第7話:地を這う咆哮(ソウル)、空を裂く歌声
リナリアのロック、シキのラップ、メルティの幻想的なコーラス。
三人の歌声が重なったとき、王都の地下練習場は、もはや「音楽」を超えた「現象」の場と化していた。
だが、俺――カズマは、まだ満足していない。
「足りないのは『地響き』だ。この三人の音を束ね、聴衆の心臓を物理的に掴んで揺さぶる、圧倒的な低音の支柱が必要だ」
俺が向かったのは、王都の地下闘技場。
そこでは、身の丈を優に超える巨大な鉄槌を振り回す、小柄な竜族の少女が、屈強な戦士たちを次々と薙ぎ倒していた。
【名前:ベル(竜族・元重騎士団員)】
【歌唱:88 / パワー:99 / 肺活量:120(異常)】
【適正:パワフル・ソウル・ボーカル】
【備考:竜族特有の『咆哮』が強すぎて、歌うと周囲の物を破壊してしまうため、歌うことを禁じられている。】
「……ふんっ! 次はどいつだ! 誰も私を満足させられないのか!」
ベルが吠えるたび、闘技場の空気が震え、観客が耳を押さえてうずくまる。
彼女は、その強すぎる力と声のせいで「騎士団の面汚し」として追放され、今は見世物小屋同然の闘技場で、孤独に戦い続けていた。
「ベル。お前のその『咆哮』、俺に売らないか?」
俺は闘技場の柵を飛び越え、砂埃が舞う舞台へと降り立った。
「ああん? なんだお前は。ひょろひょろの貴族が、私とやり合おうってのか?」
「いや、俺はプロデューサーだ。お前のその、地響きのような声を『破壊』ではなく『感動』に変えに来た」
「……笑わせるな。私の声は、人を傷つけるだけの呪いだ。歌おうとすれば窓は割れ、人は倒れる。だから私は、戦うしかないんだよ!」
ベルが悔しそうに鉄槌を地面に叩きつけた。その衝撃で舞台が爆ぜる。
俺は動じず、左目のプロデューサーアイを彼女の喉に固定した。
「それはお前の声が悪いんじゃない。お前の声を支えられる『音の壁』が、この世界になかっただけだ」
俺はリナリア、シキ、メルティの三人を舞台へと呼んだ。
「リナリア、アンプを全開にしろ! シキ、リズムで地盤を固めろ! メルティ、お前の光で音の輪郭を保護しろ! ――ベル、この三人の音の渦の中に、お前の魂を叩き込め!」
三人が奏でる爆音が、闘技場を支配する。
ベルは目を見開いた。彼女が今まで経験したことのない、自分の咆哮を「受け止めてくれる」巨大な音の塊。
「……これなら、私……思い切り、出してもいいのか……?」
「ああ。お前の声がなければ、このグループは完成しない。歌え、ベル!」
ベルが、その小さな体を弓のようにしならせ、咆哮を放った。
「――――おぉぉおおおおお!!!」
それは歌というより、魂の地鳴りだった。
だが、リナリアたちの音と重なった瞬間、それは破壊の衝動ではなく、聴く者の全身の血を沸騰させるような、究極にエモーショナルな**「ソウル・ボーカル」**へと昇華された。
【シナジー発生:『クアッド・ボーカル』の共鳴率 95%】
【特性:『重力操作』。音圧だけで観客を立ち上がらせる強制興奮状態】
「すごい……! 私、壊してない……! 私の声が、みんなと一緒に『歌』になってる……!」
ベルの瞳に、初めて歓喜の涙が浮かぶ。
だが、そこへ闘技場の興行主が、大勢の用心棒を連れて現れた。
「おい、勝手な真似をするな! その竜族は、俺が一生戦わせるために買い取ったんだ!」
「……買い取った? 面白いことを言う」
俺はリナリアたち四人の前に立ち、冷徹な笑みを浮かべた。
「ベルを縛っていた『呪い』を、俺は今、最高の『価値』に変えた。お前のような小悪党に、彼女の未来を管理する資格はない」
俺は指を鳴らし、控えていたレアルート家の私兵団を突入させた。
「カズマ様、ご命令を!」
「この闘技場の経営権、今この瞬間をもって俺が買い取る。……抵抗する奴は、ベルの歌声(爆音)の目の前で、一生耳鳴りに悩まされる刑に処せ」
【カズマの過保護レベル:Lv.4(四人同時守護・経済的制圧モード)】
圧倒的な財力と武力。そして何より、ベルの心を手に入れた俺の前に、敵は一瞬で瓦解した。
「……カズマ。お前、変な奴だな。でも、気に入った。私の声、全部お前に預けてやる!」
「ああ、任せろ。お前の咆哮で、世界中の度肝を抜いてやる」
ロック、ラップ、幻想、そしてソウル。
四つの個性が集まり、伝説の『PENTAGRAM』完成まで、あと一人。
「――最後は、広報とビジュアルの天才。……あの『追放令嬢』を迎えに行くぞ」




