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第78話 従業員大募集

 転移ゲートの開通により、農場の訪問者数はテオの予想を十倍以上も超える勢いで膨れ上がっていた。

 元々のメンバーであるテオ、ティア、エリナ、ガントン、リル、ポチ、ロボ、タコちゃん。一人一人が伝説級の能力を持つ精鋭揃いではあるものの、いかんせん絶対的な「数」が足りない。


 料理を作れば五百人待ち、温泉のタオル交換も追いつかず、広大な畑の雑草は育ち盛りの作物の影で虎視眈々と勢力を伸ばし、転移ゲートの警備に至ってはポチが「もう吠え疲れたワン……」と寝転んでしまう始末。

 特に、お膳を運ぶ、皿を洗う、広大な廊下を雑巾がけする、収穫したジャガイモの土を落とすといった、地味ながらも膨大な時間と労力を要する単純作業のスタッフ不足は、もはや「世界救済」よりも緊急の問題となっていたのである。


「テオさん、これ以上は無理ですわ。……私の経営計算によれば、今のままだと従業員の半数(主にテオさん)が過労で爆発します。……ここは、人材を外部から募集すべきです!」

 エリナの冷静極まる提言により、農場初の『大規模・求人募集』が開始された。


 掲示された条件は、この過酷な異世界において「正気を疑うレベル」の破格の内容であった。

『住み込み個室完備、テオ特製のまかない付き(三食激ウマ・限定メニュー含む食べ放題)、深層温泉入り放題、週休二日制(魔法契約により完全保証)、安全な労働環境……。そして、笑顔の絶えない職場です!』

 ブラックな労働条件や、命を切り売りする依頼が当たり前のこの世界において、この求人はまさに「救いの光」として王都と魔界の両方に等しく拡散。募集開始と同時に、ゲート前の広場には応募者が文字通り殺到し、数キロに及ぶ大行列が形成された。


 ログハウス前の広場に設置された、急造の面接会場(青空教室スタイル)にて。

 テオは試験官として、多種多様な種族の応募者たちを順番に迎え入れた。


「次は……魔界からお越しの、オーク族のボブさん。どうぞ」

「ブヒッ!! 力仕事、そして持久力なら誰にも負けないブヒ! 前の職場(魔界軍第3歩兵連隊)は、一年間給料未払いで、ご飯も泥の混じった麦しか出なかったブヒ! ここの『揚げたてカツ丼』が食べられるなら、私は……私は一晩でこの畑を倍に広げてみせるブヒィィッ!」

「……採用。その情熱、気に入ったよ。でも、まかないのカツ丼は週二回くらいにしておこうか。色々と、ほら、複雑な気持ちになるやつがいるかもしれないからね」


「次は……地上からお越しの、元・黒狼盗賊団リーダー、ジャックさん」

「へへっ、足は洗ったんです。マジです。もう悪いことはしねぇ! 盗みのスキルで培った『物音を立てない移動』は接客に、『急所を一突きにする正確さ』はトマトの収穫に役立てます! だから……だから、俺を見捨てないでくれ!」

「採用。ただし、一円でもレジの金に手をつけたり、宿泊客の財布を覗いたりしたら、ポチの三日分のご飯(おとり役)になってもらうからね?」

「ひ、ひぃぃぃっ! 一生、清廉潔白に生きますだぁッ!!」


「次は……リルの近衛を自称する、魔界貴族・ヴァンパイアのアルカードさん」

姫様リルがこのような場所で健気に働いておられるというのに、我ら臣下が安眠を貪るわけにはいかぬ! トイレ掃除? 階段の隅の塵取り? 喜んで! この魔力をすべて洗浄魔法に注ぎ込もう! 日光対策もこの魔法銀の日傘でバッチリだ!」

「採用……。情熱が重いけど、夜勤の完全警備をお願いします。あなたなら寝なくても平気だろうしね」


 テオは、来るものを拒まない主義だった。

 かつて自分が「役立たず」として捨てられた経験があるからこそ、訳ありの連中であっても、「美味しいものを食べて、笑って暮らしたい」という根源的な欲求に嘘はないと信じているからだ。

 こうして、オークが巨体を生かして皿を山積みに洗い、元盗賊が目にも留まらぬ速さで野菜を収穫し、高貴な吸血鬼が(夜勤専門の)最高級の接客スマイルを振りまくという、他に類を見ないほどカオスで、それでいて強烈に活気のある「多種族連合職場」が誕生した。


 当初は「種族間で喧嘩が起きるのでは」という懸念もあったが、その心配は杞憂に終わった。

 なぜなら。

 オークも、元盗賊も、吸血鬼も、エルフも。

 全員が、仕事の後に提供される「テオ特製・炊き立てご飯と日替わりまかない飯」という、この世界における唯一絶対の新興宗教(信仰)によって、固い絆で結ばれていたからである。

 「ご飯を美味しく食べるために、今日も最高の仕事をしよう!」

 そのシンプルな情熱が、農場をさらなる繁栄へと導く大きなエンジンとなっていくのだった。


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