心したようにぱっと明るい笑顔を咲かせた。


「素晴らしいアイデアです、陸様! 確かに朝食でこんなに温かくて美味しいスープが出せたら、泊まりのお客様も大喜びします! 料理にも使ってみたいです。喜んで協力させていただきますわ!」


「ほ、本当ですか! ありがとうございます、マルタさん!」


 マルタに喜んでもらえた嬉しさと、直視した笑顔の眩しさにドギマギしつつも、手応えは上々だった。こうして女将マルタのやっている『若葉の旅籠亭』で『煮干』のテスト導入が正式に決定した。

 陸は照れくささと充実感で胸をいっぱいに満たしながら、今後の量産や仕込みに向けて新居へと戻るのだった。


 新居での作業の合間、陸は『煮干し』の量産や『魚醤』の追加仕込みに必要な小魚、そして上質な塩を買い足すため、活気に満ちたロクスの大通りへと買い出しに向かった。

 

立ち並ぶ露店や行き交う人々の熱気を感じながら歩いていると、人混みの中で陸の視界をすっと横切る人影があった。背が高くスラリとした体躯に、すっと後ろへ伸びた繊細で綺麗な尖り耳。透き通るような肌を持った美しい男女の姿だった。


(あ、エルフだ……。本当にいるんだな)


 周囲の人間たちも特に大騒ぎする風でもなく、ごく普通に行き交っている。その自然な街への溶け込み具合に、陸は大学時代を思い返して妙な納得感を覚えていた。


(この感覚……横浜の街角で外国人の人と普通にすれ違う時の感じに似てるな。珍しくはないけど、やっぱりみんなスタイルが良くて目を引くというか……)


 日常風景として当たり前に溶け込んでいることに感心しつつ、陸は誰にも悟られないよう、目元だけに


『ZEUS』の青いホログラム画面を静かに呼び出した。


(ZEUS、この街のエルフについて検索できるか?)


『——了解。種族【エルフ】について検索します』


 陸の視界の端で、データがスムーズにスクロールされていく。


『検索結果:エルフはフェルナンディア大陸東部に位置する『エルドリア聖樹王国』を主たる居住地としますが、商業都市ロクスをはじめとする人間社会にも一定数が定住、または冒険者や商人として滞在しています。全体人口に対する割合は数パーセント程度存在し、平均して非常に端正な容姿を持っています』


(へえ……そこそこ普通に街に溶け込んで暮らしてるんだな)


『本世界におけるエルフの平均寿命は約120年です。人間は現代日本の人間と同じ平均寿命(約80〜85年)なので、比較しても長寿な種族に分類されます。ただし、成長速度および精神年齢の推移は人間と完全に同等であり、20歳のエルフは人間の20歳と同等の精神的成熟度を有しています。年をとると人間に比べて若く見えます。人間族より結婚年齢は遅く、27歳から35歳と現代日本に近い年齢です。』


(なるほど……! 成長や精神年齢は僕たち人間と全く同じで、長生きで結婚年齢はむしろ現代日本に近いだな)


 検索エンジンによる知識を得て納得した陸は、必要な小魚と塩を買い揃えると、晴れやかな気持ちで職人街の新居へと戻った。

 ◇

 新居の庭で小魚の頭と内臓(ワタ)を取り除き、塩茹でしてから網の上へ並べて天日干しにしていると、木製の玄関扉がトントンと軽やかに叩かれた。


「はい、どなたですか?」


 新居の静けさを破って響いた木製扉のノック音に、陸は「誰だろう?」と不思議に思いながら足早に玄関へ向かい、木製の扉をそっと引き開けた。


 そこに立っていたのは、頭から目元まで深々と深緑色の布フードを被った、しなやかな人影だった。


「陸くん、元気〜?」


 フードの奥から、清らかで親しみやすい声が響いた。その声を聞いた瞬間、陸の胸の奥がドクンと大きく跳ね上がった。一瞬で警戒感が吹き飛び、体中の血が一気に巡るような温かい高鳴りが広がっていく。


「あ、ルナさん……っ! お久しぶりです……!?」


 思わず声が少し上ずってしまい、陸は顔を赤らめながらも、隠しきれない喜びでパッと表情を明るくさせた。つい先日出会ったばかりの、憧れるような美しい年上の女性。そんなルナが、わざわざ自分を探してこの新居まで訪ねてきてくれたのだ。胸の中で飛び上がりたいほどの嬉しさがこみ上げ、陸の目元や口元は自然と和らいでしまうのだった


「『若葉の旅籠亭』へ行ったらね、マルタさんから陸くんの手紙を受け取ったの。引っ越したって聞いて、さっそく教えてもらった場所を頼りに訪ねてきたのよ。……まぁまぁ、中で話させてよ」

 

ルナは周囲の視線を気にするように手早く室内へ入ると、カチリと鍵を閉めた。自由になった室内に視線を巡らせながら


「ふぅ、室内なら大丈夫ね」


と一息つき、両手でさっとフードを後ろへ脱ぎ払った。


「へええ……すごく広くて清潔で、素敵な一軒家ね! 裏手には専用の作業場や井戸もあるなんて……『魚醤』や丸薬づくりをする陸くんにぴったりの場所じゃない!」


 新居をぐるりと見渡して弾んだ声で褒めてくれるルナ。ふわりと広がったのは、黄金のように輝く美しい金髪と、吸い込まれそうなサファイア色の瞳。相変わらず見惚れてしまうほどの圧倒的な美貌——なのだが、その髪の隙間から、すっと伸びた繊細な尖り耳が覗いているのが目に入った。


(あ……耳が尖ってる。……えぇっ!? ルナさんって、エルフだったの!?)


 これまで何度か一緒に行動していたものの、いつもフードの奥の髪で隠れていたため、陸は今の今までルナの種族に気づいていなかったのだ。遅すぎる事実に驚愕しつつ、陸の視線はルナの顔立ちへと吸い寄せられた。


(い、いや……さっき市場でエルフの人たちを見かけて『やっぱりみんな綺麗だな』なんて思ってたけど……ルナさん、エルフの中でも次元が違いすぎないか!?改めて見ても綺麗すぎて直視できない!!)


 以前から知っている美貌であるはずだが、フードの奥でしか見ていなかったことに加え、エルフという事実、何よりも「街で見かけた普通のエルフ」との圧倒的な美しさの違いを突きつけられ、陸は心の中で猛烈な脳内バグを起こして顔を真っ赤にした。陸が一人でドギマギしていることなど知る由もなく、ルナはいつものサバサバとした親しみやすい口調で切り出した。


挿絵(By みてみん)

第25話をお読みいただき、誠にありがとうございます!

今回は、陸の新居にルナが訪ねてきて「ついにフードを脱ぎ払ったシーン」です!部屋に入って深緑のフードをパッと後ろへ脱ぎ払ったその瞬間——。ふわりと広がる純金のような美しい金髪、吸い込まれそうなほど澄み切ったサファイア色の瞳、そして髪の隙間からひっそりと覗く繊細で綺麗なエルフの尖り耳……!ヴェルデ村のエレナや宿屋の女将マルタの美しさにも驚いていた陸ですが、「街で見たエルフと比べても次元が違いすぎる」美貌を目の当たりにして、顔を真っ赤にしながら猛烈に脳内バグを起こしてしまう姿の画像も後書きに添付いたしましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?

さらに、これまで何度も一緒に行動していながら、今の今までルナが「エルフ」であることに気づいていなかった陸の鈍感っぷりもご愛嬌です。

そして次回、大通りを歩く二人に「風の悪戯」が襲いかかり、街中でルナの素顔が白日のもとに晒されてしまうことに……!? ルナの衝撃の正体や、陸の驚異的な腕力を見込んでの大型魔物討伐の手伝いなど、物語はここからさらにスケールアップして動き出します!

【読者の皆様へお願い】 もし「面白かった!」「陸の動揺っぷりが最高だった!」「ルナのフード脱ぎ姿が美しすぎた!」と思っていただけましたら、作品ページ下部の**【★★★★★(評価)】やブックマーク登録**、感想コメントで応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

それでは、第26話もどうぞお楽しみに!

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