第23話 看病と嫉妬
エリナがログハウスの客室(本来は物置になる予定だった部屋を急遽改装し、清潔なシーツと花を飾った)のベッドで深い眠りについてから、丸二日が経過していた。
テオはその間、ほとんど寝ずに付きっきりで看病していた。
汗を拭き、額のタオルを冷たい水で絞ったものに替え、特製の栄養スープ(薬草と栄養価の高い完熟トマト、そして滋養強壮に効くダンジョン産のハチミツを調合した回復特化食)を、スプーンで少しずつ口に含ませる。
エリナの体は衰弱しきっていたが、テオの献身的な看護と、この農場で採れた最高級の食材たちの力によって、少しずつだが顔色に赤みが戻りつつあった。
「うぅ……テオさん……行かないで……もっと……」
熱にうなされながら、か細い声でうわ言を漏らすエリナ。
そのたび、テオは彼女の冷たい手を両手で包み込み、強く握り返した。
「大丈夫ですよ。ここにいますから。僕はどこにも行きませんよ」
その声は優しく、どこまでも温かい。
だが、その献身的な様子を、部屋の入り口からじっと見つめる、不満げな視線があった。
ティアだ。
彼女は腕組みをして、壁に寄りかかり、頬を目一杯膨らませていた。足で床をトントンと貧乏ゆすりのように叩いている。
(……面白くない。全然、面白くない)
ティアの心中は穏やかではなかった。
今までテオの関心(と美味しいトマト)を独占していたのに、急に空から降ってきた見知らぬ女に、全部持っていかれた気分だ。
しかも、その女は自分にはないものを持っている。
聖女と呼ばれる清楚な雰囲気とか、大人の女性らしい豊かな胸とか(ティアは自分の平坦な胸元を見下ろしてチッ、と舌打ちした)、そして何より、テオとの過去の思い出という、今のティアには絶対に入り込めない領域を持っている。
特に、熱に浮かされながら甘えるように「テオさん」と呼ぶ声の響きは、何なのだ。反則ではないか。卑怯ではないか。
イライラが頂点に達したティアは、ドスドスと音を立てて部屋に入っていった。
「おいテオ! 少しは休め! もう三日目だぞ。お前が倒れたらどうする!」
「ありがとうティア。でも、エリナ様が目を覚ますまでは……」
「むぅ! 頑固者め! お前が倒れたら誰が明日のトマトを作るのだ! トマトのためだ、寝ろ! これは命令だ!」
ティアが強引にテオの腕を引っ張り、部屋の隅にある椅子に無理やり座らせた。
そして自分が仁王立ちになって、ベッドの横に陣取る。
「我が見ていてやる。精霊には睡眠は必要ないからな。魔力感知で容体の変化もすぐにわかる。医者代わりにはなるだろう」
「え、でも……ティアに迷惑はかけられないよ」
「いいから休め! これは大家命令だ! 家賃の代わりに言うことを聞け! 逆らうならトマト没収の刑に処す!」
テオは渋々ながらも、ティアの不器用な優しさに甘えることにした。
実際、疲労は限界を超えていた。
椅子の背もたれに寄りかかり、少し目を閉じると、泥のように深い眠りに落ちていった。
数分後。
規則正しい寝息を立て始めたテオを見て、ティアはふぅ、と息を吐き、少しだけ安堵の表情を浮かべた。
そして、改めてベッドで眠るライバル、エリナに向き直る。
近くで見ると、悔しいが綺麗な顔立ちをしている。長い睫毛、透き通るような肌。整った鼻梁。
「ふん、大した顔じゃないな。我の方が可愛いし。絶対可愛いし。目覚めたら勝負してやる」
そう強がりを呟きつつ、ティアは杖を振って魔法を行使した。
室温を最適に調整し、エリナの肌を浄化魔法で清め、乱れた布団を隙間なく直してやる。
やっていることは、テオと同じくらい献身的だ。
「……早く良くなれ。テオが心配しすぎてトマトの味が落ちるからな。……それに、お前が元気にならないと、正々堂々と勝負できんからな」
誰にも聞こえないような小声で付け加えると、ティアは気まずそうに顔を逸らした。
なんだかんだ言っても、根はお人好しで優しいダンジョンマスターなのである。




