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第97話 プロポーズ?

 その日の午後。地底の疑似太陽が最も高く昇り、農場全体が柔らかな光に包まれていた頃。

 テオは、共に苦楽を共にしてきた大切な仲間たち――ティア、エリナ、リル、ガントン、ロボ、ポチ、タコちゃん。そして、すっかり大人しくなった新入りのダイヤちゃんまでをも、広々としたリビングに全員集めた。

 テオの、いつにない真剣すぎる表情と、微かに震える指先を見て。仲間たちは、何事かと息を呑み、それぞれの姿勢を正した。ティアは溢れそうなお茶のカップを握りしめ、エリナは神殿での祈りの時さえ見せなかった緊張感で背筋を伸ばしている。


「みんな……。忙しいところ、集まってもらってありがとう。……今日は、これからの僕たちの『形』について、みんなに伝えたいことがあるんだ」


 テオは深く、一度大きく深呼吸をして、自分の掌を見つめた。

 十年前。自分を信じてくれた人々から裏切られ、一度はすべての誇りと居場所を奪われ、絶望の深淵に叩き落とされた、あの孤独な自分。

 そんな空っぽだった自分を救い。……時に叱咤し、時に共に笑い、ここまで不毛の地を黄金郷に変えるまで支え続けてくれた、目の前の最高の仲間たち。

 種族も、生まれも、年齢も、果ては生命の定義さえも全く違うけれど。テオにとって、これ以上の「魂の家族ファミリー」は、この広い世界のどこを探しても存在しない。


「僕は。……僕は、みんなと一緒に。……これからも、ずっと、ずっとここで暮らしたい。……ティアも、エリナも、リルも。……ガントンさんも、僕の最高の相棒たちも。……誰一人欠けることなく。……この農場で、毎日泥にまみれて、美味しいご飯を一緒に食べて、下らないことで馬鹿騒ぎをして……そうやって、一生を使い切っていきたいんだ」


 それは、狭い人間の常識に当てはめれば「重婚」だの「一夫多妻」だのと揶揄されるかもしれない、歪な提案。

 しかし。テオが提示したのは、そんな既存の法や常識を遥かに超越した、魂レベルでの「家族になろう」という、究極の……そして切実な『逆プロポーズ』であった。


「…………当たり前じゃろうがッ!! 今更、わしをお主のいない退屈な深淵に追い出されても困るわッ!! 責任を取ってもらうぞ、テオ!! わしの長い、長い……永遠に近い余生を、お主が責任を持って退屈させぬよう、一生面倒を見続けるのじゃ!!」

 ティアが、真っ赤な顔をして、テオの右腕に文字通り全体重をかけてしがみついた。


「はい。……死が私たちを分かつまで……いいえ、聖女の魔法を使えば、死んでさえも離しませんわよ? 私たちは、一蓮托生の運命共同体。……テオさんが逃げ出そうとしても、私の経営網で地の果まで追い詰めて、必ずお味噌汁を飲ませ続けますから」

 エリナが、慈愛に満ちた(けれど少しだけ独占欲が見え隠れする)瞳で、左腕をこれでもかと強く引き寄せた。


「リルも!! パパも好きだけど、テオと一緒にいたいのはもっともっと好きなの!! リルはお嫁さん枠でおなしゃす、テオ!! 毎日、起きたら一緒にコーヒー牛乳飲んで、一緒に温泉入るの!!」

 リルが背中から「ドォン!」という衝撃を伴って飛びつき、テオの首を腕でぐるぐる巻きにした。


「わっはっは!! わしは。酒と新しい農具を打つハンマーさえあれば、どこでも構わんがの。……まあ、ここは『素材』が良いからな。……何より。お主の横で鉄を打っている時が、わしの数百年で一番いい音が鳴るんじゃよ」

 ガントンが自慢の髭を撫で、豪快に笑う。


「肯定。全システム、マスターノ提案ヲ永久保存アーカイブシマシタ。……マスターノ傍ラニ居留守ルコト。コレガ私ノ全優先事項・最上位命令デス。システム再起動不要」

 ロボの無機質な合成音声が、珍しく「嬉しさ」を感じさせるような、機械的な共鳴音を伴って響いた。


「ワンッッ!!(テオ、ずっと一緒だワン!)」

「キュィッ!!(僕も、温泉係として一生働くキュ!)」

「ギャ、ォ……(……飯、くれ。……ずっといれば、飯、出る。……我、ここ、好き)」


 ポチが足元を駆け回り、タコちゃんが触手を全員の肩に回し、ダイヤちゃんが申し訳なさそうに尻尾を振る。

 全員の、一点の曇りもない笑顔と、温かな視線。

 テオは、目頭が熱くなるのを抑えられず、少しだけ顔を背けた。

 ああ……、そうか。

 あの日。何もないと思っていた真っ暗な洞窟で、僕が最初に撒いた「種」は。

 いつの間にか。……こんなにも大きくて、美しくて、最高の『幸福』という名の大樹へと、育っていたんだ。


「……よしッ!! じゃあ……。今夜は、農場発祥以来の、最高に盛大な宴会だ!! 地下の在庫がゼロになるまで、みんなで飲み明かそう!!」

「「「「オーーーーッッ!!!!」」」」


 リビングに。地底の深淵を突き破らんばかりの大歓声と、家族の笑い声が、いつまでも、いつまでも響き渡っていた。

 孤独な農夫が、自らの手で選び、自らの手で耕した「自分だけの世界」が、今、完璧な形で完成を見たのである。


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