↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/35

第22話:異世界で日本の食べ物

(熟成を待たずに、醬油や魚醤の代わりになる日本の調味料って何かあるか?)


『——該当回答:江戸時代の万能調味料【煎り酒(いりざけ)】。醤油や魚醤が普及する以前、梅干しと酒を煮詰めて、抽出した調味料です』


(え、梅干しなんかないぞ、代わりのものでつくれないか)


困惑した陸がZEUSに追加で質問すると、青い画面の上に検索結果が表示された。


『代用レシピを検索。本世界で入手可能な素材——【素焼きにした小魚】の旨味成分(イノシン酸)、酒のコク、塩、そしてレモンに似た酸味を持つ柑橘果汁を合わせることで、同等の『煎り酒』に類似した調味料が可能です』


(なるほど……! 梅干しの代わりに酸味のある果汁を使って、素焼きにした小魚で出汁を取ればいいのか!)


台所に立った陸は、石造りの調理台に据えつけられた不思議な構造のかまど(調理台)を見つめた。

薪や火種を入れる穴はなく、台の側面に小さな青い魔石と、真鍮製のつまみスイッチが備え付けられている。


 陸がカチリとつまみを押し込んで軽く回すと、側面にはめ込まれた魔石がほんのりと青く光り、調理口の底に刻まれた微小な魔法陣から、ジュッと音を立てて安定した赤青い炎が綺麗に立ち上った。


(本当にすごいよな-、スイッチ一つで火がく)


 火力を強めようとつまみをさらに回すと、炎の高さが滑らかに大きくなり、弱めるとすっと小さくなる。


(この世界、攻撃魔法は火種や明かり程度しか出せないって聞いてたけど……そのぶん生活魔法の魔導具技術が妙に発展してて、現代のガスコンロ以上だ! 薪をくべる手間も煙も出ないし、火加減の調整までできるなんて……めちゃくちゃ快適でありがたいぞ。)


陸は、魚醤に使わなかった小魚をサッと水洗いして水気を切ると、かまどの網に並べて表面を香ばしく素焼きにしていく。パチパチと軽い音が響き、魚の香ばしい匂いが立ち上った。


 旨味の凝縮した小魚を鍋に移し、異世界の酒、塩、そしてレモンに似た酸味を持つ果汁を注ぎ入れる。弱火でじっくりと煮詰めていくと、魚の深い旨味と酒の甘味、ほのかな酸味が溶け合った香ばしい匂いが台所いっぱいに広がった。


(すごく良い香りだ……! 魚醤の熟成を待たなくても、これなら今日すぐに使えるぞ!)

 出来上がった澄んだ琥珀色のつゆを木匙で少量すくい、冷ましてから口に含む。塩味だけでなく、魚の旨味と酒の甘味、爽やかな酸味が一体となって広がり、陸の顔に自然と笑みがこぼれた。


(よし、これで日本の味に近づいた! 小瓶に詰めて売り出せば、新しい商品としても展開できそうだぞ)


 実家のスーパーで手伝った商売の直感が働き、陸の胸が高鳴った。


つづいて陸は、昼食のメインとなる『手打ちうどん』の下ごしらえに取りかかった。生地を捏ねたあと、生地を落ち着かせて強いコシを引き出すために、一時間以上じっくりと寝かせる(熟成させる)必要がある。二人が到着してから作り始めたのでは、何時間も待たせることになってしまうからだ。


 小麦粉と塩水を鉢に合わせ、両腕で押し込むように捏ね上げていく。地球人の肉体から繰り出される力によって、ものの数分で吸い付くようなツヤと弾力を持つ極上の生地が完成した。それを濡れ布巾で包み、静かに休ませておく。


(これで、生地の寝かせも、つゆの仕込みも完了だ。あとは二人が着くのを待つだけだな)

 生地がちょうど良い熟成具合を迎えた頃、表の通りから懐かしい声が響いた。


「陸さーん! 居らっしゃいますか!」

 

作業場の扉を開けて外へ出ると、そこには大量の木炭と色鮮やかな【胃整草】を山積みにした手押し車を押す、ライアスとエレナの姿があった。


「ライアスさん! エレナさん! 本当にお二人が届けてくださったんですね!」


「当たり前ですよ、陸さん! 僕たち夫婦の命を救ってくれた恩人に会うためなら当然です!」


 ライアスが爽やかに笑い、エレナも嬉しそうに頷いた。無事な再会を喜び合った陸は、二人を真新しい一軒家の中へと迎え入れた。


「遠くから運んでいただいて、本当にありがとうございます。街道の長旅でお腹も空いているでしょう。ぜひ昼食を食べていってください!」


「えっ、陸さんがお料理を……? 嬉しいですが、お気を使わせるわけには——」


「準備はもう整っていますから、遠慮なさらないでください!」


 二人を居間に通した陸は、台所へと向かった。  しっかりと寝かせてつやのある状態になった生地を取り出し、打ち粉を振って薄く均一に伸ばすと、包丁で細く整然と切り揃えていく。


 かまどの大鍋でぐらぐらと煮立つお湯の中へ麺を放ち、手際よく茹で上げる。井戸の冷水できゅっと締めた後、もう一度お湯であたためた真っ白な麺を深い木鉢に盛りつけ、そこへ事前に作っておいた『煎り酒』と素焼きにした小魚で出しを合わせた熱々のスープをたっぷりと注ぎ込んだ。


「お待たせしました。僕の故郷の料理で『手打ちうどん』と『筑前煮』と言います」


 陸が運んできた深鉢からは、温め直したことでさらに強く立った湯気とともに、素焼きの小魚の出汁と煎り酒の甘くて香ばしい香りがふわりと広がった。

 

この筑前煮は、あらかじめ作って冷まし、時間をかけて中までしっかりと味を染み込ませておいたものだ。それを、うどんの茹で上がるタイミングに合わせて直前に温め直して盛り付けたのだった。


 筑前煮は酒と水にハチミツと『煎り酒』をベースに煮上げている。一口大に切った鶏肉を炒めて旨味を閉じ込め、ゴボウ、人参、蓮根、そして食感の良いキノコとともにじっくり火を通したあと、時間を置いてしっかりと味を含ませてあったのだ。


この世界には地球の根菜やキノコと変わらない新鮮な野菜が揃っていたため、日本の煮物の味に近いものが再現できていた。

 

温め直されたことで鶏肉の脂とがふたたびじわっと溶け出し、乱切りにしたゴボウや蓮根の歯ごたえとともに、噛むたびに口いっぱいに広がる。


 湯気が立つ木鉢が運ばれてくると、ライアスとエレナは目を見張った。  透き通ったつゆの中に、艶やかな太麺が整然と横たわっている。


「まあ……なんて香ばしくて良い香りでしょう……!このいい香りが鼻をくすぐります」


「見たこともない料理だ……! 陸さん、いただきます!」


 ライアスが木製のフォークで麺をすくい、おずおずと口へと運んだ。 次の瞬間、ライアスの目が飛び出さんばかりに見開かれた。


ご覧いただきありがとうございます!

今回は陸が日本の味を異世界で再現に挑戦しました。

面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や☆評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。