表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

第4話:世界に一つだけの『楽器』

「……えっ? 自由、ですか……?」


 翌朝。最高級の朝食を完食し、見違えるほど顔色が良くなったリナリアは、俺が差し出した契約書を見て目を丸くした。


 そこには、教会が彼女に対する一切の権利を放棄したことを示す、司祭の署名入りの公印が押されている。

 

「そうだ。もうお前は『呪われた聖女』じゃない。俺の事務所――まあ、今は俺一人だが――の所属アーティスト、リナリアだ。おめでとう。記念すべきデビューへの第一歩だ」


「あ、ありがとうございます……カズマ様……っ!」

 リナリアは契約書を抱きしめ、幸せそうに微笑んだ。

 

【メンタル:20 → 35 / 100】

【コンディション:喉の炎症が緩和。発声可能】


 よし、数値が動いた。プロデューサーアイで見ると、彼女の喉に宿る魔力の波形が、休眠状態から「スタンバイ」へと切り替わっているのがわかる。

 

「さて。自由を祝うのはここまでだ。リナリア、今日からさっそくレッスンを始めるぞ。お前の本当の才能を、お前自身に教えてやる」

 

 俺はリナリアを連れて、宿の防音完備の地下練習場へ向かった。

 リナリアは不安そうに、喉をさすっている。


「……あの、カズマ様。やっぱり私の声、変じゃありませんか? 歌おうとすると、どうしても音がザラついて、みんなが聴くような綺麗な歌にならないんです」


「リナリア。それは音が『汚れている』んじゃない。魂の出力が、既存の音楽を超えているだけだ」

 

 俺は彼女の前に、特製のケースを置いた。

 中から現れたのは、真っ黒なボディに、稲妻のような金色のラインが走る鋭利な形の楽器。


「これがお前のパートナーだ。名付けて『魔導エレキ・アックス』。お前の声に含まれる強烈な魔力震動を、熱狂的な『旋律メロディ』へと変換するための増幅装置だ」

 

 俺はそれをリナリアの肩にかけた。華奢な彼女には少し大きく見えるが、そのギャップが最高にカッコいい。


「リナリア。無理に優しく歌おうとするな。お前を否定した世界への怒りも、今感じている戸惑いも、全部その喉に叩きつけろ。……お前が叫べば、俺の魔法がそれを最高にクールな『ロック』に変えてやる」

 

 俺は指を鳴らし、音響魔法を起動した。

 地下室に、激しいドラムのビートと、地を這うようなベース音が鳴り響く。異世界には存在しない、疾走感溢れるロックのリズムだ。

 

「さあ、第一音だ。世界を黙らせる咆哮を聴かせてくれ!」

 リナリアは戸惑いながらも、大きく息を吸い込んだ。

 そして――

「――――ッ!!!」

 

 その瞬間、空気が爆ぜた。

 彼女の口から放たれたのは、ただの悲鳴ではない。

 ザラついた、けれどダイヤモンドのように硬質で鋭い**「ロック・ボーカル」**。


 激しいビートに乗った彼女の声は、聴く者の本能を鷲掴みにし、強制的に心拍数を跳ね上げる。

 

【歌唱:99(覚醒中)】

【ジャンル適正:ハイテンポ・ロック / エモーショナル・パンク】


 一曲歌い終えたリナリアは、肩で息をしながら、信じられないという顔で自分の喉に触れた。

 

「私……今、すごく……熱いです。胸の奥が、何かに突き動かされるみたいで……!」


「それが『ロック』だ。お前のその声は、人を眠らせるための子守唄じゃない。死にかけた奴の魂を叩き起こすための光なんだよ」

 

 俺は彼女の汗を拭きながら、満足げに頷いた。

 だが、その時。

 ――ガシャン。

 

 練習場の高い窓から、銀色の髪をなびかせた人影が侵入してきた。

 猫のようなしなやかな動きで着地した少女。その瞳は感情を欠いたように冷たく、腰には鋭い短剣が差されている。

「……騒がしい。……何の、音」

 

 彼女の頭上に浮かぶ文字を、俺のプロデューサーアイは見逃さなかった。


【名前:シキ(暗殺者ギルドの逃亡者)】

【ダンス:95 / メンタル:15】

【適正:メインダンサー / 備考:リズムに対する反応速度が異常。感情はないが、動きに迷いがない】

 

「二人目、発見……!」


 俺はリナリアを背中に隠し、新たな『才能』に向かって不敵に微笑んだ。

 アイドルの特訓初日に、早くもダンス担当が飛び込んでくるとは。

 

「よう、お嬢さん。お前のその鋭いステップ、人殺しに使うには勿体ないな。……どうだ、俺と一緒に、この爆音の中で歌って踊ってみないか?」

 

 カズマの「異常な過保護」の対象が、また一人増えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ