第67話 極楽マッサージ
激しい運動(という名の卓球を装った破壊活動)の後は、疲労困憊した身体を労るための徹底的な極上メンテナンスが必要だ。
温泉リゾートの休憩処の一角、落ち着いた間接照明(ヒカリゴケの微光)が灯るリラックススペースに、その禍々しくも頼もしい「椅子」は鎮座していた。
無骨な黒岩で削り出された座席。その背後からは、まるで蜘蛛の足のように無数の機械アームが生え、さらにティアの魔導回路が埋め込まれた奇妙な椅子。
ガントンの鍛冶技術とロボの精密演算、そしてテオの「ツボ押し」の知識が結集した合作、『全自動・魔導マッサージチェア・極楽1号』だ。
「よし、誰が試してみる? こいつは自信作だぞ。わしの鍛冶師としての勘では、オリハルコンを平らに伸ばすのと同じくらいの威力と繊細さを両立させておる」
ガントンが誇らしげに髭を撫でる。
「……威力が必要なの? 痛くないかな、それ。文字通り『揉み潰される』とか嫌だよ?」
テオが冷や汗を流しながら後退する。
「安心シテクダサイ。対象ノ骨格・筋肉密度ヲ瞬時ニ計測シ、致死量ニ至ラナイ絶妙ナ圧力ヲ維持シマス。安全性ハ……タブン理論値デ九割以上デス」
ロボが自信満々に(?)モニターをチカチカさせる。
結局、押し付け合いの末に、ジャンケンで惨敗したティアが「実験台」という名の一番乗りを務めることになった。
「うぅ……お主ら、我がマスターであることを忘れておるな。もし我に何かあったら、このダンジョンごと爆発するからな!」
捨て台詞を吐きながら、恐る恐る岩の椅子に腰を下ろすティア。
「マッサージモード、起動。コース選択:【神の指圧・極上リラックス】。開始シマス」
ロボの無機質な声と共に、背後からウィィン、ガシャン!とアームが展開し、ティアの身体をガッチリとホールドした。
最初の数秒、沈黙が流れる。そして――。
「ひゃっ!? くくく、くすぐった……あ、いや。……そこ。そこじゃ。……う、うほぉぉぉぉぉ~~~……」
ティアの口から、およそ美少女からは出るはずのない、絞り出すような艶かしい(?)声が漏れ出した。
機械アームは、テオが教え込んだ人間のツボだけでなく、龍族特有の「魔力の澱みが溜まりやすい関節の隙間」までも正確に射抜き、絶妙な力加減で揉みほぐしていく。
さらに、コースは変化していく。
「追撃開始。第二フェーズ:【雷鳴の叩き】および【紅蓮の温熱】」
微弱な電撃魔法が筋肉をピリピリと刺激し、座面に内蔵された火石が、じんわりと芯から身体を温めていく。
「うにゅぅ……そこ……肩甲骨の裏の、自分では絶対に届かないあそこ……。魂が……魂が溶けていく……我、今、雲の上におるぞ……」
ティアの顔は完全に蕩けていた。
いつも世界を見下ろすような尊大な態度をとるダンジョンマスターの威厳は、文明の利器の前に無惨にも粉砕された。目尻は下がりきり、口元からは締まりなくよだれが垂れそうになり、瞳は焦点が合っていない。
15分間の至福の時間が経過し、終了のブザーが鳴っても、ティアはピクリとも動かなかった。
「……死んでませんよね?」
テオが恐る恐る突っつくと、ティアは「ふにゃ……」と力なく椅子からずり落ち、床の上でクラゲのように平べったくなっていた。
「……極楽じゃ。もはや何もしたくない。我、今日からこの椅子の一部になる。魔王が来てもこのまま戦う……」
「次は私です! 聖女の激務で腰がバキバキなんです!」
エリナがティアを足蹴にする勢いで(物理的にどかして)椅子に飛び乗った。
「わしもじゃ! ハンマーの振りすぎで右腕がパンパンなんじゃ!」
その後、マッサージチェアの前には、かつてないほどの熱気と欲望に満ちた長蛇の列(といっても4人と1匹と1杯だが)が形成された。
ちなみに、椅子に入り切らなかったタコちゃんは、ロボに自らの触手をマッサージしてもらい、ポチは寝湯でプカプカ浮かびながら「極楽モード」を堪能していた。
ロボは皆のコリとストレスを数値化して消去しながら、「生体メンテナンス、完全成功。マスター、次ハ足ツボコースヲ開発シマス」と、さらなる快楽の追求を誓うのであった。
文明の利器(魔改造済み)の恐ろしさと偉大さを、全員が身をもって思い知らされた一日であった。




