表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/84

第82話 万博計画始動

「ねえ、……みんな。今更なんだけどさ。……僕たちで、お祭り、したくない?」


 ある日の作業終了後。テオが丹精込めて淹れたカモミールのハーブティーを飲みながら、団らんのひとときを楽しんでいた仲間たちに向かって、ぽつりと贅沢な提案を口にした。

 確かに、農場は信じられないほどの規模に発展した。従業員の数は増え続け、毎日世界中から数千人の観光客やビジネスマンが訪れる、文字通りの『深淵の都』となった。


 だが、テオの本質は、いつだって「自分が土と格闘して、愛情を込めて育てたものを、誰かに見てほしい、食べてほしい」という、シンプルで純粋な農民としての承認欲求、そして、関わるすべての人々を「食」と「驚き」で笑顔にしたいという不治のエンターテイナー精神にある。


「今まで、みんなで苦労して作ってきた最高の野菜、料理、ガントンさんの打った驚異の道具、ロボやタコちゃんの活躍、そして何よりこの……ダンジョンの底にある、世界一素敵な場所。――これら全部をひっくるめて、一度ドーンと、地球全体……じゃなくて、世界全体にお披露目してみたいんだ!」

「ほう。テオよ、つまりそれは、一国の威信を懸けて自慢の品を持ち寄る『博覧会』のようなものをしたい、ということか?」

 ティアが、黄金の瞳に好奇心の炎を宿しながら身を乗り出した。「我の領地の、そして我が見込んだ人間の素晴らしさを全人類(と魔族)に知らしめる、良い機会になりそうじゃな」

「そう! その通りだよ、ティア! 名付けて……『第一回・ダンジョン万国博覧会』! 通称、ダンジョン万博だ!」


 その言葉がリビングに響いた瞬間、全員の目の色が、一気に「本気」の色へと変わった。


「入場料の設定、各国の企業ブースへの出店料の徴収、さらにはここでしか買えないプレミアム・グッズの開発……。控えめに言って、これまでの売上の十倍を優に超える、莫大かつ健全な利益が見込めますわね。……ふふ、ふふふ、計画書ビジネスプランは三十分以内に仕上げますわ!」

 エリナが魔導電卓を光の速さで叩き、鼻息を荒くしてニヤリと笑った。彼女の中でそろばんが弾ける音が聞こえた気がした。

「わっはっは! 面白い! ならわしは、農具の範疇を超えた究極の『シンボル・ロボット(外殻神像)』を展示する専用パビリオンを設計せねばならんな! 腕が鳴るわい、いや、ハンマーが火を吹くぞ!」

 ガントンは、既に頭の中で巨大な歯車が噛み合う音が聞こえていそうなほど、髭を猛烈に震わせている。

「私は、大きな、大きな、キラキラしたステージもほしいのだーッ!! 魔界と人間界の歌姫が一堂に会するんだよ! もちろん、センターを張るのはこの私だけどね!」

 魔王の娘リルは、既に空中の目に見えないマイクに向けてポーズを決めている。


 反対する者は、誰もいなかった。

 今の彼らにとって、「不可能」という言葉は辞書から消え去り、「どうすればもっと面白くなるか」というポジティブな問いだけが共通言語となっている。

 毎日が文化祭の前夜のような熱気で包まれていたこの農場で、歴史上最大、かつ最も狂乱に満ちた「究極の文化祭」をやろうというのだ。燃え上がらないわけがない。


「よし、開催日は……一ヶ月後! 準備期間は短いけど、ゲートもあって物資も人もすぐ集まる。世界中の人々の常識を、地の底からひっくり返して驚かせてやろう!」

「おーっ!!」


 テオの拳を突き上げた掛け声と共に、異世界史上、類を見ない規模の超巨大プロジェクト――『ダンジョン万博(D・EXPO)』が、その重厚な歯車を力強く回し始めたのである。

 この日から、地底の楽園は二十四時間不眠不休の「建設ラッシュ」に突入し、その興奮の波動は、転移ゲートを通じて地上と魔界の両方へと、燎原の火のごとく急速に広がっていくことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ