第2話 『カーナビ』は旅の必需品
ワイバーンタクシーを始めて、最初のクエストは曰くありげな二人の女性。
ふたりとも黒い布で顔を隠し、黒の外套で中の服も隠している。
そして、「大陸の危機を救うために帝都へ向かう」と言う。
まあ、ただのタクシードライバーであるオレにとって、客が誰であろうと、安全に、そして確実に目的地に連れていくだけだ。
ギルドを出ると、馬車留めに向かう。
「ジル、悪いが今から帝都まで飛んでもらうぞ」
「ギュルルルゥ」
オレの言うことがわかったのか、ジルはオレに顔を押し付けてきた。
「ちょっと待て、こんな大きいワイバーンは見たことないぞ」
びっくりしたのか、客が大声を上げる。
「フフフ、コイツはマウンテンワイバーン種だ」
「マウンテンワイバーン種?」
どうやら、ワイバーンの種類までは知らないようだ。
オレが説明してやろうと思ったところに、もう一人の客、可愛い声の女に先を越される。
「一般的に飛竜騎士が乗るワイバーンは平地に住む、フォレストワイバーン種。比較的小柄で、扱いやすい種類です。このマウンテンワイバーン種は大柄で力がありますが、その分、乗り手の技量が試される――と聞きます」
なんだ、詳しいな。
「おうよ。オレは数少ないマウンテンワイバーン種の乗り手さ。だから、一度に四人の客まで運ぶことができる」
フォレストワイバーンじゃ、ドライバー含めて二人乗るのがやっとだからな。
「今、籠を持ってくるから、ちょっと待ってろ」
「かご?」
ギルドの倉庫から四人が乗れる籠を運んでくると、それをジルの首と足首に固定する。
「おい、背中に乗るんじゃないのか?」
「背中よりも胸の前のほうが、ワイバーンにとってバランスが取り易いんだ。そして、この籠も竹という軽い素材を編んで作ってある」
この世界で、竹を探すのは本当に苦労した。
「ここに、座ってくれ」
二人の客が恐る恐る竹製の籠に座る。
「それじゃ、失礼」
頑丈な皮で作ったベルトで客の身体をしっかりと固定する。
「おい! 彼女に触るな無礼者!」
声の可愛い、小柄なほうの客を籠に固定するため、肩や腰に触れると、もう一人がいきなり怒鳴り出した。
「しっかり固定しないと落ちるぞ。それとも、上空千メートルからダイビングでもしたいのか?」
「うぐっ……」
さすがにそう脅すと黙った。
無礼者か――やはりこの女性、かなり高貴な人物なんだな。
ガタガタとうるさい、もう一人の客もベルトでしっかり固定すると、オレはジルの首にまたがる。
「それじゃ、飛ぶぞ」
「えっ? うわっ!」
ジルが数回羽ばたくだけで、あっという間に上空へと舞い上がった。
「うわっ! 高い! 本当に落ちることはないのか?」
口の悪い客がさっきからピーピーとうるさい。
「なんて美しい夜景なのでしょう! これが王都なのですね!」
小柄のほうの客は身を乗り出して上空からの景色を楽しんでいる。
彼女のほうが、よっぽど肝が据わっている。
「それじゃ、速度を上げるぞ。ナビちゃん! 帝都までの空路を設定してくれ」
そう言うと、ナビちゃんがパッとオレの視界に浮かぶ。
『おっけい! こんな感じ』
すると、視界左下に、帝都までのマップが現れた。
『国境沿いは両軍が飛竜騎士部隊を配置しているから、制空圏を迂回しなければならないわね。推奨迂回路はこっち』
小さな女の子、『ナビちゃん』が説明すると、マップ上に赤い矢印が現れる。
「おい、なぜ山脈側へ迂回するんだ? ドラゴンがいるから危険だろ? ふつう、海側にしないか?」
『海側はこのあと天気が荒れる予報なの。ジル君とエリオットなら大丈夫だと思うけど、お客さんが揺れで酔ってしまうでしょ?』
「天気が荒れる?」
オレは、天気図を表示させて今後の一時間ごとの変化を確認する。たしかに、オレたちが通過する時間帯は、積乱雲が発生する予報になっている。
「ちっ、仕方ないか。まあ、ドラゴンよりジルのほうが速いからなんとかなるだろう」
「おい、さっきから一人で何をぶつぶつ言っているんだ?」
下からそんな質問が飛んでくる。
「ああ、わりぃ。オレの固有スキル『カーナビ』と話していたんだよ」
「……かあなび?」
まあ、この世界の人間に、いきなりその単語を言ってもわかるわけがないよな。
『カーナビ』は転生時に女神から授かったスキル。この世界の全地形を網羅しているだけでなく、数時間先の未来予知やリアルタイムの動体解析までこなす超高機能ナビゲーションシステムだ。
そしてその思考AIと音声機能が、マスコットキャラ『ナビちゃん』というわけだ。
『カーナビ』はオレの脳内で処理されているらしいので、他の人間は見えないのである。
「国境付近は軍がいるので、通り抜けできない。回り道をするから、一時間ほど到着が遅れるぞ」
「お、おい! 勝手に決めるな――うわぁぁぁぁっ!」
迂回のため、大きく旋回すると、生意気なほうの客がまた悲鳴をあげていた。




