第14話 あれ、ルナさんって?
「すごいです……! あんなに鮮やかな商業の知識と冷静な交渉で、悪徳商人をやり込めちゃうなんて。てっきり私よりずっと年上の方だと思ってました!」
「えっ……僕より年上なんですか……!?」
今度は陸の方が見事につられたように驚いた。フードで顔立ちは見えないものの、そのしなやかな体つきや漂う雰囲気からは全く年齢が読めないものの、若々しい声から陸は勝手に年下の女性だと思っていたのだ。
「ふふっ、驚きました? 私、二十四歳なんですよ」
「に、二十四歳……!? 五つも年上……!」
ルナが楽しそうにクスリと笑うと、陸は思わず息を呑んだ。
(ええっ……僕より五つも年上だったんだ。雰囲気がすごく大人で落ち着いているから言われていみると納得だ。)
「陸さん? どうかしました?」
「あ、いえっ! あまりにも雰囲気がミステリアスで綺麗だったので、年齢が全く分からなくてびっくりしちゃって……っ!」
顔を真っ赤にしながら恐縮する陸に、ルナはフードの奥で柔らかくサファイア色の瞳を和らげた。
「ふふ、ありがとうございます。陸さんはお若いのに、本当に謙虚で誠実な方ですね」
お互いの年齢を知ったことで、二人の間の緊張がふっとほぐれ、どこか微笑ましい親近感が漂い始めた。
やがて、年季の入った木製の看板を掲げる老舗『ボルツ商会』の前に到着した。重厚な扉を押して足を踏み入れると、干し薬草の独特の香りと共に、奥から立派な白髭を蓄えた初老の店主・ボルツが出てきた。
「おや、陸殿! 早いお越しだな。宿は無事に見つかったかね?」
「ボルツさん! はい、おかげさまで『若葉の旅籠亭』ですごく安全で清潔な部屋を借りられました。……実は今日、ボルツさんに一人紹介したい人がいて、まいりました。」
陸が促すと、連れてきた人物は深くかぶっていた深緑色のフードを、指先で少しだけ持ち上げた。 朝の光が影を照らし、フードの奥から覗いたのは、どこまでも深く澄み渡ったサファイア色の瞳。フードを目元までかぶったままであるにもかかわらず、隙間からこぼれる純金のような金髪と、隠しようもない圧巻の美貌がはっきりと見て取れた。
その顔を目にした瞬間、経験豊富な商人であるボルツは目玉が飛び出さんばかりに見開き、ガタッと身を乗り出した。
「な……っ!? こ、この美貌と気品……! も、もしや貴女様は、エルドリア聖樹王国が誇るAランク冒険者……『月銀の舞姫』ルナ様ではございませぬか!?」
「まあ、私のことをご存知なのですか? はじめまして、ボルツさん。ルナと申します」
ルナが品良くお辞儀をすると、ボルツは白髭を激しくひくつかせて大慌てで頭を下げた。
「お名前は王都まで響き渡っておりますぞ! まさか我が店にAランクの凄腕冒険者様がお越しになるとは……! 陸殿、一体どういう繋がりなのだ!?」
「ええっ、Aランク冒険者……!? ルナさんって、そんなにすごい有名人だったんですか!?」
陸が素で目を丸くすると、ルナは少し照れたように微笑んだ。
「ふふ、冒険者稼業を長くやっているだけですよ。……ボルツさん、実は聖樹海の最深部から持ち帰ったこの香木を売りに来たのですが、市場で買い叩かれそうになって困っていたんです」
ルナが大切に抱えていた24束の香木をテーブルの上へ並べると、ボルツは手袋をはめて慎重に手に取り、その芳醇な香りに息を呑んだ。
「むむむっ……! これは聖樹海の最深部でしか採れん、最高級の極上香木……! 燃やせば精神を極上の平静へと導き、王族や大聖堂の儀式用として金に糸目をつけず求められる国宝級の逸品だ! さっき大市場で全部まとめて50ブロン(5万円相当)で買い叩かれそうになったですと!? とんでもない!あの悪党どもめ!ロクスの商人の恥だ。官憲に訴えてやる。」
ボルツは激怒して拳を握り締めると、陸とルナに向かって力強く頷いた。
「ルナ様、我が商会が全責任を持って正当な取引をさせてもらいます! この品質なら一束あたり『5ゴルド(50万円相当)』……24束で【120ゴルド(大金貨120枚=約1,200万円相当)】という適正な価格で買い取らせていただきますが、いかがでしょうか?」
「えぇ……っ! 120ゴルド……!? 1,200万円……!?」
さっきの悪徳商人が提示していた「全部で50ブロン(5万円)」という出鱈目な金額と比べ、本来の価値はなんと24倍という圧倒的な差額だった。陸は開いた口が塞がらなかった。
「まあ……! 120ゴルド……! ボルツさん、本当にありがとうございます!」
「とんでもない、礼なら私ではなく、君を我が店へ案内してくれた陸殿に言ってくだされ!それに、そんな騙すようなことをしてはロクス商人全員の信頼に関わります。」
ボルツが嬉しそうに笑う横で、ルナは胸の前に手を置き、深く澄んだサファイア色の瞳で陸をじっと見つめた。 自分を救ってくれて「一人の人間」として親身に接し、正しい取引の道へ導いてくれた青年。ルナの胸の奥で、陸に対する強い敬意と信頼が固く結ばれるのだった。
ボルツ商会での120ゴルドという破格の取引を終え、二人で店をあとにした。 深緑色のフードを目深に被り直したルナは、嬉しそうに並んで歩きながら、陸へ向けて爽やかに声をかけてきた。
「陸さん、本当にありがとうございました! 助けていただいたおかげで、無事に正当な価値で買い取ってもらえました」
「いえいえ、120ゴルドなんて僕も本当にびっくりしましたけど……無事に買い取ってもらえて良かったです!」
「ふふっ、私一人じゃあのお店で適当な屁理屈に押し切られていたかもしれません。……自分の脚で危険な場所まで潜り、己の腕で手に入れてきた大切な品ですもの。あんな出鱈目な理屈でタダ同然に買い叩かれるなんて、冒険者としてのプライドがどうしても許せなかったの。だから、正当な価値を見極めてくれた陸さんには、本当に感謝しているわ」
「そうだったんですね……。ルナさんのプライドと大切な品を守る手伝いができたなら、僕もすごく嬉しいです!」
「ふふっ、ありがとう。……そうだわ! 陸さん、もしよろしければ、このあと私に食事でもご馳走させてもらえませんか? 助けていただいたお礼がしたくて」
ご覧いただきありがとうございます!
無事に悪徳商人の屁理屈を打ち破り、ルナの大切な香木を正当な価格(なんと120ゴルド!)で買い取ってもらうことができました! お金のためではなく、危険を冒して手に入れた品と冒険者としてのプライドを守りたかったルナ。無事に解決して本当によかったですね。
そして次回は……ついにルナさんとの「お食事回」です! 女性と二人で食事なんてしたことがない陸がルナと 二人でどんな会話が飛び出すのか、ぜひお楽しみに!
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