第13話 土器を作ろう
文化的な生活を送る上で、どうしても解決しなければならない問題があった。
それは「皿がない」ことだ。
トマトや焼きナスといった固形物は、大きな葉っぱを皿代わりにしたり、平らな石の上に乗せたりすればなんとかなる。野趣あふれる盛り付けと言えなくもない。
しかし、スープなどの汁物はそうはいかない。
これまでは岩を削った即席の石器を使っていたが、重いし、口当たりもザラザラしていて良くない。熱伝導率も悪いので、スープがすぐに冷めてしまう。
やはり食事は、きちんとした食器で味わってこそ、その真価を発揮するものだ。
「というわけで、お皿を作ります」
「皿? どうやって作るのだ? また岩を削るのか? それとも木をくり抜くのか?」
「ううん、今回は粘土を焼くんだよ。土器ってやつだね」
僕はダンジョン散歩の時に目をつけておいた、地底湖の近くの粘土層へ案内した。
そこには、不純物が少なく、きめ細かい良質な粘土質の土が堆積していた。
これを必要な分だけ掘り出し、拠点へ持ち帰る。
まずは下準備だ。粘土に水を加えて練り、中の空気を徹底的に抜く。空気が残っていると、焼いた時に爆発してしまうからだ。
そして、いよいよ成形だ。
即席で作った手回しろくろ(平らな石と丸い石を組み合わせたもの)の上に、粘土の塊を置く。
「見ててね」
くるくると台を回しながら、指先で優しく、かつ大胆に形を整えていく。
本来なら熟練の職人技が必要な作業だが、ここでも僕のチートスキルが火を噴く。
【至高の農具】スキルの適用範囲は「土」全般に及ぶ。当然、粘土も土だ。
【加工・整土】の補正が入り、粘土がまるで生き物のように僕の指に従う。歪みは自動的に修正され、表面の滑らかさは極限まで高められる。
みるみるうちに、均整の取れたお椀や平皿、深皿、どんぶり鉢が出来上がっていく。
「おお……すごい! まるで魔法を見ているようだ!」
ティアが目を丸くして歓声を上げた。
「ティアもやってみる? 自分の好きな形を作れるよ」
「やる! 私は芸術センスには自信があるのだ! 魔界のピカソと呼ばれていたこともある!」
怪しい自慢をしながら、ティアが腕まくりをして粘土に向かった。
僕は横で指導しつつ見守る。
ティアは真剣な表情で、時々舌をペロリと出しながら、泥だらけになって粘土と格闘している。顔に泥がついても気にしていない様子が微笑ましい。
数十分後。
「……できたぞ。我の魂を込めた最高傑作だ」
ティアがドヤ顔で作品を披露した。
「えっと、それは……何?」
ティアの目の前には、歪んだ壺のような、あるいは苦悶の表情を浮かべて叫んでいる人の顔のような、前衛的すぎる物体が鎮座していた。
「テオの顔だ!」
「えぇ……僕、そんなに歪んでる? というか、穴が空いてないから何も入れられないよ?」
「心の目で見ればそっくりなのだ! それにこれは器ではない、オブジェだ! 魂の叫びを表現してみた!」
画伯だった。
まあ、本人が満足そうだからいいか。
僕が作った大量の実用的な食器たちと、ティアの作った謎のオブジェ(魔除けとして畑の隅に飾ることにした)を並べ、風通しの良い場所で乾燥させる。
そして翌日。
乾燥した器を、焚き火の中に投入して焼き上げる。
本来なら専用の窯が必要だが、ここにはない。だが、僕には【燃焼管理】というスキルがある。これも本来は野焼きのためのスキルだが、火力の調整や酸素供給をコントロールすることで、窯の中と同じような高温状態を作り出すことができるのだ。
「燃えろよ燃えろー」
数時間後。
火が消え、熱が冷めるのを待って取り出す。
焼き上がった土器は、素朴な赤茶色をしていたが、爪で弾くと「キンッ」と高く澄んだ音がする、立派な陶器になっていた。
「よし、完成!」
「おおー! カチカチだ! 叩いても割れぬ!」
その夜。
新しい器によそった野菜スープ(トマトとナスのコンソメ風)は、石の器の時とは段違いに美味しく感じた。
口当たりが滑らかで、スープの温かさが手に伝わってくる。
ティアも、自分で作った小皿(オブジェとは別に、僕の手ほどきで作った簡単な皿)を使って、満足げにスープを啜っている。
「やはり、自ら作った道具で食べる飯は格別だな!」
「そうだ音。生活が豊かになった気がするよ」
食器ができたことで、料理の幅も広がりそうだ。
次は煮込み料理や、蒸し料理にも挑戦してみよう。
そんなことを考えながら、僕たちは静かな団欒の時を過ごしたのだった。




