〇×クイズの場合(五)
「液体石鹸も固形石鹸も、効果は同じである」「まるー」「ニャー」
〇と言うでもなく、そして×でもなく。最早クイズでも何でもない。
薫が〇と答えたのを良いコトに、明人は椛に再び石鹸を渡す。チョンと触るだけでも構わない。そんな願いが垣間見えてか、椛は再び石鹸を拒否した。「ニャー」と叫んで指さす。
理由は一つしか無い。薫が液体石鹸を使っているからだ。
「十年早い。石鹸で良いんだ。ホレホレェ」「ニャーッ、ニャーッ」
薫が驚いて顔を上げる。ピタッと手も止まってしまっているが、明人が怒りだすでも無いと見るや、そのまま手洗いを続行する。
自分が何歳かは急には思い出せないが、少なくとも十歳にはなっていなかった気がする薫であった。明人の時間軸がおかしいのは別に今日始まったことじゃない。おじいちゃん家に行くのだって『三年』とか適当に言う位だし、気にするだけ損であると子供心に解る。
それより『椛のご機嫌』が斜めなのを、何とかすべきであろう。圧倒的な力の差で明人は椛に石鹸を使わせようとしているが、このままだと椛が泣き出すのは時間の問題であり、そうなると美雪が飛んで来ておやつが遠のく。これだけは避けねばならない。
「ほら椛、石鹸あげる。ねー」「ほら、お姉ちゃんくれたよ」「ニャーニャーッ」「要らないの?」「ニャーッ」「ありがとうは?」
椛は薫が用意した液体石鹸を拒否。駄々を捏ねて暴れている。多分『液体』を付けなかったのが『拒否の理由』ではないだろう。明人は椛の手に降り掛かった液体石鹸で、勝手に椛の手を洗い始めた。
薫に礼を言えと言った所で、椛が『センキュー』とか言う訳もなく、今だ液体石鹸を指さすばかりである。その指も明人の手で優しくへし折られた。少量でもゴシゴシ洗えば何とか泡立つものだ。
一方の薫だが、石鹸を手渡しした以上、再び洗わなければならぬ。椛が喜んでくれるのが『ベスト』ではあるが、このクソガキ。もとい。可愛い妹が薫の言うことを聞くのは、そもそもご機嫌がよろしいときのみである。騒ぎ始めたら、正直関わり合いたくはない。
「何やってんの?」「手、洗ってんのぉ」
騒ぎを聞きつけた美雪がやってきて、洗面所を覗き込む。
確かに手を洗おうとしているらしいが、椛の様子を見るに『拷問』とは行かなくとも、椛本人は相当お冠であるのは明らかだ。
「私は洗い終わったのぉ」「どれ、見せなさい」「ハイ」「ヨシッ。ってコラッ。人のエプロンで拭かなぁい」「良いんだモーン」
薫はエプロンの『綺麗な部分』で手を拭き、サッサと行ってしまった。これからおやつだと言うのに、何をそんなに暴れる必要があろうか。これだから赤子って奴は。と、思う薫も二年前は同類である。
「シュッシュッて、やりたいだけなんじゃないの?」「別にやらんで良い。ハイ。ジャジャバー。キレイキレイ」「ニャーッ!」
美雪の『母としての意見』は、効率化の前にあっさりと拒否されてしまった。明人も環境問題を語る程に神経質な訳ではないが、そんなことより、先ずはシュークリームを食べたい気持ちの方が勝る。
赤子の怒りなんて、どうせ数秒後にはケロッと吹き飛ぶに決まっているではないか。現に明人は『赤子時代の記憶』なんて一切無い。
「椛ちゃんは、ここをシュシュッとしたい。〇か×か?」「まるー」
美雪がボトルごと持ち上げて椛の前に持って来た。すると勢い良くポンプヘッドを押したではないか。生意気にも二回。出て来た石鹸の行先? そんなのボールへと一直線に決まっている。
満足した美雪は、同じく満足した椛を抱いて行ってしまった。




