第90話 オールスター集結
巨大な質量が空気を震わせ、世界を終焉へと導こうとする古代龍。その圧倒的な影の前に立ちはだかったのは、テオの農場が、そしてこの異世界が今、持ちうる限りの最高の戦力――『深淵のオールスター連合』であった。
まず最前線に躍り出たのは、元・勇者パーティのアレク、ガストン、ミランダの三人だ。彼らの装備は今やガントンが打ち直した最新鋭の農作業兼用武装へと進化しており、その瞳には、かつての空虚な栄光ではなく、今、自分たちを受け入れ、居場所をくれたこの農場を守るという、本物の守護者の誇りが宿っていた。
「へっ……!! 世界を救うなんて柄じゃねぇって気づいたが、俺たちの賄飯と、皿洗いの場を壊す無粋なトカゲを追い払うのは、俺たちの正当な業務だ!!」
アレクが、折れた聖剣を農具の技術で補強した『超硬化型・開墾ブレード』を抜き放ち、鋭い眼光を龍の眉間に向けた。
さらに。万博の護衛(という名のリルのボディガード)としてお忍びで潜入していた魔王軍四天王たちも、正体を隠す魔法を解き、伝説の武具を顕現させて参戦した。
「姫様が楽しみにしていたライブステージを、土足で踏みにじる無知な爬虫類め!! そのダイヤモンドの鱗ごと、魔界の黒炎で焼き尽くしてくれるわ!!」
火炎侯爵イフリートが、地底の空気を一瞬で沸騰させるほどの熱量を放ち、その背後に数千の炎の蛇を召喚する。
そして。天空から漆黒のマントを翻し、魔王アスタロトが静かに、しかし宇宙的な重圧を伴って舞い降りた。
「……愚かなり、ダイヤモンド・ドラゴンよ。わが愛娘が、初めて手作りしたクッキーをテオに誇らしげに見せていた、あの尊い時間を邪魔した罪、万死に値する。……塵一つ残さず、虚無へと消え失せよ」
精霊の加護を全身に纏ったティア、慈愛と破邪の光を掲げる聖女エリナ。
背中に風の翼を広げた神獣ポチ、改造により全身が移動要塞と化したメイドゴーレム・ロボ、そして地底湖の底から無数の触手を伸ばし、空間の湿度を操る最強の軟体動物タコちゃん。さらには伝説の鍛冶師ガントンが、自ら設計した巨大な自動旋盤機を駆って戦陣に加わった。
まさに人間、魔族、精霊、神獣、そしてロボット……。種族と概念を超えた、異世界史上最強の「ドリームチーム」が集結したのである。
「総員、攻撃開始!! 僕たちの家を、僕たちの未来を……守り抜けッ!!」
テオの号令が大地を震わせた。
アレクの神速の剣技【極光・流星連斬】が龍の喉元を切り裂き、魔王の極大魔法【ダーク・マター・バースト】が龍の脳天を直撃。ポチの口からは、あらゆる物質を分解する【極寒のフェンリル・ブレス】が白銀の奔流となって吐き出された。
さらに四天王の連携による元素爆発が龍の足を拘束し、ロボの目に内蔵された【フルバースト・殲滅レーザー】が龍の死角から連続射撃を浴びせる。
ドガアアアァァァァァァンッッ!!!! ズズズ、ガガガガガガッ!!
凄まじい爆発。閃光。地響き。
あまりの火力量に、周囲の地形自体が崩れ、数秒間、万博会場が太陽の表面のような白い輝きに包まれた。
この一撃があれば、魔神だろうが魔神の軍勢だろうが、跡形もなく消滅して当然の絶大なエネルギー。
「……は、はぁ……。やったか!?」
肩で息をしながら、アレクが砂煙の向こうを凝視した。
「いや……待て! 全員、散れ!! 油断するな!」
テオの鋭い警告。
激しい砂煙が、龍が吐き出した微かな吐息によって、一瞬でかき消された。
そこには。……一切の、傷一つついていない古代龍が、相変わらず悠然とした態度で、退屈そうに首を振っている姿があった。
全身を覆うダイヤモンドの鱗。それは単なる硬い甲殻ではなく、魔法攻撃を完全に中和し、物理衝撃をすべてエネルギーとして周囲に等価反射する、文字通り「神の鎧」であった。
「(……んん? 何だ……? 今、少しだけ顔の横に、五月蝿い蚊が数匹止まったか?)」
龍は、ただ痒そうに鱗を僅かに動かしただけだった。
英雄たちの、魔王の、神獣の全力全霊を傾けた総攻撃。それが、寝起きの龍にとっては「少し音の大きい、目覚まし時計」程度の刺激でしかなかったという絶望的な事実。
「……ありえない。わしの、わしの最大魔力出力ですら、表面の魔力膜さえ揺るがせぬとは……。どうすればいいのじゃ……あんなもの、この世の理の外側におるではないか……」
ティアが杖を持つ手を震わせ、その場に跪いた。
圧倒的な戦力差。絶対的な格差。
エンシェント・ダイヤモンド・ドラゴンが持つ、自然そのものとしての「無敵」を前に、最強の連合軍は、早くも全滅の危機に直面していた。




