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第91話 決戦、農場防衛戦

「くそっ……! 効かない! 何一つ、攻撃が通じないぞ!!」

「硬すぎる……っ!! オリハルコンやアダマンタイトの比じゃない! ガントンさんが打ち直してくれた最高品質のミスリル・ブレードが、飴細工みたいにグニャリと曲がっちまったぞ!!」


 アレクが、無惨に折れ曲がった愛剣の残骸を見て顔を歪めた。

 魔法も物理も。あらゆる属性の攻撃、いかなる干渉の試みも、古代龍の身体を覆うダイヤモンドの鱗という「絶対的な拒絶」の前に、虚しく霧散していく。

 龍は、自分に群がる羽虫たちの執拗な攻撃にいよいよ苛立ちを覚えたのか、重い溜息を吐くように、巨大な尻尾を一振りした。


 ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!!


 ただの『払う』動作から生じた衝撃波。それだけで、前衛を務めていたアレク、ガストン、そして魔王軍最高幹部であるはずの火炎侯爵イフリートまでもが、秋の暴風に舞う枯葉のように、無惨に後方へと吹き飛ばされた。

 ロボが展開した、王城すら守り抜ける多重・対消滅魔導バリアも、まるで薄氷をハンマーで叩いたかのようにあっけなく粉々に砕け散り、タコちゃんの強靭な触手も、余波だけで容易く引き千切られた(再生能力ですぐに生えてくるものの、タコちゃんは隅っこで涙目に足を抱えて縮こまっている)。

 魔王アスタロトでさえ、全魔力の半分以上を注ぎ込んだ一撃を無効化され、今や膝をついて肩で息をしていた。かすり傷一つ、鱗の破片一枚すら、剥がし取ることができない。


「このままでは……。じり貧、どころではないな。我らが全滅するか、農場が消滅するのが先か……という時間の問題じゃ」

「テオさん、いっそ……撤退を考えますか!? でも後ろには、まだ避難しきれていないお客様たちが……! それに、私の旅館の地下にある、極上のワインセラーも守らなければなりませんのよぉぉ!!」

 エリナが絶望的な顔で叫んだ。


 その時。古代龍が、それまでの『戯れ』を止めるかのように、暗黒の深淵のようなその巨大な口を、さらに大きく見開いた。

 喉の奥。そこには、周囲の魔力を根こそぎ吸引し、凝縮させた、太陽さえも凍りつかせるような禍々しい光が収束していく。

 古代龍最強の攻撃――【極大滅亡ブレス・アブソリュート・ゼロ】。

 先ほどの咆哮の衝撃波とは、前提からして次元が違う。純粋な破壊そのものを質量にして吐き出すエネルギー。

 あんなものを正面から放たれたら、農場どころか、この地下五十階層そのものが物理的に存在を消し飛ばされ、上層の王都の直下までをも巻き込む、大陸規模の未曾有の大崩落を引き起こすだろう。


「……あ。ああ……おしまいだぁ……。すべてが、無に帰る……」

 最強を誇った魔王も、誇り高き勇者も、そして現実的なエリナも。誰もが抗う術を見失い、静かに目を伏せ、死の瞬間を待とうとした、その時であった。


 ザッ。


 硬い、土を。泥を。踏みしめる音がした。

 絶望が支配する戦場の中央に、一人の男が、周囲の猛烈な圧力プレッシャーを無視して一歩前に進み出た。

 テオだ。

 ボロボロに引き裂かれた作業服。泥と油にまみれたその手には、魔法の杖でも、呪われた魔剣でもなく。

 ただ、あの日から毎日使い込み、何度もガントンに研ぎ直してもらった、いつもの『愛用のクワ』が握られていた。

 何の輝きもない、黒ずんだ鉄の農具。

 しかし、そのクワを構えるテオの背中は、崩落寸前のこの地下空間を一人で支えているかのように、誰よりも大きく、そして揺るぎないものに見えた。


「テオ!! 何をするつもりじゃッ!! 逃げろ、早く! それはお主の手に負える相手ではない!!」

 ティアが絶叫する。

「逃げないよ。ここは僕たちの農場だ。僕の家だ。……大切な人たちが、笑ってご飯を食べてくれる。世界で一番、守るべき場所なんだ」


 テオは、破滅の光を放とうとする龍の巨大な頭部を見上げて、不敵に、そしていつものように穏やかにニヤリと笑った。


「それにさ。……あいつの鱗の表面。……以前、深層の未開拓エリアで見つけた、あのアダマンタイト級の岩盤に、質感も魔力波長もそっくりなんだよね」

「はあぁぁ!? あんた何を言ってるの!? あれはドラゴンよ! 生きている神なのよ!?」

「同じだよ、エリナ様。……硬くて、不器用で、頑丈で。……そして、精一杯耕しがいがある。それだけだよ」


 テオの瞳に、迷いも恐れも、一切の濁りはなかった。

 彼は深く、大地に根を張るように息を吸い込み、クワを腰に溜めた。

 勇者としての力でもない、魔王としての魔力でもない。

 ただひたすらに、土を耕し、命を育み、大地を慈しんできた『農夫』としての、全霊の魂をこの一撃に込める。


「僕の……僕たちの畑(農場)を荒らす無礼な害獣は。……僕が責任を持って、綺麗に『くじょ』してやる!!」


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