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第55話 露天風呂の設計

 温泉が無事に湧き出たら、次はいよいよ「器(湯船)」作りだ。

 せっかく掘り当てた奇跡の名湯だ。適当な穴を掘っただけの泥だらけの風呂ではもったいない。

 テオは濡れた髪をかき上げながら、まだ湯気の漂う地面に、木の枝で巨大な設計図を描き始めた。


「やるからには、世界一の風呂にしたい。まずはメインの大浴場だ。50人は入れる広さが欲しい」

「テオさん、提案があります!」


 エリナが目をキラキラと輝かせて、子供のように元気よく手を挙げた。


「あの崖の縁を利用して、お湯の水面と景色が一体化して見える『インフィニティ風呂』にしませんか? 王都の貴族向けリゾートで流行っているらしいんです。空に浮かんでいるような極上の浮遊感が味わえるとか! 一度入ってみるのが夢だったんです!」

「インフィニティ……無限か。採用! すごくいい!」


 即決だった。

 眼下に見下ろす広大な地底湖と、青白く輝くヒカリゴケの森を一望できる、絶景露天風呂。

 お湯に浸かると、水面の境界が消え、まるで空中に浮いているような感覚になるはずだ。想像するだけで涎が出そうだ。


「我は打たせ湯が欲しいぞ。最近、魔力の使いすぎで肩が凝るからな。魔法使いの職業病だ。強めの水圧がいい」

 ティアが小さな肩をトントンと揉みながら要望を出す。

「了解。タコちゃんにお願いして、高い岩場からお湯を豪快に落とす仕掛けを作ろう。水圧調整も自在だし、マッサージ効果も抜群だ」

「わしはサウナじゃ! とことん熱くして、毛穴という毛穴を開き、その後にキンキンの水風呂に入るのじゃ! 『整う』感覚を味わいたいのじゃ! 男のロマンじゃ!」

 ガントンはドワーフ族には珍しいサウナ信奉者サウナーだった。

「わかった。ミスリルの熱交換器を使って100度近い高温サウナを作ろう。水風呂にはティアの氷魔法を使えば完璧だ」

「ポチは? ……ああ、浅めの寝湯がいいんだね。ワンって言ったもんね。ちゃんと犬用スロープもつけるよ」


 みんなの欲望を無制限に詰め込んだ結果、設計図はとんでもなく豪華なものになった。


・メインの岩風呂(インフィニティ仕様、全展望)

・檜(代用のダンジョン香木)風呂

・打たせ湯ゾーン(タコちゃん監修・水圧可変式)

・本格フィンランド式サウナ&天然水風呂

・そして、ポチ専用ドッグスパ(足湯付き)


「……これ、完成したら居心地良すぎて働かなくなりそうだな、僕たち」

「構わん! そのために血を吐く思いで働いてきたのだ! 休息も立派な仕事のうちじゃ!」


 工事は急ピッチで進められた。

 ロボが岩を削り、表面を滑らかに磨き上げ、底には足触りの良い丸い玉砂利を敷き詰める。

 脱衣所は風通しの良い木造建築にし、入り口には「ゆ」と大きく書かれた藍染めの暖簾(エリナの手縫い)を掛ける。

 

 数日後。

 湯気が立ち上る、極上の露天風呂が完成した。

 黄金色のお湯がなみなみと満ち、水面にはヒカリゴケの光が星空のように反射している。

 芸術的ですらあるその光景に、テオは満足げに深く頷いた。


「完璧だ……。さあ、一番風呂といこうか!」

 戦い(入浴順争奪戦)の時間は近い。

 それぞれの目に闘志の火が灯った。


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