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第23話:う、うまい!(後書きにライアスとエレナの画像)

「お待たせしました。僕の故郷の料理で『手打ちうどん』と『筑前煮(ちくぜんに)』と言います」

 陸が運んできた器からは、温め直した筑前煮とうどんの湯気が立ち上り、煮干し出汁と煎り酒の香ばしい匂いがふわりと広がった。


「う、うまい……っ。噛むと押し返してくるようなすごい弾力なのに、喉越しが滑らかで……スープの味が噛むたびに口いっぱいに広がる……!」

 

ライアスはうどんを食べると、その強いコシと出汁の味わいに目を見張り、噛みしめるように呟いた。


「おいしそう……! 私も……」


 エレナも静かに一口、麺とスープを口に含む。  次の瞬間、ハッと息を呑んで目を見開いた。


「なに、これ……っ!? こんな食感、食べたことがありません……! 噛むと押し返してくるのにツルツルと喉越しが良くて……それに、この温かいお出汁が体中に染み渡って、長旅の疲れが一気に吹き飛んでいくようです……! この筑前煮も中までしっかり味が染みていて本当においしいです。陸様、本当にすごいお料理です! ぜひ後で作り方を教えてください」


「俺からも頼みます。こんな料理、村のみんにも食べさせてやりたいです」


 二人は夢中で麺をすすり、具だくさんの筑前煮を口へと運んでいく。ゴボウや蓮根の歯ごたえや、出汁を含んだ鶏肉を味わいながら、きれいに器を空にしていった。


 自分のもてなした故郷の味がしっかりと受け入れられたことを感じ、陸は胸の奥がじんわりと温かくなるのだった。


 手打ちうどんと筑前煮で長旅の疲れを癒やしたあと、陸、ライアス、エレナの三人は大通りに店を構える『ボルツ商会』へと向かった。


 扉を開けて店内に入ると、店主のボルツが満面の笑みで三人を出迎えた。


「おお、陸殿! それにヴェルデ村のライアスとエレナではないか!遠路はるばるよく来てくれた!」


「ボルツさん、約束通り開拓村から木炭と【胃整草】を運んできました」


「おお! 早速見させてもらおうか。なりほど、どれも実に素晴らしい上物だ! 陸殿、これなら最高の丸薬ができるな」

 

ボルツは嬉しそうに髭を撫で下ろすと、事前に準備しておいた革袋に入った仕入れ代金をライアスへ手渡した。予期していた以上の十分な金貨と銀貨を目にして、ライアスとエレナは顔を見合わせて喜びを深めた。


「ボルツさん、ありがとうございます! 陸さんのおかげで、村にとってもありがたい収入になります」


「本当にありがとうございます。……陸さん、私たちはこれから、いただいた代金で村に必要な農具や日用品を買い揃えてから帰ろうと思います」


「あ、それじゃあここで一度お別れですね。ライアスさん、エレナさん、お元気で。気を付けて帰ってくださいね!」


「はい! 陸さんもお元気で。また新しい材料が集まったら届けに来ますからね!」


 二人は陸へ深く感謝の礼を捧げると、活気に満ちた市場の通りへと仲良く買い出しに向かっていった。中の良さそうな背中を見送り、陸もまた自分の新しい拠点へと足を向けた。

 ◇

 職人街の裏手の新居に戻った陸は、さっそく裏手の広い作業場へ腕まくりをして入った。

(さあ、届いた木炭を、薬効を高めるために『活性炭』へ精製するぞ!)


ヴェルデ村から届いた上質な木炭を土窯の中へ丁寧に並べ、空気を遮断した状態で高温で密閉加熱していく。普通の木炭の中に無数の微小な穴(多孔質)を作り出し、体内毒素の吸着力を跳ね上げる『活性炭』の精製作業だ。


 大量の薪を運ぶ重労働も、地球環境で鍛えられた陸にとっては部屋の雑誌を片付けるように軽いものだった。

 

作業場の土窯の前に薪を置くと、陸は『ZEUS』の画面を呼び出し、火起こしと薪の組み方を検索した。  視界に流れる図解を確認しつつ、実際の窯焚きは初めてのため、空気の通り道を意識して探り探り薪を組み上げていく。

 

火種用の生活魔導具で火を点け、組み上げた薪の隙間へそっと差し入れた。

 

パチッと小さな音を立てて煙が上がり、炎が木肌を這い始める。ZEUSの検索通りに薪の位置を微調整していくと、火は勢いを増し、土窯から温かい熱気が吹き出してきた。

土窯から細く白い煙が立ち上り、作業場に木炭の匂いが広がっていく。


(よし、これでじっくり蒸し焼きにすれば、上質の活性炭ができるはずだ。冷めたら粉末にして、胃整草の抽出液と練り合わせて丸薬に加工しよう。)

 ◇

 作業の合間、陸は床下の涼しい場所に据え置いた大きな陶器の壺に視線を落とした。 昨日仕込んだばかりの魚醤の壺だ。


(マジックボックスに入れると状態が維持されて発酵が進まなくなってしまうからな……。魚醤は、魚が自らの酵素で分解されて旨味に変わるまで、半年から一年という長い熟成時間がかかる。温度が一定で直射日光の当たらないこの床下で、じっくり寝かせるのが一番だ)


実家のスーパーで、仕入れや在庫管理の現場改革を仕切っていた兄の言葉が、陸の頭の中に蘇ってきた。


『商品ができるまでに時間がかかるものほど、一回仕込んで終わりじゃ駄目だ。タイムラグを計算して、一定の周期で定期的に仕込み続けなきゃ、将来の供給が途切れちまう』


陸の目がキラリと光った。


(そうだ……! 半年後に一回完成して終わりじゃ意味がない。毎週、市場で新鮮な小魚と海塩を一定量仕入れて、新しい壺に仕込んでいこう。そうすれば半年後には、毎週のように極上の魚醤が順番に熟成して完成し続けるサイクルができる!)


熟成を待つ間は、昨日考案した即席の万能調味料『煎り酒』を毎週定期的に仕込んで売り出しつつ、床下では魚醤を計画的にストックしていく。


商業都市ロクスでのビジネスの基盤が、一歩ずつ組み上がっていくのだった。


蒸し焼きにされた木炭の香ばしい煙が漂っていた。土窯から取り出された木炭は、表面が無数の微小な穴で満たされた『活性炭』へと見事に生まれ変わっていた。

 

陸は活性炭をすり潰して黒い粉末にし、ライアスたちが届けてくれた【胃整草】の濃厚な汁と練り合わせていった。手作業で薬を練り丸める作業などやったこともなかったが、地球環境で培われた筋肉と骨格、そしてこの世界の軽い重力のおかげで、重たく粘り気のある生地を捏ねる作業も何ひとつ苦にならなかった。軽く力を込めて押し込むだけで、漆黒の生地は吸い付くように滑らかなまとまりを見せた。


(でも、これを僕一人で毎回手作業で練って丸めるのは限界があるな……。いずれヴェルデ村のみんなに作業を委託することになるんだから、今のうちに工程をきちんと整理しておこう)


 AI検索エンジン【ZEUS】を起動し、『医薬品・食品製造における標準作業手順書(SOP)』と『品質管理の標準化手法』を検索。画面に表示された「作業者の違いによる品質のばらつきを防ぎ、製品の信頼を守るための工程標準化ルール」を知識としてインプットすると、陸は手元を止め、羊皮紙とペンを取り出した。将来の村への委託を見据えて、作業手順を詳細にメモしていった。


 生薬の葉の重量に対する汁の抽出割合、活性炭粉末との正確な混合比率。さらには「井戸水での手洗いを徹底する衛生手順」や「ひんやりとした生地を手で捏ねる際の固さの目安」、秤を用いた一粒あたりの均一な寸法と、風通しの良い日陰での乾燥時間——。


 炭を土窯で超高温処理する核となる製法は自分のもとで守りつつも、村の人々が迷わず安全に作業でき、誰が作っても均一な品質が保てるような丁寧なマニュアルを、着々と形にしていくのだった。


(よし、丸薬の初回量産分はこれで完成だ。……それと、仕込んでおいた『あれ』も持って行こう)



挿絵(By みてみん)

ご覧いただきありがとうございます!

地球の知識と作られた温かいうどん。一口食べたライアスの「う、うまい……!?」と目を見開く驚きの表情と、美味しそうに味わうエレナの姿、 お箸ではなく「木製フォーク」で器用にすくって食べているのも、異世界ならではです。

異世界の人々が日本の美味しい料理に出会い、その美味さに驚き笑顔になっていく場面は、書いていてもとても楽しいひとときでした。

「うどんが食べたくなった!」「ライアスのリアクションいいね!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや高評価(★)、感想などで応援していただけると執筆の大きな励みになります!


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