第54話 大掘削大会
「総員、配置につけ! これより『オペレーション・黄金の湯』を開始する! 怪我するなよ!」
テオの号令が灼熱の空気に凛と響いた。
作業現場には、ティアが何重にも厳重な結界を張り、もしもの時の爆発や高圧ガス噴出に備える。安全第一だ。
主戦力は、農場が誇る最強の土木部隊である。
「掘削モード、起動。ターゲット、地下20メートル。岩盤硬度、測定不能。ドリル出力120%。全力デ行キマス」
ロボの両腕がガシャンガシャンと音を立てて複雑に変形し、先端にダイヤモンドコーティングされた巨大な高速回転ドリルが現れた。
チュイイイィン!! という空気を切り裂くような甲高い駆動音と共に、本来なら削れないはずの硬い黒曜石の岩盤を、まるで常温のバターのように滑らかに削っていく。
激しい火花が散り、熱気が渦巻く。
「キュイーッ!(僕もやるキュ! 水鉄砲だ!)」
タコちゃんが負けじと、口から超高圧の水流を噴射する。
ズババババッ!
岩が切断され、細切れの土砂となって吹き飛ぶ。水流の勢いだけで岩が豆腐のように切れていく様は圧巻だ。
「わしも忘れるなよ! えーいっ! 芸術的な爆破を見せてやる!」
ガントンは岩の継ぎ目や亀裂に、自作の魔法の火薬を丁寧に仕掛け、的確なタイミングで発破をかける。
ズドォン!
爆風と共に岩が崩れる。しかし、緻密な計算により周囲への被害はゼロだ。
崩れた大量の土砂を、テオが【土魔法】で空中に浮かせ、魔法のようにスムーズにマジックバッグへと収納していく。
圧倒的なスピードだ。
普通の人間による工事なら1ヶ月、いや数ヶ月かかるような難工事の工程を、ものの1時間足らずで進めていく。
彼らの連携は、毎日の農作業や拡張工事で培われた、阿吽の呼吸だった。
「あと5メートル……3メートル……温度急上昇! 圧力最大! 来るぞ! 退避ッ!」
テオが叫んだ。
地面が焼け付くように熱くなり、足元の微振動が激しくなる。
ロボが最後の薄い岩盤を、ドリルの先端で貫いた、その瞬間。
プシューーーッ!!
ドォォォォン!!
耳をつんざく音と共に、まず真っ白な高熱の蒸気が柱となって垂直に噴き上がった。
視界が真っ白に染まる(ホワイトアウト)。
続いて、黄金色に透き通った熱湯が、間欠泉のように空高く、天井に届くほどの勢いで舞い上がった。
あたり一面に広がる、鼻をくすぐる独特の硫黄の香り。そしてむせ返るような湿気。
「出たぁぁぁーっ!!」
降り注ぐお湯の雨を全身に浴びながら、テオたちは歓声を上げた。
熱い。でも、最高に気持ちいい。
服はずぶ濡れだが、誰も気にしない。
「温泉だ! 本物の天然温泉だ!」
「ワンッ!(温かい!)」
「成功じゃな! この肌触り、この匂い、間違いなく名湯じゃ! 王族御用達レベルじゃ!」
テオとガントンは泥とお湯まみれになりながら、手を取り合ってぐるぐると回って(踊って)喜んだ。
大地からの贈り物、大いなる恵み。
この瞬間、農場に新たな歴史(と娯楽)が刻まれたのだった。




