第38話 ロボの改造
魂を削り出した究極のクワ『プラチナ・ホー』を完成させた後、泥のように深い眠りに落ち、三日三晩を経てようやく復活したドワーフのガントン。
しかし、復活した彼の職人魂(という名の、抑えきれない技術的好奇心)は、一分の休息も知らなかった。クワの次に彼の鋭い眼光が捉えたターゲットは、庭でテオの作業着を丁寧に手洗いしていた、岩肌のメイドゴーレム、ロボだった。
「ふむ……。以前から思っておったが、興味深い構造をしておるな。ティア嬢ちゃん、こやつはお主が作ったのか?」
ガントンが顎髭をいじりながら、ロボを舐めるように観察する。
「そうだぞ。我が深層の強力な岩塊と、そこらで拾った高純度の鉄くずを素材にし、古代ゴーレム作成魔法を独自の理論で応用した傑作じゃ。この農場唯一の家事特化型魔導生命体だ」
生みの親であるティアが誇らしげに胸を張るが、ガントンは鼻を鳴らした。
「甘いな。実に甘い。素材はいいが、魔力回路の伝達効率がゴミ同然じゃ。これでは命令を受けてから動くまでに0.2秒のロスがある。それに、関節の可動域が狭すぎて掃除の隅々まで届くまい。何より……デザインに、作り手の信念としての『機能美』と『ロマン』が決定的に足りん!」
「なんだとぉ!? 我の最高傑作を馬鹿にするか!」
火がついた職人の意地。ガントンは猛反発するティアを言葉巧みに(「もっと可愛く、もっと強くしてやる」という殺し文句で)丸め込み、さらには未知の恐怖に「自己診断:危険度・極大」とアラートを出し続けるロボを、力ずくで工房へと連れ去ってしまった。
それからの数日間、工房からは「ガガガガガガ!!」「ピーィィィィン!」「火花注意! 退避せよ!」という激しい機械音や大出力のドリル音、そしてマッド・クラフトマンのごとく高笑いするガントンの声が地底湖まで響き渡った。
そして一週間後。
工房の扉が重々しく開き、中から戻ってきたロボ。外見こそ以前と同じ質実剛健な岩石の巨体に白いエプロン姿だったが、その纏うオーラ(魔力の指向性)は完全に別次元のものに変貌を遂げていた。
「マスター、並ビニ創造主・ティア様。改造手術、並ビニ初期設定……すべて完了シマシタ。全ステータス、当社比四〇〇%向上」
ロボが言うと、その右手がガシャン!とトランスフォームするように変形し、中から高速回転するミスリル製の万能ミキサーブレードが出現した。さらに、背中のバックパックからは高圧蒸気洗浄機のノズルが自在に伸び、足裏には地磁気を利用したホバーユニットが追加されている。
「調理機能、大幅拡張。ジャガイモノ皮剥きカラ、食材ノ分子レベルデノ粉砕・撹拌ガ〇.三秒デ可能デス。掃除機能、倍増。ホバー走行ニヨリ床面ヘノ負荷ヲゼロニ抑エツツ、鏡面仕上げノ磨キヲ実行シマス。さらに……」
ロボが目のセンサーを不吉な真紅に明滅させ、腹部の装甲板が左右にスライドした。
「農場安全保障プロトコル、追加。不審者・害獣撃退用ノ『超伝導ロケットパンチ』オヨビ、目に内蔵サレタ『全方位殲滅熱線レーザー』モ実装サレマシタ。これでカラス一羽近ヨラセマセン」
「それ、家事に絶対いらないよね!? ていうか全方位殲滅って何!? レーザーでトマトが焼き尽くされちゃうよ! ロマンの履き違えだよ!」
必死にツッコミを入れるテオだが、ロボは無機質な声で(どこか満足げに)答えた。
「イエ、マスター。農場防衛ハ究極ノ家事デス。不潔ナ害獣ハ……すべて消毒シマス」
どうやらガントンの漢の趣味(重火器と合心機構への情熱)が、多大に、かつ勝手に盛り込まれたようだ。
だが、ティアは「かっこいいではないか! これこそ我が求めていた鋼の美学じゃ!」と鼻息を荒くして興奮しているし、ポチもロボの新装備が放つ魔力の匂いに興味津々で、鼻を近づけてクンクンと嗅いでいる。
テオは頭を抱えながら苦笑いしたが、ロボがさっそく嬉しそうに(という推測でしかないが)脚部のホバーを使って滑るように移動し、高速回転ブラシでキッチンの床を、文字通り反射で顔が映るほどピカピカに磨き始めたのを見て、まあ良しとすることにした。
こうして、テオの農場は、戦力と家事力、そしてツッコミどころがさらに全方向へインフレしていくのだった。




