第18話:また会ってくれる!
「さっきレストランで約束してくれたじゃない。『魚醤』という素晴らしい調味料が完成したら、真っ先に私にご馳走してくれるって!」
「あ……! はい、もちろんです! 美味しい魚醤ができたら、ルナさんに一番に食べてもらいたいです!」
(本当に食べてくれるんだ!ただの挨拶じゃなくて。いいのか?本当に?こんな綺麗な人と)
「嬉しいわ! だったら、明日また冒険者ギルドの前で待ち合わせをしない? ギルドの登録をお手伝いするし、魚醤作りに必要な最高の小魚や大きな陶器の壺が手に入るお店も、私が案内するわよ!」
ルナの親しみのある嬉しい提案に、陸の胸がキュッと温かくなった。
(ルナさんが……また僕と一緒に買い出しに行ってくれるんだ……!)
今まで女性と二人で出かけることすら無縁だった陸にとって、こんなにも素敵な人と
「明日また会う約束」ができることが、飛び上がりたいほど嬉しかった。
「ルナさん……ありがとうございます! ぜひ、よろしくお願いします!」
「ふふっ、決まりね! それじゃあ、明日またギルドの前で」
月明かりの下、黄金の髪をふわりと揺らしたルナは、どこか愛らしく微笑んだ。
「おやすみなさい、陸くん。明日の朝を楽しみにしているわね」
「はい! ルナさんも、おやすみなさい!」
ルナが軽やかな足取りで宿の方へと帰っていく後ろ姿を、陸はずっと見送っていた。 彼女の姿が見えなくなったあとも、陸の胸の鼓動は静まるどころか、高鳴り続けていた。
(やった……! 明日もまた、ルナさんに会える……!)
異世界で出会った、この上なく美しい女性。そんなルナと交わした「明日の待ち合わせ」と「完成した魚醤をご馳走する」というふたつの約束。
陸は跳ね上がる胸の高鳴りを噛み締めながら、宿屋『若葉の旅籠亭』の部屋へと足早に向かうのだった。
爽やかな朝の光が、ロクスの石畳を柔らかく照らしていた。宿屋『若葉の旅籠亭』で目を覚ました陸は、いつもより手早く身支度を整えると、そわそわとした足取りで宿を出発した。
大通りを進む陸の胸の中は、いくつもの感情がごちゃ混ぜになって高鳴っていた。これまで女性と二人で出かけたことすら一度もない。そんな陸にとって、息を呑むほど綺麗な年上の女性と今日もこうして二人で過ごせるという事実は、照れくささと、胸が跳ね上がるような高揚感をもたらしていた。昨夜交わした約束を思い返すだけで、気恥ずかしさと期待が胸の奥からこみ上げてくる。
落ち着かない心地のまま歩くうちに、巨大な剣と盾の紋章が掲げられた重厚な石造りの建物——『冒険者ギルド・ロクス支部』が見えてきた。その入口の横で、深緑色のフード付きケープを羽織った人物が静かに佇んでいた。
「ルナさん!」
陸が少し緊張した声をかけると、その人物——ルナがすっと静かに振り返り、目元まで深く被っていたフードを指先でそっと持ち上げた。
フードの影から覗いたのは、隙間からこぼれて朝光に輝く純金のような髪と、吸い込まれそうなほど澄み切ったサファイア色の瞳。フードを被ったままの状態であっても、隠しきれない気品と圧巻の美貌が鮮烈に伝わってきた。
深緑のケープの下には、しなやかな身体のラインに沿った質の良い服と、胸元や両腕を守る精巧な革のチェストガードやアームガード。細身のパンツに膝上まで伸びる革製ブーツを履きこなした立ち姿は背筋がすっと伸びて隙がなく、腰の細身の剣や背の弓と合わさって、洗練された佇まいを際立たせていた。
陸が少し顎を引いて視線を落とすと、ルナはサファイア色の瞳をわずかに上げるようにして、表情を親しみのあるものに和らげた。
「おはよう、陸君。時間通りね」
立ち居振る舞いの一つひとつがしなやかで洗練されていて、立ち寄る人々を自然と惹きつける圧倒的な存在感。熟練冒険者ならではの堂々とした立ち振る舞いに、陸は思わず気圧されそうになりながらも、はにかんで深く頷いた。
「あ……お、おはようございます、ルナさん! 僕も……すごく楽しみにしてました!」
「ふふっ、ありがとう。ギルドの手続きは私に任せてね。さあ、こちらへ」
ルナは優しく微笑むと、迷いのない足取りで陸をリードし、ギルドの重厚な二重扉を軽やかに押し開けた。
◇
一歩館内へ入ると、朝早くから大剣や斧、頑丈な金属鎧を身につけた荒々しい冒険者たちが大勢集まり、怒号のような話し声と活気に満ちあふれていた。筋骨隆々とした大男たちに少し縮こまりそうになる陸だったが、ルナは全く動じることなく、自然な身こなしで陸を背後にかばうように進んでいく。その洗練された佇まいとしなやかな足取りだけで、周囲の冒険者たちが思わず道を空けてしまうほどだった。
受付カウンターへ辿り着くと、ルナはフードの奥から素顔を覗かせ、受付の女性職員だけに聞こえる控えめで落ち着いた声で話しかけた。
「新しく冒険者の登録をお願いしたいのですが。この方の手続きです」
受付職員は一瞬、黄金のように輝く金髪、サファイア色のきらめく潤んだ瞳、フードを被っていてもわかるルナの美貌に息を呑み、固まった。そしてすぐに、それが王都まで名を馳せるAランク冒険者『月銀の舞姫』ルナ本人だと気づき、顔色を変えて姿勢を正した。
ご覧いただきありがとうございます!
陸も冒険者への第一歩を踏み出しました。
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