第4話(最終話) クエストコンプリート!
「――なるほど、帝国内に流れた王国のウワサは第三国が流したもの――と主張するのだな? フローネよ」
「はい、陛下」
真夜中、玉座の間で急遽、皇帝と謁見することになったオレたち――てか、なし崩し的にオレまで立ち会っているのだけど?
帝国側には「王国が軍を国境へ移動させようとしている」と、王国には「帝国が軍を国境へ集めようとしている」と、第三国が噂を流す。それにそれぞれ反応した両国が、実際に軍を動かしてしまった――
それが真相だと彼女は皇帝へ伝えたところだった。
「その証拠は?」
「ありません。ですがわが父、ベルフェルムに、帝国へ武力侵攻の意志はまったくございません。今、私がここにいることがその証です」
「うむ、どうやらそのようだな……相わかった。それでは双方が国境に代理人を送り、確書を取り交わす。そのあと、両軍同時に兵を引き、国境を解放する――それでよいかな?」
「ありがとうございます、陛下」
フローネが頭を下げる。ふう、なんとか話がまとまったようだ。
「ところで、後ろの男」
……ん?
「エリオットさん、アナタのことですよ」
――えっ?
ええぇぇぇぇっ!
ちょ、ちょっと待て。なんでオレが?
「キサマが、あのマウンテンワイバーンを使役している者か?」
陛下に質問され、「は、はい」となんとか返事だけする。
「そうか……キサマの名前は?」
「エリオットと申します」
「フルネームで申すがいい」
「いえ、わけあって家を追放されました。なので、今はファミリーネームがありません」
すると、陛下はニヤリとする。
「ふん。フローネよ、面白い従者を抱えているな」
「いえ、従者ではありません。ここまで連れてきてもらうために彼を雇いました。しかし、とても有能なワイバーン使いです」
「なんだと? ほう、王国にはこのような人材がフリーでいるのか? もったいないな」
「はい、私もそう思います」
殿下が振り向いて笑顔を見せた。
おいおい、そんなに持ち上げないでくれよ。
「よかろう。エリオットとやら、キサマに帝国領内を自由に通行できる手形を発行してやろう。もちろん、領空もだ。それがウィルハースの王女をここまで無事送り届けたことに対する、余からの謝礼だ」
な、なんだって?
突然のお言葉に、オレは呆然としてしまう。
「なんだ? それでは不服か?」
「め、滅相もございません。ありがたく頂戴します」
マ、マジかよ! 王国の民であるオレが帝国内を自由に飛行できる手形なんて、めちゃくちゃすげえじゃん!
つまり、両国間で営業できるってことだぞ!
「ただし、ひとつだけ頼み事がある」
皇帝陛下がそう切り出した。
「そ、それは?」
オレは息を飲む。
*
翌日、城内で豪勢な朝食をいただいたあと、ジルが待つバルコニーに向かった。フローネとアンリエッタ、それとダルタール皇帝陛下と一緒に。
なぜかというと――
「よーし、よーし! 可愛いなあ、ジルよ」
陛下がジルに顔を擦りつけて喜んでいる。そのだらしない笑顔は、昨日の威厳ある大帝のイメージとは程遠い。
まさか、皇帝が飛竜フェチだったとは――な。
昨日、最後に頼まれたこと――それは、ジルを触らせてほしいということだった。
陛下は若い頃ワイバーンに跨り、戦場を飛び回っていたそうだ。マウンテンワイバーンにも乗っていたことがあるらしい。
今朝も、朝食に同席して、ワイバーンの話で盛り上がった。
「エリオットよ、どうだ? キサマがその気なら、余の家臣にならないか?」
――へっ?
なんだって?
「爵位もくれてやろう。どうだ悪い話ではないだろう?」
「陛下、大変申し訳ありませんが、彼とは我がウィルハース王家の専属となる旨をただいま交渉中です。なので、まずはこちらに交渉権がございます」
そう、フローネが言う。
いや、それって初耳なんだけど?
「ハハハ! それは残念だ。だが、エリオットはどうなんだ? 皇帝と王家、どちらで働きたい?」
皇帝陛下がそうお尋ねになるので、オレはニッコリ笑う。
「大変、光栄なことですが、私はどこかに所属するつもりはありません」
そうさ、オレの夢は――
「このジルとともに、大陸中の空を飛び回る! それがオレたち、空飛ぶタクシーの仕事ですから!」
そんなことをオレが言うと、陛下にもフローネにも笑われてしまった。
「キサマは無欲であるな」そう、陛下に言われた。
無欲――なわけないじゃん。ただし、オレは金も名誉も欲していない。それ以上に大事なものがあることを知っているだけさ。
『第二の人生、やりたいことをやる!』
――と。
それを説明することはしなかった。代わりにこの言葉を残す。
「陛下、ご用の際は、ぜひこのエリオットとジルをご指名ください」
*
その日のうちに王都へ戻ったオレたちは、今度は国王陛下と面会する。
「エリオットよ、この度は誠に大義であった。そなたの活躍はフローネから聞いておる。これは、王国の危機を救ってくれたことに対しての褒美だ」
オレの前に、重そうな袋が置かれた。
巻き毛のかつらを被った男性が、羊皮紙を開いて、仰々しく読み上げる。
「今回の褒美として金貨、三十枚を与える」
うひょう! 金貨三十枚! 一年は遊んで暮らせるお金だ。深夜手当、危険手当、特急料金込みだとしても、充分以上の報酬をもらったことになる!
「それと王宮の隣にワイバーンも住める屋敷を贈与する。そこでの営業も国王陛下の名で許可する」
「エリオットさん、おめでとうございます。これであなたもギルドマスターの仲間入りですよ」
陛下のとなりに立っていたフローネがにっこり笑って、そう言ってくれた。
おおっ!
すげえ、馬車ギルドではなく、ワイバーンタクシーギルドとして独立できるということか!
「今日からエリオット・ラングレーを名乗るがよい。これは娘フローネを無事送り届けてくれた感謝とし、私個人の気持ちだ」
「ありがとう、ございます」
その時、『ピコーン』という電子音と共にナビちゃんの声が脳内に聞こえた。
『クエスト、コンプリートだよ!』
『緊急クエスト《王女からの依頼~大陸の危機を救え~》コンプリート!
ドライバーレベル 12に上がりました!
金貨 三十枚を手に入れました!(深夜手当、急行料金、危険手当込み)
空飛ぶタクシーギルドハウスを手に入れました!
エリオット・ラングレーに改名しました!』
よーし! ナビちゃん、この調子でじゃんじゃんクエストをコンプしていくぞ!
『おーっ!』
そう、これは元タクシー運転手だった転生者が、ワイバーン、ジルを相棒に『空飛ぶタクシー』を生業として、異世界の空を駆け巡る物語である。
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