第24話 二人のヒロイン
「……ん」
エリナが深い眠りから目を覚ましたのは、ログハウスに運び込まれてから三日目の朝だった。
ふかふかの枕の感触。
窓から差し込む、優しく温かい光(ヒカリゴケの明かりを鏡で反射させて取り込んだもの)に目を細め、ゆっくりと体を起こす。
死ぬ覚悟をしていた体の痛みは、嘘のように消えている。むしろ、以前よりも体が軽く、力が満ちているのを感じる。
「ここ、は……?」
「あ! 気がつきましたか!?」
エリナの声に反応して、椅子で仮眠をとっていたテオが飛び起きた。
そしてキッチンからは、「おはようございます、エリナ様!」と元気な声と共に、エプロン姿のテオ(分身?)が飛び出してきた。……いや、よく見ると顔がテオで体がロボットなんてことはなく、ただの寝惚けていない方のテオだ。
その懐かしい笑顔を見た瞬間、エリナの目から堰を切ったように涙が溢れ出した。
「テオさんっ! ああ、テオさん……! 生きて……本当によかった……!」
「エリナ様……! エリナ様の方こそ、あんな無茶をして……無事でよかった!」
感動の再会。
エリナはベッドから飛び出し、テオに駆け寄ろうとした。テオも両手を広げて受け止めようとする。
二人が感動の抱擁を交わそうとした、まさにその時。
「待った!! ストップだ!!」
二人の間に、目にも止まらぬ速さで割って入る小さな影があった。
ティアだ。
テオの前に立ちはだかり、両手を広げてバリケードのようにガードしている。
「そこまでだ、侵入者。テオに半径1メートル以内への接近許可は出していないぞ」
「えっと、あなたは?」
エリナが涙を拭い、目の前の銀髪の美少女を見つめた。
ティアはフンと鼻を鳴らし、これ以上ないほどのドヤ顔を披露した。
「ふん。特別に教えてやろう。聞くが良い。我はこの深淵の迷宮の主にして、テオの正式な契約者(大家)! そして将来の伴侶(予定)のティアラローズ・アビス・ディザスター様だ!」
伴侶発言は初耳だが、テオは突っ込むタイミングを失った。
対するエリナは、一瞬キョトンと目を丸くした後、すぐに柔和に、しかし眼光鋭くニッコリと微笑んだ。
聖女スマイル全開だ。背景に幻覚の後光が見える。
「あら、そうでしたか。はじめまして。私は聖女のエリナと申します。テオさんの元パーティメンバーで、彼をお慕いして、命懸けで地の果てまで追いかけてきました」
「なっ……お、お慕い……!?」
「ええ。これからは私もここに住んで、テオさんのお世話をさせていただきますね。身の回りのお世話から、夜のお供まで」
サラリと爆弾発言を落とした。
これは明確な宣戦布告だった。
ティアの顔が、トマトのように真っ赤になる。
「こ、断る! ここは我の家だ! 勝手な居候は認めん! 定員オーバーだ!」
「まあまあ。私は家事全般が得意ですよ? 掃除も洗濯も、料理もできますし、テオさんの得意な肩揉みもお任せください」
「か、家事ならロボがいるから間に合ってる! 間に合いすぎている!」
「ロボさんへの魔力供給もできますよ。聖女ですから効率は抜群です。それに、テオさんの好みの味付けや、恥ずかしい癖まで、私は全て熟知しています」
「はず……っ!? ぐぬぬ……!」
口喧嘩では、世間知らずの箱入り娘であるティアより、したたかなエリナに分があるようだ。
バチバチと視線の火花が散る中、完全に置いてけぼりのテオがおずおずと口を開いた。
「あ、あのー。二人とも仲良くしようよ。ね? せっかく再会できたんだし、みんなで仲良く……」
「「テオさんは黙っててください!」」
ハモった。
見事なシンクロ率だ。
顔を見合わせる二人。一瞬の沈黙の後、プッ、と吹き出したのはエリナだった。
つられて、ティアも口元を緩める。
「ふふ、息ぴったりですね、私たち」
「……ふん。まあ、トマトの害虫駆除の連携くらいなら、手伝わせてやらんでもない」
ティアも渋々ながら矛を収めた。
どうやら「テオが好き(大切)」という一点において、二人の間に奇妙な連帯感、あるいは共犯関係が生まれたらしい。
こうして、最強のライバル関係(?)が成立し、テオを巡る、賑やかすぎて胃が痛くなりそうな同居生活が幕を開けたのだった。




