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第37話 至高の農具、進化

 三日三晩、工房の火は消えることなく燃え続けた。

 ガントンは不眠不休でクワを打ち続けた。

 食事はビールと枝豆だけ。

 テオは差し入れを持っていく以外は、集中を削がないよう邪魔をしないようにしていたが、工房から漏れ出る熱気と、渦巻く魔力の奔流に、ただならぬ気配を感じて毛穴が逆立つのを感じていた。

 時折、「うおぉぉっ!」「そこじゃあ!」「なぜ曲がらん、へそ曲がりめ!」「入れッ、魔力よ!」というドワーフ語の怒号と、大地を揺るがすようなハンマーの重い打撃音が聞こえてくる。


 そして四日目の朝。

 地底の夜明け(ヒカリゴケが明るくなる時間)と共に、唐突に音がピタリと止んだ。

 静寂が訪れる。

 煤と汗でボロボロになり、髭も髪も爆発したようになったガントンが、ふらつきながら工房から這い出してきた。

 その目には濃いクマができているが、口元は常軌を逸した満足げな、狂気すら感じる笑みを浮かべている。

 その手には、一本のクワが握られている。


「できたぞ……受け取れ、若造」


 手渡されたクワは、以前のものとは別次元の、恐ろしいほどの輝きを放っていた。

 柄は、世界樹の枝(ティアがへそくりとして持っていた最高級木材)を削り出して使い、手になじむワイバーンの革が巻かれている。

 そして刃の部分は、ミスリルとオリハルコン、それに微量のヒヒイロカネを絶妙な配合で混ぜ合わせた究極の合金で作られていた。

 表面には無数の古代ルーン文字がびっしりと刻まれ、まるで生きているかのように呼吸するように青白く脈動している。


「名付けて『ハイパー・ファーミング・ホー・マークⅡ・カスタム・アルティメット』じゃ」

「名前のセンスはともかく……すごいです。持っただけで分かります」


 テオが持った瞬間、クワが手に吸い付くように馴染んだ。

 重さを感じない。軽いのに、確かな存在感がある。まるで体の一部が延長されたかのような、神経が通ったような錯覚すら覚える。

 魔力を流してみると、一切の抵抗なく、いや増幅されて刃先に集束するのがわかる。


「試し切りといこうか」


 テオは庭の端にある巨大な岩(直径3メートル、以前ガントンが休憩用に座っていたやつ)に向かった。

 本来ならダイヤモンドカッターか、攻城兵器でもなければ傷一つつけられない硬度を持つダンジョン深層特有の黒曜岩だ。


「えいっ」


 軽く振った。力は入れていない。ただ、素振りをするように軽く振り下ろしただけだ。

 刃が岩に触れた瞬間。

 

 スパァァァン!!


 音もなく。

 本当に、豆腐に包丁を入れたときのような抵抗感すらなく、岩が真っ二つに切断された。

 切り口は鏡のように滑らかで、自分が切られたことに気づいていないかのように一瞬静止し、数秒後に重力に従って「ズズッ」と静かに左右にズレ落ちた。


「ええぇぇ!?」

「切れ味だけではないぞ。【自動修復】【魔力増幅(大)】【使用者の疲労軽減】【土壌改良補正+500%】【対象への防御無視】のオプション魔法もフルコースで付与しておいた。ついでに【錆び防止】と【盗難防止】もな」

「やりすぎです!! これじゃ農具っていうか、その辺の伝説の聖剣エクスカリバーより強いんじゃ……!」

「ふん、当たり前じゃ。農具こそが大地を拓く、最強の文明の利器じゃ。人を傷つけるだけの武器など野蛮人の道具に過ぎん。世界を切り拓くのは剣ではない、クワじゃ」


 ガントンはドヤ顔で名言っぽいことを言い放ち、そのまま満足感に満ちた顔で白目を剥き、地面に倒れるように爆睡した。

 こうしてテオは、間違いなく世界最強の武器(分類上はあくまで農具)を手に入れた。

 これがあれば、どんな荒地でも、たとえドラゴンの鱗だろうが、魔王の城壁だろうが、サクサク耕せるだろう。

 しかし本人は「これで硬い土も楽に耕せるな」としか思っていないのが恐ろしいところである。


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