第6話:耳元で囁く、魔法の歌声
リナリアとシキ。熱い太陽と冷たい月のような二人の歌声は、地下練習場に驚くべき熱気をもたらした。だが、プロデューサーとしての俺の直感が、さらなる「深み」を求めていた。
「今のままでは、まだ『破壊力』だけだ。聴衆をトランス状態に誘い、世界を塗り替えるための『幻想』が足りない」
俺は二人を連れて、王都の隅にある寂れた魔導具店へと向かった。
そこには、棚の陰でひっそりと、壊れた魔道具を磨いているエルフの少女がいた。
【名前:メルティ(エルフ・元宮廷魔術師候補)】
【歌唱:82 / ダンス:40 / 演出:98(覚醒前)】
【適正:ウィスパー・ボーカル&VJ(視覚演出)】
【備考:声の出力が極端に小さいが、魔力波長は究極に繊細。】
「……いらっしゃいませ。……あ、あの、何かお探し、ですか……?」
メルティの声は、耳を澄ませなければ聞こえないほど小さかった。彼女は「声が小さすぎて歌にならない」と聖歌隊をクビになり、さらに「火も出せない無能な魔法」しか使えないとエルフの里からも見捨てられた過去を持っていた。
「メルティ。お前のその魔法、見せてくれないか。……火を出す方じゃなく、光を散らす方のやつだ」
「……えっ? でも、これは……ただ、キラキラするだけで、何の役にも立たないって……」
彼女が怯えながら指を鳴らすと、周囲に淡い、けれど透き通るように美しい光の粒子が舞った。それは俺が見てきたどの魔法よりも、情緒的で、幻想的な輝きを放っていた。
「……最高だ。これこそが俺の求めていた『空間演出』だ」
「え……?」
「メルティ、お前の声は小さくない。**『耳元で囁くために調整された、奇跡の歌声』**だ。そしてその魔法は、世界を夢の中に閉じ込めるための演出なんだよ」
俺は、特注の『高感度魔導マイクロフォン』を取り出した。それは微細な吐息さえも拾い上げ、聴く者の脳に直接届けるASMR仕様の魔道具だ。
「さあ、歌ってみろ。歌詞なんてなくていい。ただ、その光の中に溶け込むように」
メルティは戸惑いながらも、マイクに向かってそっと唇を寄せた。
そして、囁くような、けれど甘く切ない歌声を漏らした。
「……あ、あぁ……。……ゆらゆら、揺れる、光の……海……」
その瞬間。マイクを通した彼女の声が、リナリアとシキが作った爆音の隙間に、スッと、驚くほど滑らかに染み込んでいった。
【シナジー発生:『トリプル・ボーカル』の調和率 92%】
【特性:『精神安定』と『熱狂』の同時発生】
「な、何これ……。私の声が、こんなに……綺麗に響いてる……?」
「メルティ。お前は無能なんかじゃない。このグループの『空気』を作る、唯一無二の演出家兼ボーカリストだ」
俺は彼女の細い手を握った。
だがその時、店の奥から、メルティを家畜のように扱っていた強欲な店主と、彼を支援する魔術師ギルドの使者が現れた。
「おいおい、勝手に俺の『道具』に触るな。そのエルフは、俺が一生ただ働きさせる契約になってるんだよ!」
「……契約、ね」
俺は、冷笑を浮かべながら一歩前へ出た。
リナリア、シキ、そして怯えるメルティを背中に庇う。
「カズマ様……」
「安心しろ、メルティ。お前はもう、こんな埃っぽい場所で壊れた道具を磨く必要はない。……俺がこの店ごと買い取って、お前を『光の女神』に変えてやる」
俺は懐から金貨の袋ではなく、一枚の『営業停止命令書』を取り出した。
「司祭の次は、ギルドの不正か。……お前らがメルティに強いていた違法労働の証拠は、すでに騎士団に回してある。さあ、選べ。ここで俺に彼女の権利を譲渡するか、監獄の中で一生を終えるか」
【カズマの過保護レベル:Lv.3(三人同時守護・法的殲滅モード)】
数分後。泣き喚く店主を尻目に、メルティは俺たちの仲間に加わった。
「……私、歌ってもいいんですね。……この光で、みんなを幸せに、してもいいんですね」
「ああ。お前が歌えば、世界は夢を見る。……三人揃ったな」
ロック、ラップ、そして幻想。
三人になった歌声は、もはや王都の誰にも無視できないほどの『うねり』になろうとしていた。
「――よし。いよいよ四人目、竜族のパワフル・ボーカルを迎えに行くぞ!」




