第83話 パビリオン建設
万博開催の宣言から、地下五十階層の未開拓エリアは、過去類を見ない規模の超弩級・突貫工事現場へと変貌を遂げた。
普段は農作業に従事しているロボやオークの従業員たちは、今日からは建設作業員としての腕を振るうことになり、ガントンの設計図に基づき、地底の静寂を引き裂くような活気溢れる槌音が、二十四時間体制で響き渡ることとなった。
「今回の目玉、メインパビリオンは……これだ! 我が農場の魂を具現化した巨大ドーム、『ベジタブル・クリスタル・パレス(深淵野菜館)』だッ!」
テオの号令の下、建設チームが目覚ましい連携を見せる。
ドームを支える骨格には、地上では鉄よりも頑丈とされる伝説の『鉄樹』の枝を、ティアの成長魔法で複雑に編み込みながら組み上げた。そして、壁面を覆うのはガラスではない。深層の魔力溜まりから採取される、決して溶けない透明度の極めて高い『氷の結晶』を、ガントンが精密に加工してはめ込んでいった。
内部には、テオが手塩にかけた「人より大きい超巨大カボチャ」や、夜になると七色に点滅する「ネオン・グレープ」、さらには空中に浮遊しながら実をつける「次元のイチゴ」などが、あたかも高価な芸術品のようにライトアップされ、展示される予定だ。
「こっちは『剛毅なる鉄・鍛冶の殿堂』じゃ! 火力が足りんぞ、火霊どもをもう三匹連れてこい! わしの最高傑作である『プラチナ・ホー』の進化型をお披露目する場所なんじゃからな!」
ガントンが汗を飛ばし、巨大な炉を囲んで弟子(に志願したドワーフやオークたち)を怒鳴りつける。それはもはや工房というより、一つの巨大な要塞に近い威容を誇っていた。
「テオさん、これからの時代は技術と知識の共有も不可欠ですわ。『深淵魔導具・未来科学館』を併設しましょう。ロボさんの驚異的な演算能力や、この農場を支える自動灌漑システムのミニチュアモデルを展示して、投資家の目を惹くのです」
エリナが、経済特区としての未来を見据えた提案をする。彼女は既に「ここで新たな特許技術を売る」という、万博を越えた先のビジネスモデルまで構築していた。
「もちろん、『悠久の癒やし・大温泉パビリオン』も忘れてはおらんぞ。タコちゃん、そっちの配管は任せたぞ! 百人が同時に入れる超巨大露天風呂に加え、ドワーフ用の熱湯サウナ、そして精霊用の『月光薬草風呂』も完備するのじゃ!」
ティアがお湯を自在に操り、複雑な水路を地底の岩肌に穿っていく。
さらに、広場の中央には、魔王の娘リルが総プロデュースする『超・野外ライブステージ』が建設された。反響音を一ミリ単位で調整された音響ドームだ。
その隣には、ポチが「もう全力で走っても飽きないワン!」と喜ぶほどの、数キロに及ぶ広大なドッグランを兼ねた『モンスターふれあい広場』も併設された。
昼夜を問わず、魔法の光が交差し、機械の音が唸りを上げる。だが、誰一人として疲れや不満を口にする者はいなかった。
自分たちが力を合わせて作り上げた、この「地の底の奇跡」を、世界中の人々に等しく見せつけ、驚かせ、喜ばせてやりたい。その共通の願いが、肉体的な疲労を遥かに上回る、魔法のような活力を生み出していたからだ。
そして。熱狂の準備期間を経て一ヶ月後。
真っ暗闇だった地下空間に、まるで宝石箱をひっくり返してぶち撒けたような、眩いばかりの煌めきを放つ「光の都市」が突如として出現した。
天井を埋め尽くすヒカリゴケの星空に照らされ、氷と鉄と緑が幻想的なハーモニーを奏でる、人類未踏の万博会場。
「さあ、始めようか……。世界を驚かせる、最高の祭典を!」
テオは完成したばかりのゲートの前に立ち、迫りくる翌朝の「歴史的瞬間」を待ち、静かに、しかし熱く拳を握りしめるのであった。




