第3話 追加料金をいたたくぜ!
山脈の上空を通過中、ナビちゃんのマップに赤いマークが現れる。
そこに目を向けると『アイスドラゴンの巣(就寝中)』と表示された。
「うひょう! そんなのもわかるのかよ。ナビちゃん、サンキュー!」
オレはドラゴンを刺激しないように、五キロ手前で急旋回した。
「こ、こらぁ! 旋回するなら先に言え!」
相変わらずピーピーうるさい客だな。
「わかったよ。次から……いや、さっそくそうなりそうだ。厄介なヤツが現れた」
「厄介なヤツ? なんだ、それは?」
視界の左上に現れた『EMERGENCY』の赤い文字と脳内で響く警告音。マップに目を向けると、赤いマーキングが全部で十個、正面からこちらに向かっている。
「ワイバーン空戦部隊がこっちに向かってきている。えーと、おい! ガルチ聖教国が手配した傭兵部隊となっているぞ? どういうことだ?」
「なんだと! どうしてそこまでわかる⁉」
ナビちゃんの情報収集力を侮っちゃいけないぜ。しかし、それを悠長に説明している状況ではない。
「聖教国……やはりそうですか」
美しい声の客がそうつぶやく。
「おい、お前さんたち、さっき『大陸の危機』とか言っていたな? これは、それに関係あるのか?」
ここはまだウィルハース王国の領空。他国の傭兵部隊が領空侵犯までしてこちらに向かってくるということは、友好的――というわけではなさそうだ。
「まさか、このような事態になろうとは――アナタを巻き込んでしまい申し訳ありません。私はウィルハース王国王女、フローネです。現在、帝国との緊張がガルチ聖教国の策略であるとの情報を得て、ダルタール皇帝へ直接戦闘回避を申し出るために赴くことにしたしだいです」
まあ、だいたい想像していたが――なるほどな。
「殿下! ただのワイバーン使いに、何も名乗る必要などないのでは⁉」
「いいえ、アンリエッタ。彼を巻き込んでしまった以上、こちらも礼儀をもってお願いしなければなりません。ワイバーン使いさん、なんとか、この状況を打破して、私たちを帝都まで送り届けてください!」
「――エリオットだ。礼儀と言うなら、こっちも名乗らないとな!」
「わかりました、エリオットさん。それで、どうですか? 可能ですか?」
「可能だって? 当たり前だ。オレは世界最高のワイバーン乗りだぜ!」
すると、相手は矢を放ってきた。明らかな敵対行為だ!
「敵さん、本気で殺しに来ているな。だが、機体性能はこっちが上だ!」
飛んでくる矢を避けるため、ジルを急上昇させる!
「きゃあ!」
「口を開けるな! 舌を噛むぞ!」
今度は急降下して、敵ワイバーンの列に突っ込む!
「バカ! どうして、相手に向かう⁉」
「だから、しゃべるな! 混乱させて、追いかけてこないように仕向けるんだよ!」
「うわっ! なんだ⁉」
そんな向こうさんの声が聞こえた。慌てて回避したので、陣形が崩れている。
「よし! 今のうちだ! ジル頼むぞ!」
「キィィィィッ!」
全速力で振り切ろうとするが、相手も手練れのようで、すぐに陣形を調えこちらに向かってくる。
「くそ、さすがに三人乗っていると、振り切るのは無理か」
それだけでない、相手のワイバーンもかなり速い。どうやら、ただの傭兵というわけでもなさそうだ。
「おい、追いつかれるぞ!」
「なあに、こっちには奥の手がある! ただし追加料金をいただくがな!」
そう言って、オレは背中のリュックに左手を突っ込み、球体の形をした物体を掴んだ。
「ファイア」
あまり魔法は得意でない。だが、小さな炎くらいなら出せる。
それで、導火線に火をつけ、後方へ投げた。
「後ろを見るなよ! 五分は何も見えなくなるぞ」
「――えっ!」
ピカーーーーーッ‼
激しい光が後方で炸裂する!
「閃光弾‼」
さすがに、相手は追いかけて来なくなった。
こうして、帝国領へ入ったオレたちは闇に紛れて、帝都に侵入。
「それで、どこに着地すればいいんだ?」
「私は一度、皇帝のお城に招かれたことがあります。それで、だいたいの間取りは把握しました。城の三階、大広間の前に大きなバルコニーがあります。そこなら、このワイバーンでも着地できる広さがありました」
「はあ? いきなり城のど真ん中に下ろせ――だと? 本当に大丈夫なんだろうな?」
なにせ、今にも戦争が起きそうな相手国の本丸だぞ。即刻、首を刎ねられても文句は言えない。
「皇帝なら、そのようなことはしないはずです」
最後の「はず」が引っかかるが、乗っかった船だ! こうなったら、どこまででもやってやる!
「世界の危機なんて言われちゃ、仕方ないぜ!」
帝都の中心にある巨大な城に、オレはジルを向かわせた。
「アレです! あのバルコニーです!」
「おっけい!」
たしかに広いバルコニーだ。マウンテンワイバーン種のジルでも余裕で着地できた。
「ありがとうございます、エリオットさん……すみません、ベルトの外し方がわかりません……」
「待ってな、すぐに外す」
ジルから飛び降りたオレは、フローネのシートベルトを外し始める。
「侵入者だ! 急げ!」
そんな声が聞こえると、パッと明るくなる。魔導士が光属性魔法を上空に放ったのだろう。
「おのれ! 堂々と城に侵入するとは! 早くひっ捕らえろ! 抵抗するなら殺しても構わん!」
殺しても――って、マジかよ。本当に大丈夫なのか?
「夜分、騒がせて申し訳ありません! 私はウィルハース王国王女、フローネ・ウィルハースです! どうか皇帝陛下へお目通りを!」
フローネは外套を脱ぎ捨てると、顔を覆っていた布を外して、そう叫ぶ。
美しいピンクのドレスと、銀髪には綺麗なティアラ。
うひょう! 本当にお姫様だったんだ! めちゃ可愛い!
「ウィルハース王女⁉ ほざけ! 王女が単身、敵国の城に侵入するわけないだろう!」
「控えろ! この方は本物のフローネ王女殿下であらせられるぞ! 武器を下ろせ! 王族に対する礼儀をわきまえろ!」
アンリエッタも外套を脱いで、そう啖呵を切る。
――ってか、メイド服だったのかよ!
「だから、そんなことを信じられるか! 構わん! 捕まえろ!」
ああ、そういうことになるよな……
「悪いが、陛下にお目通りさせてもらうまで、抵抗させてもらうぜ。なにせ、『大陸の危機』らしいからな! ジル!」
キイィィィィィィィィ――!
ジルが咆哮すると、集まった兵士たちが怯む――
「殿下、今のうちに!」
「は、はい!」
オレはフローネの手を取り、城の中へ向かう。
「させるか! 斬れ!」
「殿下、ちょっと待ってください」
「――えっ?」
オレは、剣を振り上げた兵士の胸元に飛び込み、防具のない顎へ拳を撃ち込む!
「ぐふぁっ!」
兵士が離した剣を空中で掴むと、それを前に向けて威嚇する。
「エリオットさん、アナタはいったい何者ですか?」
「悪いが、それを説明している余裕はない――アンリエッタさん、後ろは頼む!」
「わかっている!」
メイド姿のアンリエッタはスカートをたくし上げると短剣を手にして、構えた。
身のこなしからただの使用人ではないと思ったが、やはり殿下の護衛でもあったらしい。
それにしても、スカートをたくし上げた時に見えた、白い脚が目に焼き付いてしまった!
本当に、そんなことをするメイドさんがいたんだな!
「帝国、近衛騎士団の名をかけて、絶対に中へ入れさせるな!」
そう言って、オレの前にかなり腕前に自信がありそうな騎士が並んだ。
うーん、さすがに手こずりそうだ。
その時――
「戦いを止め! その者は間違いなくウィルハース王女だ!」
そのような声が上の階から聞こえた。
見上げると、威厳がありそうな白髪の男性が、めちゃくちゃ高価そうな紅色のガウンを着て、身を乗り出していた。
「へ、陛下!」
えっ? あれがダルタール皇帝⁉
「その者を玉座の間へ案内しろ。余も身支度を整えしだい、そちらに行く!」




