表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
86/100

第86話 開幕!ダンジョン万博

 ついに、運命の当日がやってきた。

 公式の開門時間を数時間後に控えた早朝から、王都と魔界、それぞれに設置された恒久転移ゲートの前には、歴史に類を見ないほどの大長蛇の列が形成されていた。


 王都側の第一ゲート広場は、もはや入り切らないほどの人だかりで埋め尽くされている。豪華絢爛な彫刻を施した公爵家の馬車、山盛りの商品を積んだ商人の荷馬車、そして「一生に一度の奇跡」を一目見ようと集まった一般市民や冒険者の徒歩組が、秩序立てられた混乱の中で熱気を帯びて蠢いている。

 一方、魔界側の第二ゲート前も同様の熱狂ぶりだった。色とりどりの翼を持った魔族たちが空を埋め、巨大な魔獣に乗った豪商や、贅を尽くした魔法の絨毯に腰掛けた魔界貴族たちが、今か今かと開門の合図を待ちわびていたのである。


「定刻デス。安全確認、完了。座標固定、一〇〇%。……開門。ダンジョン万国博覧会、『D・EXPO』……ココニ、堂々ノ開幕デス」


 会場の警備統括および総裁代理を務めるロボの、地響きのような大出力の重低音アナウンスが響き渡った。

 その瞬間、二つの巨大な石門に埋め込まれた数万個の魔石が一斉に、太陽さえ霞ませるほどの純白の輝きを放ち始めた。虚空が裂け、光の奔流が渦巻くトンネルが生まれる。その輝きの中心へと、人々は期待に胸を膨らませ、吸い込まれるようにして次々と足を踏み入れていった。


 光のトンネルを抜けた先に広がっていたのは、全人類の、そして全魔族の常識を根底から覆す「別世界」であった。

 地下五十階層――。かつては冷たい風が吹き抜け、不吉な魔物の咆哮がこだまするだけだった荒涼とした死の岩場。そこは今、最新の技術と古の魔法が融合した、宝石のように瞬く「未来の地底都市」と化していた。


 来場者がまず目にしたのは、天井一面に広がる圧倒的な「青空」の幻影魔法だった。地上の太陽の動きに完全に同期した柔らかな陽光が降り注ぎ、心地よい涼風が広場を吹き抜けていく。そして眼下には、色とりどりの旗がはためき、透き通った氷と強靭な鉄樹で作られた、見たこともない形状のパビリオン群が整然と立ち並ぶ、夢のような祭典の光景。


「うおおおおおっ!! な、なんだこれ!? 本当に……本当にダンジョンの中なのかよ!?」

「空がある……。太陽がある……。おい、見てみろ、あの巨大な光る野菜を! 伝説の宝具かと思ったら、全部キャベツかよ!」

「風が吹いているぞ! 地下特有の淀んだ空気が一ミリもない! 神の楽園に迷い込んだのか……!?」


 来場者たちは足を踏み入れた瞬間に立ち止まり、口々に驚嘆と歓声を上げた。

 地底とは思えない開放感。そして、どこからともなく漂ってくる、香ばしい醤油の焦げる匂いや、スパイスの芳醇な香り、そして甘い果実の芳香が、人々の鼻腔をくすぐり、本能的な食欲を刺激する。


「いらっしゃいませー!! こちら『世界グルメエリア・テオのキッチン』です! 焼きたての巨大カツサンド、今なら待ち時間五分です!」

「ドワーフ直伝、魂の鍛冶実演はこちら! 伝説のオリハルコンを粉砕するハンマー捌き、見逃厳禁じゃぞ!」

「『エルフ式・深層泥パック美容体験』はいかがですかー? 十年前の若さが、たった十DPダンジョン・ポイントで帰ってきますよー!」


 それぞれのパビリオンや屋台から、従業員たちの活気溢れる呼び込みの声がこだまする。

 そして何より驚くべきは、そこに流れる「空気」であった。

 人間と魔族が、当たり前のように肩を並べて歩き、同じ屋台の列に並んで「そっちの串焼き、美味そうだな」「こっちのビールも冷えてて最高だぜ」と談笑を交わしている。かつて戦場で血を流し合った宿敵同士が、ここではただの「美味しい食べ物を求める隣人」として笑い合っているのだ。

 会場内に、抜身の武器を持っている者は一人もいない。手に持っているのは、香ばしい焼き鳥やキンキンに冷えた樽生ビール、そしてリルが発案し爆発的なブームとなっている、モチモチのタピオカミルクティー。そして、誰の顔にも浮かんでいる、心からの笑顔。


「ようこそ、ダンジョン農場へ!! 今日は種族も階級も忘れて、存分に食べて、飲んで、この世界の素晴らしさを体感していってください!」


 会場中央、ヒカリゴケの明かりを集めた特設クリスタル・ステージ。そこに立ったテオが、拡声魔法を使って高らかに開会を宣言した。

 その直後。ポチがステージ脇から天空へと向かって、五色の魔力を含むブレス(特製魔法花火)を勢いよく吐き出した。

 ズドォォーンッ!! パシュゥゥゥ……。

 地底の天井をスクリーンにして、昼間でも鮮やかに輝く大輪の魔法の花火が次々と降り注ぐ中、万国博覧会の幕が正式に上がった。

 万雷の拍手と、地響きのような大歓声が会場を包み込む。

 テオはその光景をステージから見つめ、思わず目頭が熱くなるのを感じた。

 あの日、孤独に種を撒いた場所。……ここは今、かつての自分が夢見た「誰も不幸にならず、誰もが笑顔でご飯を食べらえる」という、世界で最も幸せな場所になったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ