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第62話 四天王vs農場防衛隊

「テオさん、大変です! 全方位警戒網に多数の未確認飛行物体および高エネルギー反応を確認! 空、地上、そして地中からも同時に急接近しています!」

 エリナが管理室(リビングの隅に新設されたモニター群)から血相を変えて飛び込んできた。彼女の持つレーダーには、かつてないほどの真っ赤な点滅が埋め尽くされている。


 テオが窓から外を仰ぎ見ると、地下50階層の「空」を真っ黒な雲のような軍勢が覆い尽くそうとしていた。それは雲ではなく、数千羽のワイバーンと、その上に乗った重装歩兵の影だった。


「来たか……パパの直属部隊、奪還親衛隊か……。あやつ、本当に全軍を動かしたのじゃな」

 リルが震える声で呟き、顔を青ざめさせた。「ごめん、テオ、みんな。私のわがままのせいで……この農場を戦火に巻き込むわけにはいかん。私がパパの元へ戻れば、あやつも矛を収めるはずじゃ。だから、みんなは逃げて……!」


「逃げないよ」

 テオは静かに、だが力強く言った。彼は愛用のクワを肩に担ぎ、農作業用の長靴を履き直す。

「ここは僕たちが開拓して、みんなで作ってきた家だ。それに、今は大切なお客さん(リル)が温泉を楽しんでいる最中なんだよ。無理やり連れて行こうとする無粋な奴らは、全力で追い返すのがこの農場のマナーだ」


「テオ様……。ふふ、そうですね。私たちの『家族』を脅かす者は、聖女の慈悲をもって(物理的に)制裁しましょう」

 エリナが祈りを捧げるポーズをとりながらも、その瞳には好戦的な光が宿っている。


「総員、防衛体制レベルMAX! 作物に傷一つつけるなよ!」

 テオの号令と共に、農場の自動防衛システムが起動した。


「一番槍、火の四天王イフリート推参ッ! 汚らわしい下等な人間め! 姫様を唆した罪を、その身を焼く業火で償え!」

 先陣を切ったのは、燃え盛る炎を全身に纏った巨漢、イフリートだった。彼が放った極大火球【プロミネンス・バースト】が、農場のトマト畑を焼き払おうと迫る。、


 しかし、その前に立ちはだかったのは、欠伸をしながら現れたティアだった。

「おい、そこで燃えてる奴。我が領地での火の使用は許可制だと言わなんだか? そもそも、農場での焚き火は消防法違反じゃ。……消えろ。『アブソリュート・ゼロ』!」

 ティアが杖を一振りした瞬間、周囲の温度がマイナス数百億度(体感)まで急降下した。火球は着弾する前にカチンコチンに凍結し、地面に落ちて粉々に砕け散った。そのまま冷気の波動がイフリートを襲い、彼は「熱いのが自慢だったのに……」と絶望の言葉を吐きながら、巨大な氷の彫像と化した。


「火がダメなら、氷の我が相手だ! 氷の四天王コキュートス、凍え死ね!」

 続いて現れたのは、全身がクリスタルの鱗で覆われた冷徹な騎士。彼は数千の氷柱を散弾のように撃ち出した。

 だが、その弾幕を遮ったのは、モフモフの尻尾をブンブン振るポチだった。

「ワンッ!(お散歩の時間だ!)」

 神獣フェンリルの咆哮。それは空間そのものを震わせる衝撃波となり、迫りくる氷柱をすべて塵に帰した。それどころか、伝説の冷気に中てられたコキュートスは、自分以上の「本物の氷の格」に気圧され、恐怖のあまり腰を抜かして「おすわり」状態のまま硬直した。


「隙あり! 風の四天王テンペスト、真空の刃で農場ごと切り裂く!」

 上空から巨大な竜巻を伴って急降下してきた怪鳥。だが、その進路にロボが滞空して立ちふさがる。

「警告。暴風警報発令。指定エリア外デノ突風ハ、収穫作業ニ支障ヲキタシマス。対抗措置トシて、胸部吸気ファンヲ全開にします」

 ロボの胸部パネルが開き、ジェットエンジンを凌駕する超強力な吸引力が発生した。竜巻をエネルギー資源としてまるごと吸い込まれたテンペストは、抵抗もできずにロボの内部へシュルシュルと吸い込まれ、数秒後、埃と綿アメまみれになって「風通しがよすぎる……」と言い残して排出された。


「ええい、役立たずどもめ! 地の四天王ガイアが大地ごと沈めてくれる!」

 地中から巨大な土塊の拳を突き上げてきた岩石の巨人。農場の地盤そのものを崩壊させようとする一撃。、

 しかし、テオが静かにクワを地面に突き立てた。

「畑を荒らす害虫(巨人)は、僕が許さない! 発動、『耕作・地盤硬化コンクリート・モード』!」

 スキルによって、農場全域の大地がダイヤモンド以上の硬度に固定された。ガイアの渾身の一撃は「痛っ……!?」という情けない声を上げて、自らの拳の方が砕け散る結果となった。


「……そ、そんな……。我ら、魔界最高戦力の四天王が……農作業の延長のような技で完敗するとは……」

 満身創痍になった四天王たちは、テオによって一本の紐で縛られ、トマト畑の肥料置き場の横に積み上げられた。

「とりあえず、そこで頭を冷やしてて。反省したら、まかないの野菜炒めを食べさせてあげるからね」

 テオの屈託のない笑顔が、負けた彼らには何よりも恐ろしい魔王の微笑みに見えたのだった。


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