第16話 ロボ誕生と暴走
家の骨組みは立派にできあがった。
だが、ここから先の工程――壁用の板材を大量に切り出し、一枚一枚張り合わせ、さらに家具や内装を整えるには、圧倒的に人手が足りない。
僕とティア、そしてポチだけでは、完成までに何週間かかるかわからない。
少しでも工期を短縮したい。
休憩中、僕は甘く熟したトマトをかじりながら、ティアに相談を持ちかけた。
「ねえティア、魔法で手伝ってくれるゴーレムとか作れない? 単純作業が得意で、力持ちで、文句を言わずに働いてくれるような」
「ゴーレムか? ふむ……作れる理屈はあるが……材料が必要だぞ。それに魔力制御の術式を編むのが非常に面倒なのだが……」
ティアは面倒くさそうにゴロゴロしている。
こうなったら奥の手だ。
「お昼ごはんに、とろとろ卵の特製オムライス(自家製濃厚トマトソースがけ)をつけるよ。卵はポチが取ってきてくれたコカトリスの卵を使うから絶品だよ」
「やる! 今すぐやる! 任せろ!」
卵料理、特に半熟系に目がないティアは即答で飛び起きた。現金なやつめ。
早速、材料集めだ。
ゴーレムの核となる魔石はティアが提供してくれた。
ボディの材料として集めたのは、ダンジョンの硬い岩石と、僕が畑を耕した時に出土した大量の鉄くず(かつてダンジョンに散った冒険者たちの装備の成れの果てだ)。
それらを平らな地面に描いた魔法陣の中心に山盛りにする。
「いくぞ! 我に忠誠を誓う鋼鉄の従僕よ、我が魔力を糧に顕現せよ! クリエイト・アイアンゴーレム!」
ティアが詠唱と共に杖を振るう。
まばゆい光が魔法陣から噴き出し、資材が空中に浮き上がり、融合し、形を変えていく。
岩石が骨格や筋肉のように隆起し、鉄くずが溶けて装甲となり、全身を覆っていく。
数秒後。
光が収まると、そこには身長2メートルを超える、岩と鉄の巨人が立っていた。
無骨で、威圧感たっぷりのマッシブなフォルム。
その頭部にある単眼が、ブゥン……という音と共に赤く怪しく光った。
「グオォォォン……!」
重厚な起動音と共に、蒸気がプシュッと排出される。
男の子なら誰もが憧れるロボットの姿だ。
「おお、すごい! かっこいい! これぞ男のロマンだ!」
「ふふん、我にかかればこんなもの造作もないわ!」
僕が拍手すると、ティアは得意げに鼻を鳴らした。
しかし、その直後だった。
「警告。警告。未登録生体反応ヲ検知」
ゴーレムから、低く機械的な音声(念話のようなもの)が響いた。
そして、巨大な拳をゆっくりと振り上げる。
「敵排除! 敵排除! 侵入者ヲ駆除シマス!」
ゴーレムの赤い視線が、創造主であるティアではなく、近くにいた僕にロックオンされた。
どうやら僕を「ダンジョンへの不法侵入者(敵)」、つまり排除対象と認識したらしい。
「うわっ、こっちに来た!?」
「なっ!? ティア! どうなってるの!?」
「す、すまん! 魔力回路の敵味方識別(IFF)設定をテキトウにしてしまったかもしれん! と、停止命令が効かぬ! 暴走しておる!?」
ティアが慌てて杖を振るが、ゴーレムは止まらない。
暴走ゴーレムが、ズシズシと地響きを立てて突進してくる。
その進路上には、僕だけじゃない。
苦労して組み上げたログハウスの柱がある。
あの一撃が直撃すれば、僕もろとも家は全壊、努力は水の泡だ。
「やめろぉぉぉっ!!」
僕はとっさに、近くの作業台の上にあった布切れを掴んで、ゴーレムの顔めがけて投げつけた。
武器ではない。
それは、布団を作る時に余った布で、僕が夜なべして縫っておいた「フリル付きエプロン(趣味ではなく、あくまで実用品として作ったもの)」だった。
ひらり。
舞ったエプロンが、ゴーレムの首に奇跡的にかかり、そのまま胴体にふわりと巻き付いた。
ピタッ。
その瞬間、ゴーレムの動きが凍りついたように止まった。
振り上げられた拳が、柱の寸前で静止する。
ブ、ブツン……という音と共に、赤い目が明滅し、やがて穏やかで優しい緑色に変わった。
「……ピピッ。装備変更ヲ確認。モードチェンジ、『ハウスキーパー』」
「えっ」
「オ掃除、シマスカ?」
重々しい電子音が、どこか家庭的な口調に変わった。
「家事全般、任セテ下サイ。私ノ使命ハ、農場ノ環境維持ト、マスターノ世話デス」
どうやら「エプロン=奉仕の心」という強烈な概念(あるいは僕が付与してしまった謎の属性)が、暴走していた攻撃的な思考回路を強制的に上書きしたらしい。
あるいは、僕の【加工】スキルで作られたエプロンに、「農具(家事道具)」としての支配権が宿っていたのかもしれない。
エプロンをつけた岩石巨人は、その巨体に似つかわしくない優雅で丁寧な動作でお辞儀をした。
「名前は……『ロボ』でいいかな」
「了承シマシタ。ヨロシク、マスター」
「うう……我の高度な攻撃魔術が、ただのエプロンごときに負けた……」
ショックを受けて膝をつくティアを他所に、こうして最強のメイド兼土木作業員(物理)が仲間に加わったのだった。
ロボの働きぶりは凄まじかったが、それはまた別の話である。




