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第17話:た、ただの大学生です

陸の身体が勝手に動き出していた。 ルナを守ろうとする直感と、地球人としての肉体が、陸の背中を強く押し出したのだ。


 陸はルナの前へと割り込むと、猛スピードで突進してきた剛牙猪を、正面から素手でガシッと受け止めた。


ガシッ!!


「え……!?」

 

ルナがサファイア色の瞳を限界まで見開いた。土佐犬サイズの塊とはいえ、岩をも砕く勢いで突っ込んできた魔物だ。生の人間なら一撃で骨が砕け、吹き飛ばされるはずだった。


しかし——陸の足元は石畳にしっかりと固定されたように微動だにせず、衝撃音すら静かだった。地球の重力で培われた圧倒的に高密度な骨・筋肉・皮膚の頑健さと、この世界の低重力補正。陸にとって、目の前の魔物の突進など、小さな子供との相撲程度でしかなかったのだ。


「ブグッ……!?」


剛牙猪自身も、自分の全力の突進が一切通じず、素手でピタリと受け止められたことに呆然と目を丸くした。


(よし……怪我させないように、外へ押し出すか……!)


 陸は両腕に軽く力を込めると、正面からぐっと押し込み、子供のころにやった相撲の要領で一気に突き飛ばした。


 ドカァン!!


「ギャンッ!?」


 陸の規格外の地球人パワーによって、魔物は数メートル先の壁へと激しく衝突、そのままぐったりと気を失って倒れ込んだ。


 静寂が路地を支配した。


「ひ……ひいいぃぃっ!!」


 自分たち解き放った魔物が、ただの青年にしか見えない陸の素手と怪力で一瞬で投げ飛ばされた光景を目にし、悪徳店主と残ったゴロツキは恐怖のあまり悲鳴を上げてその場に座り込んでしまった。


「動くな! 警備兵だ!」


 ボルツの通報を受けて巡回していた十数人の衛兵たちが、騒ぎを聞きつけて武器を構えて路地へと雪崩れ込んできた。陸とルナは、腰を抜かして震える悪徳商人とゴロツキたちをそのまま衛兵たちへと突き出した。極上の香木を買い叩こうとした詐欺未遂、危険な魔物の街中放流、そして襲撃の罪により、商人たちは顔を真っ白にしながら連行されて行った。


騒動が収まり、再び静けさを取り戻した夜の街路。陸は恐縮しながら、手元をさすった。


「ふぅ……怪我がなくて良かったです」


「陸くん……」


振り返ると、ルナが深緑色のフードの中から、サファイア色の瞳を輝かせながら陸を直視していた。その美しい顔には、隠しきれない驚愕と強い興奮が浮かんでいる。


「陸くん、今の……一体なんだったの!?あの突進してきた剛牙猪を素手で正面から受け止めて、一瞬で放り投げてしまうなんて……! 陸くん、本当は凄まじい怪力を持っているのね……!?」


「え、ええっ!? ち、違いますよっ! 僕、ただの大学生で……ほんとにちょっと体が頑丈で力が強いだけで……っ!」


顔を真っ赤にして両手を振る陸だったが、百戦錬磨のAランク冒険者であるルナの目は誤魔化せなかった。ルナは嬉しそうにサファイア色の瞳を輝かせると、陸の手を両手でギュッと包み込んだ。


「陸くん!その凄まじい腕力と、あの素晴らしい商売の知恵や判断力があれば、どんな難しい依頼でも解決できるわ! 私と一緒に、冒険者になってパーティを組みましょうよ!」


「ええぇぇっ……!? ぼ、僕が冒険者に……!?」


思いもよらない熱烈なスカウトに、陸は目を丸くして大声を上げてしまうのだった。

夜の裏路地に、陸の裏返った叫び声が響き渡った。両手をギュッと包み込んできたルナのサファイア色の瞳は、純粋な感動と期待でキラキラと輝いている。


「ええ! 陸くんのその凄まじい腕力と、あの素晴らしい商売の知恵や判断力があれば、どんな難しい依頼でも解決できるわ!私と一緒にパーティを組んでくれたら、これ以上心強いことはないわ!」


「い、いやいやっ! 滅相もないです……っ! ルナさんは『月銀の舞姫』なんて呼ばれる凄いAランク冒険者なんですよね!? 僕なんて、ただの大学生で……さっきのだって、体が頑丈でちょっと力が出ちゃっただけなんです!」


顔を真っ赤にして恐縮し、首を振る陸。アパートと大学を往復して、実家のス-パ-を手伝っていただけの自分が、異世界の見たこともないほど美しすぎるAランク冒険者と肩を並べて戦うなど、恐れ多すぎて想像すらできなかった。


「ふふっ、本当に陸くんは謙虚な人ね」


陸のわかりやすい反応に、ルナはくすりと笑うと、優しく手を離してサファイア色の瞳を柔らかく和らげた。


「でも、冒険者ギルドに登録しておいて損はないわよ。街での身元証明にもなるし、素材の仕込みや買い出しでもギルドの施設やコネが使えるようになるんだから」


「あ……身元証明や、買い出しにも便利なんですか……?」


「ええ! それに……」

ルナは胸の前で両手を合わせ、サファイア色の瞳を輝かせた。


ご覧いただきありがとうございます!たくさんの方に読んでいただき誠に嬉しく思います。

現在60話まで書いていて、毎日リライトしています。最終までのプロットはほぼ決めており、本作はハッピ-エンド確約です。続きを読みたいと思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や**評価(★★★★★/いいね)**で応援していただけると、最後まで書く元気になりますのでよろしくお願いいたします。


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