第5話:暗殺者のリズム、アイドルの咆哮
「……歌って、踊る? 私が?」
銀髪の少女――シキは、無機質な瞳で俺を見つめたまま、低く呟いた。
彼女の指先は、いつでも短剣を抜ける位置に固定されている。だが、その足元は、先ほどまでリナリアが奏でていた激しいロックのリズムに、無意識のうちに鋭い刻みを送っていた。
「そうだ。お前のその『殺しの歩法』は、極上のリズム感だ。そしてその低い声――それは、リナリアのハイトーンを支え、観客の心臓を直接揺さぶる『低音の刃』になる」
「意味が、わからない。……私は、追われている。静かな場所を、探していただけ」
シキがそう言い終えるより早く、地下練習場の入り口が荒々しく蹴り破られた。
現れたのは、どす黒い殺気を放つ五人の男たち。暗殺ギルドの追っ手だ。
「見つけたぞ、裏切り者のシキ! ……それと、ニヤけてる貴族のガキ。その女を渡せば、命だけは助けて――」
「黙れ、三流。今、俺は大事なレコーディングの最中だ」
俺は、男の言葉を氷のような声で遮り、一歩前へ出た。
リナリアとシキ、二人を背中に庇うように。
「逃げて、カズマ様! あの人たち、本物の殺し屋です!」
リナリアが悲鳴を上げるが、俺は振り返らずに指を鳴らした。
「リナリア、新曲のイントロを弾け! シキ、お前は俺の動きに合わせて『言葉』を叩きつけろ。内容は、そのクソ共への不満でいい!」
俺は身体強化魔法を起動し、敵の攻撃軌道を「解析」する。
襲いかかってくるナイフを、俺はダンスのステップのような最小限の動きで回避した。
「右、左、バックステップ。……ほら、リズムがバラバラだ。シキ、合わせろ!」
俺が敵の懐に飛び込む衝撃に合わせて、シキが、本能的に言葉を吐き出した。
「――邪魔。消えて。死角から、一撃」
低く、震えるようなアルト・ボイス。それがリナリアの爆音ギターと完璧にシンクロする。
シキの言葉は、ただの独り言ではなく、リズムに乗った「ラップ」として地下室を支配した。
「ガハッ……!?」
俺の拳が敵を撃ち抜くたび、シキの言葉が、そしてリナリアの歌声が重なっていく。
二人の声が重なった瞬間、俺の左目――プロデューサーアイが、未だかつてない『シナジー(相乗効果)』の数値を弾き出した。
【リナリア×シキ:共鳴率 85%】
【特性:『ツイン・ボーカル』の萌芽。破壊力が増幅されています】
「シキ、見ろ! お前の声は、誰かを殺すためじゃなく、この熱狂を完成させるためにあるんだ!」
五人の男たちが転がったところで、俺は息一つ乱さず、シキに向かって再び手を差し出した。
「追っ手なら、俺がすべて片付けてやる。……だからお前は、その声を俺に預けろ。リナリアと共に、世界を『分からせる』ためのステージに立て」
シキは、俺の手と、背後で『魔導エレキ・アックス』を抱えて自分を心配そうに見つめるリナリアを交互に見た。
「……あなたのリズム。……嫌いじゃない。リナリアの歌も、私の『声』に合う気がする」
「最高の自己分析だ」
「……わかった。あなたの言う『ユニット』。……やってみる」
【二人目のメンバー:シキ(Vocal & Dance)が加入しました!】
【カズマの過保護レベル:Lv.2(複数人同時守護モード展開)】
「よし、契約成立だ! リナリア、紹介する。お前のハイトーンを支える、最強のクール・ボーカリストだ」
「よろしくお願いします、シキさん! 私、二人の歌が重なった時、鳥肌が止まりませんでした!」
「……シキ。よろしく、リナリア。……カズマ、練習。……早く、やりたい」
熱い咆哮と、冷たい韻律。
重なるはずのなかった二つの声が、カズマの魔法によって一つの『音楽』へと変貌を遂げた。
――さあ、次は三人目。この熱狂を幻想に変える『囁きの歌声』を探しに行こうか。




