第36話 鍛冶場建設
ガントンが正式に(というより向こうが勝手に宣言して押しかける形で)仲間に加わり、農場の一角に新たな施設が建設されることになった。
鍛冶工房だ。男の城だ。
場所はログハウスの離れ。ハンマーの打撃音がうるさいのと、炉の熱気や煤の対策のため、住居エリアからは少し距離を置いた風下の岩場が選ばれた。
基礎工事は土魔法が得意なテオと、重機代わりのタコちゃんが担当し、建材の切り出しと運搬はパワー自慢のロボが行った。
「ここが良い。地下を流れる地脈の熱を利用できるし、風通しも良い。何より、ビールを冷やすための湧き水が近くにある。最高の立地じゃ」
ガントンが選んだ場所に、ティアの魔法で作った特製の耐火レンガ(ダンジョンの特殊な赤土を数千度で焼き締めたもの)を積み上げていく。
設計図はガントンの頭の中にしかない。
彼の指示は的確で無駄がなく、職人技のような連携で、わずか数時間で立派な煉瓦造りの工房と、巨大な高炉の骨組みが出来上がった。
「火力はどうするのだ? ここのマグマを引いてくるか? 配管が面倒じゃぞ」
「いや、ティア嬢ちゃんの魔法があれば十分じゃ。魔力効率が段違いじゃからな。おい嬢ちゃん、お主、【炎帝の息吹】クラスの極大魔法は使えるか? 持続時間は無限で頼む」
「愚問だな。我を誰だと思っている。最上級精霊魔法だぞ。鼻歌交じりで使えるわ。……その代わり、後で肩もみをしてくれ」
「よし、ならばその炎をこの『封火の魔石』に固定しろ。炉の温度を常に2000度……いや、ミスリルを溶かすために3000度に保つんじゃ」
ティアとガントンの共同作業。
世界最高位の精霊魔法と、人間国宝級の鍛冶技術の融合だ。
完成した炉は、小型ながらも伝説の神剣クラスの武器さえ打てる、世界最高スペックのものになった。
さらに、近くの水路から引いた水車を利用した自動送風機や、冷却水循環システム、精密作業用のミスリル製工具類も一通り揃えられた。
「素晴らしい……! こんな設備、王宮の筆頭工房にもなかったわい! これなら今まで諦めていた加工もできる! わしの最高傑作が作れるぞ!」
ガントンは新しい自分の城(工房)にご満悦だ。
長く伸びた髭についた煤を拭うことも忘れ、炉の中で轟音を立てて燃え盛る魔法の炎を、まるで恋人を見るような目つきでうっとりと見つめている。
テオはお祝い(と燃料補給)に、樽いっぱいのビールを差し入れた。
「さて、まずは挨拶代わりじゃ。お主のそのボロボロに酷使されたクワを、最高の状態に打ち直してやるぞ」
ガントンがビールを豪快に一気飲みし、愛用の金槌(これも彼自身が打った、鈍く光るミスリル製だ)を手に取った。
その目は、先ほどまでのただの酔っ払い親父から、鬼気迫る職人の目に戻っていた。
空気中の魔力が共鳴し、ビリビリと肌を刺すように震える。
「素材は……ふむ、お主がさっき持ってきたこの鉱石を使うか」
ガントンが指差したのは、テオが畑の開拓中に出てきて「硬くて邪魔だな、漬物石にでもするか」と思って放り投げていた、青白く光る石の山。
それは、地上の冒険者が一生かかっても拝めない、最高級の魔法金属「オリハルコン」の高純度原石だった。
「なんでこんな国宝級のモンが畑からゴロゴロ出るんじゃ……しかも漬物石扱いとは……まあいい。最高のものを作ってやる。瞬きするなよ、見ておれ!」
真っ赤に焼けた鉄塊をアンビルに乗せる。
振り上げられたハンマーが、閃光のように打ち下ろされた。
カンッ、カンッ、カンッ!
澄んだ、高く美しい音が農場に響き渡り始めた。
それはただの鍛冶の音ではない。新たな伝説の始まりを告げる、魂の音色だった。




