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ケンカをした場合(一)

 ここん所残業や休日出勤なんかをしていて、台風が来ているにも関わらず明日も休日出勤な訳だが。しかし思いがけず部長からシュークリームを頂戴したので、予定を変更して書かねばならぬであろう。


『スヤスヤスヤ』『トントントン』「うーん。これはドコだろう」

 さて、場面は例によって生田家のリビングである。

 テレビは消えているので、健やかなる明人の寝息が一番の騒音であろう。誰も止めようとはしないのが家族の優しさか。

 美雪は台所からリビングの様子を眺めながら、今の所順調に夕飯の支度をしている。チラっと冷蔵庫を見たが、それはシュークリームの分配について素早く計算をしただけ。料理とは関係ない。

 これから使うマヨネーズは、冷蔵庫から今出したばかり。


『マヨネーズとカスタードクリームって、案外似てるわよね』

 美雪はシュークリームを半分にするシミュレーションを始めていた。上下分離タイプであれば、上蓋をひっくり返してマヨネーズを詰めれば、もしかして明人は気が付かずに食べるかもしれない。

 原材料の大半を占めるのは卵で共通だし、もし『酸っぱい』とか言ったとて、『傷んだんじゃない?』と言えばそれで済む。

 よく考えて食べるか食べないかは明人の自由だ。美雪は鍋に入った粉吹き芋にマヨネーズを絞り出しながら考える。コレ、行けるな。


「お母さん、耳知らないぃ?」「知らないわよぉ」

 薫が振り返りもせずに聞いたのもあるが、美雪の返事もそっけない。しかし、それもそのはず。薫がトライしているのは『チーバ君パズル』で、行方不明になっているのは銚子市と旭市である。

 どちらも薫はまだ読めない訳だが、二つの市がチーバ君の耳を構成する、重要な市であることは認知しているようだ。問題はお片付けのときに、ポロリとやっちまっても気が付かないこと。

 昨日、東庄町がソファーの隙間から出て来たばかりだと言うのに、早速やってしまったのだろうか。


「お鼻の関宿町からやったら?」「もうやった」「あらそう」

 関宿町は野田市と合併したので、チーバ君パズルに記載は無い。

 しかし関宿の位置がチーバ君の鼻から移動した事実は無く、今も黒鼻のピースとして存在している。いつも一番最初に嵌るピースだ。

 そして次は目。耳、足と埋まって行く訳で。そしていつもなら一緒にやっている明人だが、今はソファーの上ですっかり寝ているって訳。いびきを掻いて。薫は『煩いな』と思いつつも、明人のお腹を背もたれにして座るのは嫌いじゃない。


「お父さんが持ってんじゃ無いの?」「えぇえぇ? あっホントだ」

 ダラリと垂れ下がった明人の手に、何やら赤いものが。薫は明人が起きないよう、そっと引っ張り出す。

 何て気を遣うことはしない。『返せ』とばかりに奪い取るのみ。

 大体疲れて寝ているのなら、それ位でいちいち起きたりはしない。


「お母さん、これドコだと思う?」「うーん。舌じゃないかしら」「下?」「そうそう」「こんな小っちゃいトコは無い」「あぁ、下じゃなくて、舌ね。ベロの方よ」「見つけたっ! ココだっ!」

 人に聞いといて、更には勘違いまでした挙句、勝手に見つけて礼も無し。大人だったらガツンと言いたくもなるが、相手は三歳児。文句を言う方が大人げないってもの。そもそも美雪は料理で忙しい。


「ニャーッ」『ゴシゴシ』「ニャーッ」『トコトコ』「ニャーッ」

 ほらほら。大人しく寝ていた怪獣椛が起きたではないか。

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