〇×クイズの場合(三)
薫のリクエストで次の問題が始まった。明人は薫に甘い。
それは美雪も理解しているので、泣くまで追求したりはしなかった。何故なら『全員が忘れる』の中に、美雪も入っているからだ。
「トイレから出たら先ず、手を洗わなければならない」「まるー」「ニャー」「石鹸つけてね」「ですがぁ、続いてお風呂に入るのなら、省略することができる」「えー?」「ニャー」「こらこら?」
今度は難問である。薫の真似をしているだけの椛は置いといて、薫の方は『いつものこと』を思い出していた。
『ハイハイハイハイ。お風呂の前にトイレ行っとく行っとくぅ』
父に急かされてワーキャー言いながらトイレに行って、その後はどうしていただろうか。どうも思い出せない。
「〇か×か?」「まるー」「ニャー」「……」『カチャカチャ』
所詮は三歳児。他愛のない日常のことなど、何も覚えちゃいない。
〇か×かと聞かれれば、反射的に〇と答えるよう教育されている。とさえ思える早さでの回答に、美雪は渋い顔だ。皿を洗い続ける。
「正解!」「やったー」「ニャー」「……」『カチャカチャカチャ』
ものの良し悪しは別として、生田家の実態で言えば『その通り』である。だからこそ美雪の『皿を洗う勢い』が増すと言うもの。
自ら言った手前、今度から如何なる場合も『トイレから出たら手を洗う』なんて習慣を付けさせるか否か。これからの人生、あらゆるケースに対応して生きていくために、何が必要かを取捨選択する能力は必要であるとしてもだ。いや、何を迷っているんだか。
「ではお風呂に入るなら、ウンチをした後お尻を拭かなくても良い」「まるー」「ニャー」「〇か×か?」「拭きなさいっ!」「えー」
もしかして『確信犯』なのだろうか。〇か×かを問う前に、〇と答えてしまったではないか。しかし美雪の否定する勢いが凄い。
否定が強過ぎて、手が止まってしまっているのだが、本人は全く気が付いていないようだ。前々から明人を『ちょっとおかしいな』とは思っていたが『やっぱり予想通りだった』と思い直す他はない。
「ダメなのー?」「駄目に決まってるでしょ!」「えー」「貴方っ」
振り向いた明人の表情を見れば『外野からのチャチャ』なのかもしれない。しかし今のを聞き捨てられるほど美雪は寛容に非ず。
「椛はウンチしても、お尻拭いて無いジャン」「それはオムツだからでしょ? 薫もオムツするんだったら、拭かなくて良いわよ?」
この場合、三歳児の観察眼を褒めるべきか、頭ごなしに否定するかは意見が別れるだろう。そもそも薫だが、椛のオムツ交換に立ち会って来ただろうか。『うへぇ』と言って避難してばかり。
自分だってちょっと前まで『当事者』だった癖にだ。まぁ、そこを余り強く責めると泣いてしまうので程々にして置くとして。
「ウンチしたら、例えお風呂前であっても、お尻は必ず拭きましょう」「ハーイ」「ニャー」「それで良し。あっぶないんだからモォ」
何とか軌道修正成功。すると薫が、スッと手を上げたではないか。
「紙が無かったら?」「諦めて、手で拭きましょう」「ハーイ」「ニャー」「お母さんを呼びなさいっ! 大きい声で『紙ちょうだい』って叫びなさいっ!」「えー」「ニャー」「何その『えー』は!」「ハーイ」「不満そうなハイねぇ。おやつシュークリームなんだけどなぁ」「やったーっ!」「ハイハイ。じゃぁ手を洗って来る」「ハーイ!」




