第16話:絶世の美人な上にAランク冒険者
まさかのルナの前向きな返事に、こんなに綺麗な女性が本当に来てくれるのだろうか、今は香木を売る手助けをしたお礼に過ぎないのに、という思いが強かったが、嬉しさがまさり、つい大きな声で答えた。
「本当ですか! 美味しいのができたら、真っ先に連絡します!」
「ふふっ、楽しみに待っていますね」
ルナは心から嬉しそうに微笑んだ。
これまで彼女なんて一度もできたことがなく、女性と話すだけで緊張していた自分が、こんなにも素敵な人と「次に会う約束」をすることができたのだ。しかし、すぐに疑念もわきあがってきた。
(やった……! またルナさんに会える……!でも本当に会ってくれるかな?会ってくれるよな?その時には忘れてしまわないか?Aランク冒険者でしかも美人だし・・・・)
陸は胸の中でルナが本当に会ってくれるだろうか、と何度も考えが逡巡したが、
(ええい、とにかく会う理由は一個できたんだ、これから仕込む『魚醤』を絶対に成功させよう)
と、強く心に誓うのだった
美味しい料理を堪能し、レストランを出た陸とルナは、夕暮れ時の穏やかな風が吹き抜ける石畳の通りを歩いていた。
「……それでね、そのワイバーンが上空から炎を吐いてきたから、岩陰から大跳躍して背中に飛び乗ったのよ」
「ええ……! 背中に飛び乗るなんて、おとぎ話や神話みたいな話ですね……! ルナさん、本当にすごいです!」
歩きながら聞くルナのAランク冒険者としての体験談は、スケールが大きく臨場感に満ちていた。陸が
(本当にアニメやゲ-ムの世界みたいだ。こんな世界にいるのか。)と
目を輝かせて感動してると、深緑色のフードを目深に被り直したルナは、どこか照れくさそうに微笑んだ。
「ふふ、無我夢中だっただけよ。その時は必死だったんだから」
二人が和やかに会話を交わしながら、人通りの少ない裏路地へと足を踏み入れた、まさにその時だった。
「へっへっへ……やっと見つけたぞ、生意気な小娘と小僧め!」
前方の曲がり角から、品性を疑うような濁った声が響いた。現れたのは、先ほど市場でルナの希少な香木を出鱈目な理屈で買い叩こうとしていた悪徳店主だった。その背後には、ギラギラとした刃物や棍棒を手にした無骨な男たちが六人ほど、不敵な笑みを浮かべて立ち塞がっていた。
(あ……さっきの市場の商人だ……!)
陸が思わず身構えると、悪徳店主は顔を歪めて下品に嘲笑した。
「俺様の稼ぎ時を邪魔しやがって……! 雇ったゴロツキどもに、その澄ましたツラを泣き面に変えてもらうぜ! 野郎ども、やっちまえ!」
「へっ、任せてくんな!」
刃物を構えたゴロツキたちが、一斉に二人めがけて襲いかかってきた。 突如始まった暴力の気配に陸の心臓が跳ね上がったが、隣に立つルナの佇まいは一瞬で冷徹な冒険者のそれへと切り替わっていた。
「陸くん、下がっていて!」
凛とした声が冴え渡ると同時に、ルナの身体がしなやかに躍動した。
「な……っ!?」
先頭の男が振り下ろした鉄の棍棒を、ルナは紙一重の体さばきで半身になってかわした。刃物を掠めることすら許さない流麗な動き。そのまま男の懐へ滑り込むと、華奢な手首で相手の腕を払い、顎下へ掌打を素早く叩き込んだ。
ドカッ!
「ぶへっ!?」
一撃で脳を揺らされた男が白目を剥いて崩れ落ちる。 間髪入れず、左右から襲いかかってきた二人の男に対し、ルナは風を斬るような回し蹴りを叩き込み、一瞬で無力化してみせた。
(す、すごい……! これがAランク冒険者の動きなのか……!)
流れるような体さばきと打撃。陸が驚愕して見とれている間に、ゴロツキたちの過半数が地面に転がって悶絶していた。
「ひ、ひぃぃっ……!? なんだこの女、強すぎるぞ……っ!」
予想外のルナの強さに、残ったゴロツキと悪徳店主が顔を真っ青にして後退りした。追い詰められた店主は、口笛を指で鳴らし、暗がりで待機させていた頑丈な籠の留め金を外した。
「チクショーめ! 密輸で仕入れたこの口封じ用の『剛牙猪』で、噛み殺してやる!!」
奥の暗がりから、不吉な荒い息遣いとともに、土佐犬ほどの大きさの赤い目を光らせた凶暴な魔物が姿を現した。鋭く突起した二本の牙を剥き出しにし、低く咆哮しながらルナへと弾丸のように突進してくる。
「くっ……路地で魔物を放つなんて……っ!」
狭い路地では足さばきが制限される。ルナが即座に腰の剣へ手を伸ばし、身構えたその瞬間——
「ルナさん、危ないっ!」
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