第52話 灼熱エリアへの進出
温泉掘削のターゲットとなったのは、現在地からさらに深く潜った場所、地下55階層。
以前、頑固なドワーフのガントンと出会い、彼をスカウトした『灼熱エリア』だ。
転移ゲートを抜け、その階層に降り立った瞬間、モワッとした熱風と硫黄の臭いがテオたちを包み込んだ。
まるで予熱された巨大なオーブンの中に飛び込んだような息苦しさだ。
「あづい……息を吸うだけで肺が焼けるようだ……」
「湿気もすごいですね……天然のサウナじゃないですか、これ……」
テオとエリナが同時に悲鳴を上げ、流れる汗を拭う。服が瞬く間に汗で重くなり、肌に不快に張り付く。
周囲は赤黒い溶岩石の岩肌が剥き出しになっており、所々の亀裂からシューシューと高温の蒸気が噴き出している。
遠くには煮えたぎるマグマの河がゆらゆらと流れ、その照り返しで空間全体が禍々しい赤色に染まっている。
気温は優に40度、いや50度を超えているだろう。
「ほっほっほ! ドワーフにはこれくらいが丁度いいわい! 肌が潤うのう! 酒が汗で抜けていい感じじゃ!」
「ガントンさんは耐性があるからいいですけど、僕らは10分で干からびちゃいますよ」
「ワンッ……(暑くて毛皮が重い……夏毛になりたい……)」
ポチが長い舌を出し、ぐったりとへたり込んでいる。極寒の地に住む種族であるフェンリルにとって、この暑さは致命的なデバフだ。
そこで、この地獄のような環境で一人涼しげな顔をしているティアが、呆れたように前に出た。
「まったく、軟弱者どもめ。我のそばにいろ。風の精霊よ、氷の精霊よ、癒やしの祝福を! 『アイス・ミスト・サンクチュアリ』!」
ティアが軽く杖を振ると、きらきらと光るダイヤモンドダストのような氷の粒子が霧となって発生し、一行の周囲半径5メートルほどをドーム状に優しく包み込んだ。
ひんやりとした清涼な冷気が肌を撫でる。
一瞬にして、体感温度が50度から25度くらいの、快適な春の陽気になった。
湿度も調整され、カラッとしている。
「うわぁ……涼しい! 生き返ります! さすがティア、天才!」
「命拾いしました……ありがとうございますティア様!」
「ふん、礼には及ばん。……ただし、帰ったらキンキンに冷えたアイスクリームを作れよ。トリプルでな。あと練乳もかけろ。チョコソースとナッツもだ」
「はいはい、お安い御用だよ。特大パフェにしてあげる」
ちゃっかり対価(甘味)を要求するティアだが、この魔法がなければ5分と持たなかっただろう。
一行は魔法の移動式エアコンに守られながら、灼熱の大地を進んだ。
目指すは、地下深くを流れる地下水脈と、マグマの熱源が交差する奇跡の場所、『運命のポイント(源泉)』だ。
「ここら辺の岩盤は硬そうじゃな。ミスリルが含まれておるかもしれん」
ガントンが愛用のハンマーで近くの岩をコンコンと叩き、その高い反響音を確かめる。
「水っ気がないですね。もっと下流でしょうか。植生も変わってきました。熱に強いシダ植物が増えています」
エリナも自作のダンジョン地図を見ながら的確な意見を出す。
過酷な環境だが、目的が「温泉」だと思うと、不思議と足取りは軽かった。
みんな、心の中では「早くあの黄金のお湯に浸かりたい」という欲望で一つになっているのだ。
その執念は、灼熱の熱気よりも熱く燃えていた。




