第15話 ログハウス建築
「そろそろ、ちゃんとした家が欲しい」
ある日の朝食(焼きナスのスープとトマトサラダ)の席で、僕はそう宣言した。
現在の住居である「横穴式住居(改)」も、悪くはない。
夏(年中気温は変わらないが)はひんやりと涼しいし、秘密基地みたいでワクワクする。石スポンジのベッドも快適だ。
しかし、やはり湿気が多いし、密閉性が低いので小さな虫も入ってくる。
なにより、二人(と一匹)で暮らすには、物理的に手狭になってきたのが最大の理由だ。
ティアは自分の部屋(コアの間という豪華な空間)があるはずなのに、最近はずっと僕の横穴に入り浸っているのだ。
昨日なんて、僕が起きると隣でティアがポチを枕にして爆睡していた。寝顔は天使のようだったが、寝相が悪くて僕の布団を剥ぎ取っていたのは問題だ。
僕は一大決心をして、ログハウス作りを提案した。
「家か。我のコアの間を使えばいいのに。あそこなら部屋もたくさんあるし、空調も完備だぞ?」
「いや、やっぱりあそこはティアのプライベート空間だし、男が上がり込むのはちょっとね。それに、自分の手で自分の家を作るっていうのは、男のロマンなんだよ」
「ロマンか……。よくわからぬが、お主がそう言うなら仕方ないな。我も協力してやろう。家賃分の働きはせねばならんしな」
「ありがとう、助かるよ!」
ティアの了承も得たので、早速資材集めからスタートだ。
ダンジョン内には、少し離れたエリアに「鉄樹」と呼ばれる、金属のように硬い木が群生している森がある。
普通の斧では刃が欠ける、あるいは折れるほどの硬度を誇る厄介な植物だが、建材としては最高級品だ。燃えにくく、腐りにくく、極めて頑丈。
そして何より、僕のクワは「農具」であり、対象が「植物」である限り無敵だ。
「よし、伐採開始! せーのっ!」
カーン! という澄んだ高い音と共に、直径50センチはある太い丸太が切り倒される。
豆腐か大根でも切るような感覚だ。
倒れた巨木を、さらに必要な長さに切り揃え、枝を払い、皮を剥いでいく。
【木材加工】スキルが発動し、表面がつるつるの綺麗な円柱状に仕上がっていく。
次に、基礎工事だ。
平らにならした地面に、切り出した石材を敷き詰め、水平を取る。
その上に土台となる太い木材を配置する。
「よいしょ、っと! スキル発動、【結合】!」
本来は果樹の接ぎ木をするためのスキルだが、ここでは木材同士を分子レベルで融合させ、ぴったりとくっつけるために使う。
釘は一本も使わない。
日本の神社仏閣に使われる伝統工法のような「組み木」による構造的強度と、魔法的な結合による直接接着。
これにより、地震が来ても(ポチが暴れても)びくともしない頑丈な骨組みを作っていく。
「テオ、そっちは重そうだな。手伝ってやる!」
ティアが杖を振り、重力魔法を行使した。
赤黒いオーラが木材を包み込むと、僕一人では絶対に持ち上がらないような太く長い梁が、風船のようにふわふわと浮き上がった。
「これ、どこに置けばいい?」
「あ、そこの柱の上にお願い! 水平・垂直を意識して、ゆっくり下ろして!」
「お安い御用だ! そこっ!」
ガコォン!
ティアの精密な操作により、一ミリの狂いもなく梁がホゾ穴に収まる。さすがだ。魔法便利すぎる。
現代のクレーン重機よりも優秀かもしれない。
「ワンッ!(僕も運ぶよ!)」
ポチも負けじと、背中に石材や小さな木材を山のように積んで、運搬係として現場を走り回ってくれた。
みんなで一つのものを作り上げる。
今まで勇者パーティでは「雑用」として一人で黙々とやらされていた作業も、こうしてみんなで声を掛け合いながらやると、どうしてこんなに楽しいのだろう。労力は変わらないはずなのに、疲れよりも充実感が勝る。
数日後。
骨組みが完全に組み上がり、あとは壁と屋根を張り、内装を整えるだけというところまで進んだ。
骨組みだけでも、立派な家の形が見えてきた。
木の香りが漂う、温かみのある空間。
「すごい……本当に家になった」
見上げながら呟くと、ティアが隣で胸を張った。
「ふふん、我の魔法のおかげだな! 感謝するがよい!」
「はいはい、ありがとう大魔法使い様。完成したら、ここで盛大にパーティしようね」
その言葉に、ティアとポチが同時に目を輝かせた。
「パーティ! ご馳走だな!?」
「ワンッ! (肉ー!)」
自分たちの城ができる。
誰にも気兼ねなく笑い合える場所。
その期待感が、連日の作業の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれた。
さあ、あともう一息だ。




